IT'S A WONDERFUL WORLD
昨日夜、家でちょっとしたバトルが起きて
家にいるのが嫌になって、23時に家を飛び出した
でも、そんな時間に行くあてもなくて
うろうろと駅前を彷徨いながら、つかんでいた携帯を開いて履歴を開く
一番上に表示されていた名前を見ながら、通話ボタンを押して
耳に、あてた
「今、暇?迎えにきて。家飛び出した」
そう告げて
苦笑気味に待ってろ、と言うその声に頷いて、時間をつぶすために本屋に移動
30分後、現われた姿にこれ以上ないくらい安堵しながら本屋を出て
あてもなく、少しだけ歩いた
「…家、帰らんでええの?」
問い掛けられた言葉に、何で帰らなあかんの、とぶっきらぼうに答える
そんな僕に彼は苦笑して
「ほなどっか行くか」
指差された先には、見慣れた白いバイク
え?と思う間もなく、はいとメットを手渡されて
夜の街を走りだす、白いメタリックフォルム
どこ行くの、とは聞かなかった
どこだって良かった
連れ去ってくれるのなら、どこでも
行き交う車の少ない車道を走り抜けて、バイクは覚えのある道を辿ってゆく
3年前、飽きるほど夜中通いつめた場所
湾岸高速
不意に腕を引かれて
肩をつかんでいた手を、しっかりと体に回された
「しっかり掴まっといて」
目線だけで振り返って、告げられた言葉
こくりと頷くと、それを合図にバイクはスピードをあげた
高い壁を擦り抜けて、瞬間ぱっと視界が開ける
やわらかなオレンジの光が、ずっと連なって
「横見てみ」
かけられた言葉に素直に横を見ると、闇をきれいに照らしだす夜景が目に飛び込んでくる
「うわぁ…!」
加速していく車の中で、飽きるほど繰り返し見た光景
でも、バイクで風を受けながら見るその風景はそれ以上に新鮮で
さっきまで泣きそうに気分が沈んでいたのが一転して、浮上していくのがありありとわかる
公道を走るときとは違って、どんどん加速していくバイク
向かいから肌をうつ風が痛いくらいで
シャツを、タンクトップをはためかせて通り過ぎてゆく
上部が遮られる車の視界とは違って、遮るもののないもないバイクから見る高速道路は本当に新鮮で
少し高い視界から見つめるその空間は、信じられないほど穏やかで、緊張感とスリルに満ちている
視線を滑らせれば、暗い闇に永遠続いていく、オレンジ色の道
夜空に浮かび上がっているようなその景色は、本当に壮観で
「すごい…」
呟く
車じゃ体感出来ない風とスピード
見える景色は昼間とは違ってひどく神聖で
数々のインターを過ぎ、出口を見送って
夜中でも稼働している工場の光や、海を見ながらバイクは突き進んでいく
電気の消えた天保山の観覧車
微かに光の残るUSJ
過ぎていく景色は一瞬で、でもそれが何物にも変えがたくて
そうこうしているうちに、バイクはあと少しで通い慣れた泉佐野のインターまで近付いていた
瞬間、不意にかけられる、声
「え?」
風でかき消されたそれを聞き返した僕の耳に、飛び込んできた言葉
「ここどこ?」
いや、ここどこって!
わかって走ってたんちゃうんかい!
とりあえず次下りるわ、といって出た先は助松インター
そうか、この先確か料金所があるんだ
そんなことを思いながら、とりあえず地図見たいからコンビニ寄っていい?と言う言葉に頷いて
近くのコンビニについた時点で、時計は既に1時を差していた
「よー走った…。南港で下りてたら道わかってたんやけど…」
そう言いながら、開かれた地図
隣で覗き込みながら、現在地を探す
気付けば県外はおろかだいぶ南下していて
ここにおったはずやんなぁ、と近畿圏内が示された地図の一角を指差して、で今はここ、と言いながら笑う
衝動的に出てきた割には、ずいぶんと遠出したものだ
それも、こんな時間に
「腕痺れたわー。ちょぉ休憩」
コンビニでお茶を買って、駐車場の車止めに腰をおろす
24時間あいている釣具屋さんや、過ぎていくトラックをぼんやりと見つめながら、
「コンビニでたむろすんのはありやけど、場所がおかしいよな」
「うん、大阪やからな」
そんな笑えないコントをして
コンビニのトラックが品物入荷しているのを見届けてから、とりあえずガソスタを探すわ、とバイクは走り出した
「南港でも行くかー」
「そやね」
燃料補給したバイクで、次に目指すはかの有名な(?)南港
工場地帯に迷いこみながらも、なんとかATCの方へ抜け出る道を発見し
「うぉ、ZEPP近!」
そんな発見と共に、ATCのすぐ傍にあった周辺地図を見る
そうか、こんな地理やったんか、この辺
そんなことを思いながら、ちょっとATCで休憩していくか、とバイクを止めて
ATCの中にある24時間営業のコンビニでお茶を買って、海側へ移動する
停められたフェリー、工場地帯か倉庫を照らしだすオレンジの光
ぼんやりとなんとはなしに見つめていると、不意にドライバーが眠い、とこてんと横になった
それもそのはず、時刻は既に3時を回ってて
しかも昨日の朝フェリーで帰省
疲れてて当たり前、それをさらに疲れさせるような無理させて申し訳なかったなと思う
無下に起こすわけにも行かず、黙ってその場に佇む
その後、10分もしないうちに起床
「まだ寝ててええよ?」
そう言うと、や、ええわ、と答えるドライバー
時計が差す時刻は4時半
「あんま道が遅くなったらこんでくるから。行こか」
その言葉にこくりと頷いて
その場を後にして、帰路についた
バイクで走り抜けるのを追うようにして、明るんでくる空
白っぽい空が、やがて赤く色付いてきて
朝焼けが、街を染める
眠っていた街が徐々に動き出す
すぐに車道は車で溢れ始めた
朝は嫌い
特に夏の朝は、ひどく早くてすぐにむせ返るように暑くなるから
朝は嫌いだ
夢が覚めるのを促すみたいだから
帰宅した自宅
さすがに家は静まりかえり、まだ寝息がその空間を充たしていた
着のみ着のまま、ベッドに横になる
タンデムに座っていたときはそうでもなかったのに、すぐに襲ってくる眠気
オヤスミナサイ、とメールをして、眠りについた
6時間半に及んだ逃亡劇はこうして幕を閉じて
夢も見ずに、眠った
20050810