stay with me

 

冷たい風が吹き荒れる中、首を竦めながら早足で家路につく。
久しぶりに1人で歩く、家までの帰路。

いつもなら隣にいるはずのダイくんは、今日はおらんくて。

「明日仕事終わってから連れと飲みに行ってきてええ?」

そう言われたのは、昨晩の話やった。



別に付き合ってるからって相手を束縛したいとも思わへんし、
逆に束縛されたいとも思わへん。
たまたま好きになって付き合い始めたのが同じバンドの同じメンバーやったから、
その流れで一緒におる時間が格段に長かっただけ。

寂しいから一緒におってくれな嫌やとか、そんな甘ったれたことを
言うつもりなんかさらさらなくて。

「えーよ別に。行ってきぃや」

付き合う前までは別々に帰るんが普通やったんやし。
そう思って、俺は特に表情を変えるわけでもなくあっさりとそう言った。



平気やと思ってた。
本当に。その時は。

―――けど、今は…

小さく溜息をついて、寒さに悴んだ手をポケットに入れてぎゅっと握りしめる。
見上げた空には、明るいネオンに照らされてか鈍い光を放つ星が寂しげに浮かんでいた。



乾いた風を切りながら、歩を進めて。
ふと、何気なく視界に入った風景に目を留める。

いつも肩を並べて歩く道。
ダイくんが煙草を買った自販機。
こっそりと無視して渡った信号。
階段の多い歩道橋。
ふわりと首にマフラーを巻かれた街灯の下。

人間っていうのは、いろんなことを覚えている生き物らしい。
それが例え、どんなに小さなコトであったとしても。



明るく照らされた街灯の下を通りながら、何日か前に
ダイくんとここを歩いたときのことを思い出す。
鼻を掠める、微かな残り香。
ダイくんのマフラーから香る煙草の匂いが、やけに気分をアンニュイにさせて。


「京くん、寒いやろ?」

自分だって寒いに違いないのに、そうやって俺を甘やかすダイくん。
女子供じゃないのにと思いながらも、実際そうやって甘やかされるのは
悪い気はせんかった。
人に甘えるのを極端に嫌ってたはずの俺は、いつの間にかそうやって
ダイくんに大事にしてもらって甘やかしてもらって。

気が付けば必要不可欠になってるその存在。

1人でも大丈夫やって、思ってた。
けど、やっぱり一緒におりたいって。
改めてそう思った。

特別な日だけじゃない。
今日みたいな何気ない日でも、2人だけで会って話がしたくて。

ただ肩を並べて、一緒に帰るだけ。
たったそれだけが嬉しいなんて。

そんなこと、面と向かって絶対言えへんけど。
会いたいっていう気持ちだけは、ほんまやから。



ポケットから取り出した瞬間、携帯がタイミングよく着信を告げて。
ディスプレイに表示させたメール。

『夜、少し遅くなるかもしれんけど家行くわ。寝ててくれてええよ』

まるで俺の思考を読んだかのような本文に、思わず笑ってしまった。

『早くな』

素っ気ないメール。たった一言だけを返信する。
ダイくんは、これを見てわかってくれるはず。
意地っ張りな俺の気持ちを誰よりも汲み取ってくれるのがうまいダイくんは、
きっと急いで来てくれるやろうと想像しながら。

携帯をポケットにしまい、再び早足で歩き始める。
知らず知らずのうちに顔が緩んでしまうんは、きっと気のせいや。
仕方ないから、何かコンビニで食べるもんと、酒でも買っといたるか。

『一緒にいないと、寂しい』なんて。

1人でも平気やったはずの俺をこんな気持ちにさせるんや。
しっかり責任をとってもらわんとな。



―――なぁ、ダイくん?

 

END