こわい夢ってさ、起きた瞬間は最悪、って思うけど

そのときのために俺がおるんやろ?

 

you

 

ひどい夢を見た。
ヒステリックな笑い声が、姿のない影が、ずっと自分の後ろを追ってくる夢。
必死に逃げるのに、それはどこまでもどこまでも追いかけてきて、とうとう俺は黒い壁にぶつかって動けなくなってしまう。

「うわぁぁあ
―――

悲鳴を上げて、蹲る。
その瞬間、目が覚めた。



目を開けて、最初に飛び込んできたのは見慣れた天井。
暗さのために模様すら判別できないそれを一瞥した後、ゆっくりと両手で顔を覆う。
掌を濡らす、冷や汗が気持ち悪い。
どくどくと脈打つ心臓を上から押さえつけ、大丈夫だと自己催眠をかけるように小さく吐息を吐き出す。



―――大丈夫
ヒステリックな笑い声も、姿のない影も、もう俺を追ってこようとなんてしてない



微かに震えていた指先には気付かないふりをして。
俺は大きく息を吐きだすと、ぎゅっと手を握りこんだ。

「…トシヤ?」

不意に名前を呼ばれて。
びっくりして横を向くと、眠っていると思っていた薫くんが目を開けてこちらを見ていた。

「大丈夫か?…めっちゃうなされてたで、自分」

すい、と手を伸ばされて。
汗で貼りついていた前髪をかきあげられる。
少しひんやりした、薫くんの手が心地いい。

「かおる…くん…」
「ん?こわい夢でも見たか?」

抱き寄せられる、体。
どうしていつも薫くんは、こんなにも簡単に俺のことを見破ってしまうんだろう。

薫くんの胸に頭をくっつけて、擦り寄る。
俺よりも小柄なくせに、その胸はいつだって俺をこんなにも安心させて。
その匂いや、体温や、感触が。
何よりの精神安定剤なんだと、俺は認めざるを得なくなる。

「薫くん…」

規則正しい心臓の音を聞きながら小さく名前を口にすると、薫くんが、ん?と髪に口付けを落としながら問い掛けてきた。

「こわい夢、見た」

ぽつり、ぽつりと。
さっき見たひどい夢を口にする。

薫くんは決して急かしたりせずに、俺の髪に指を通しながら黙って話を聞いてくれて。
やがて話し終わって黙り込んだ俺の体を、やわらかく抱きしめてくれた。

「こわかったんやな」

ぽんぽん、と、頭を撫でてくれる手。
鼻先に薫くんの匂いがいっぱいに広がる。
擦り付けるようにして薫くんの首筋に顔を埋めると、耳元で薫くんがくすぐったそうに笑ったのがわかった。

「なぁ、トシヤ」
「ん?」
「トシヤは、こわい夢見るん嫌?」

薄いシャツ越しに、伝わる鼓動。
自分の鼓動が少しずつ薫くんのそれと同じテンポになってきたなぁ、なんて思っていたところに、かけられた言葉。
俺は少し頭を浮かせると、薫くんの顔を覗き込んだ。

「そりゃ、やだよ?だって、いいことなんて何もないじゃん」

笑えるわけでもなければ、楽しいわけでもない。
体が竦むような恐怖や、冷や汗びっしょりの中で目覚めたい物好きなんて、そういるものじゃないと思う。

「確かに、そうやな」
「だろ?」

そう言って、ぽすんと薫くんの胸に頭を乗せる。
そのまま黙り込んで、俺の髪に指を滑らせる薫くん。

何でだろ。
こんな単純なことが、今はやけに安心する。

恐怖で竦んでいた体が、少しずつ弛緩して。
冷や汗もひいて、自分にとって一番馴染んだ温度のなかでうつらうつらし始めていると、不意に薫くんが口を開いた。

「こわい夢ってさ」
「ん?」
「起きた瞬間は最悪!って思うやん?」
「あぁ、まぁ確かに」

耳元でダイレクトに響く薫くんの声。
眠る前の子供に本を読み聞かせているような、穏やかなこの声が実は好きだったりする。

「でも、そんなときほど誰かが傍におると安心せん?」
「…え?」

眠りの波に体を委ねていた俺の意識を、ぷかりと浮上させた言葉。
俺は眠たさに閉じかけていた目をしぱたかせると、顔をあげて薫くんを見つめた。

指先が、そっと俺の頬を確かめるように滑って。

「俺もな、たまにそういう夢見るわ。でも、起きてお前の顔見たら、なんか安心するっていうか…」
「……」
「そういう存在がすぐ傍におるっていうのは、すごい幸せなことなんやろなって思う」

どうしたんだろう、薫くん。
いつもは絶対そんなこと口に出したりしないのに。

「薫くん…?」

名前を呼ぶと、突然体勢を入れ替えられて。

「うわ…っ!」

組み敷かれて、さっきとは180度正反対の視界。
え、何、なんかいきなりヤる気になってる!?
目を白黒させる俺を尻目に、薫くんはそっと唇を寄せて。
甘く舌の先に歯をたてられる。
思うがままに口内を蹂躙して、息も絶え絶えな俺の首筋に顔を埋めて―――






「薫、くん…?」
「………」






薫くんは、眠っていた。

え、アリエナイでしょ…
何この中途半端な期待のさせ方…

ぶちぶちと文句を言いながらも、のしかかってきた体を抱きしめる。

薄い体。俺の腕が容易く回ってしまうような。
それでもそこには、俺を悪夢の恐怖から救い出して癒してくれる、強さや優しさが詰まっている。

「敵わねぇよな、ほんと…」

その声が語る言葉が、その口調が、その眼差しが。
いとも簡単に俺を陥落させる。
もう俺は、逃げらんないっていうのにさ。

「薫くん」

頬に小さく口付けを落として。
俺はそっと、抱きしめる腕に力をこめる。

次は薫くんの夢が見れたらいいな、なんて、心の隅でこっそりと願いながら。



薫くんに包まれて眠った夜。
こわい夢はもう見なかった。

 

END

 

僕のD*r同人小説の処女作
初書きはダーリンへ(めちゃ強引に)捧げました
山もなければオチもなしでごめんなさい...汗