強く 強く 香る
甘い 甘い 君の 匂い
口唇を合わせた瞬間、鼻先をふわりと掠めたのは甘い匂い。
いつもの煙草の香りとは似ても似つかないそれを不思議に思い、
触れるだけで離れていった口唇をぼんやりと視線で追った。
「ん?」
見上げた瞳をどう捉えたんか、再び啄むように落ちてくる口付け。
戯れのようなキスが、なんだかひどくくすぐったい。
近付くたびに強く香る―――言うならば、甘い砂糖菓子みたいなその匂い。
ケーキを連想させるそれが、ヴァニラエッセンスに酷似した香りであることに
今更ながらに気付いた。
でも、何で―――?
自分の知る限りでは、今日はメンバー全員がほとんど1日中スタジオに籠もりっきりで。
ケーキは疎か、甘い菓子すら口に入れた覚えはない。
最も、1つのことに熱中し始めたら周りの見えないワーカーホリックなリーダー兼恋人に至っては
飯すらまともに食ってるかあやしい話ではあるが。
別に特別甘いものが好きなわけでもない、けど。
常に香るその甘い匂いには、どこか逆らいがたい魅力を感じて。
もっとそれを味わいたくて、俺は自分の上に覆い被さっていた
恋人である薫くんの首にゆっくりと手を回した。
「ダイ…?」
俺の唐突な行動にきょとんとしている薫くんを無視して、力を込めてその身体を引き寄せる。
相変わらず細い―――どこに人を押し倒す力があるんやろうと今でも不思議に思う―――身体から感じる、心地良い重み。
それにどこか夢心地になりながら、近付けた口唇をそうっとのぞかせた舌先でなぞった。
鼻先が触れ合う程の至近距離で、薫くんの目が驚きに見開かれてるのに気付く。
なぞった口唇からは、予想外に何の味もしない。
その香りが連想させる甘い味なんて全くの皆無で。
やったら内側なんかな、と薄く開かれたままになっていた口唇の隙間から
咥内へと舌を滑り込ませた。
それは蜜を求める蜂のように本能的な、無意識下での行動で。
貪るように咥内を舌で探る。
歯列をなぞって、舌を絡め取って。
上顎を舌が掠めた瞬間、薫くんの身体がびくりと震えた。
でもやっぱり、舌に感じるのはいつもと同じ―――苦い、煙草の味。
甘い匂いばかりがさらに強くなるだけで、甘い香りの正体などどこにも見当たらない。
何処か意地になってさらに咥内をくまなく探っている、と。
「んぅ…っ!?」
それまでされるがままだった薫くんに、急に舌を絡めとられて。
舌先の感覚がなくなりそうな程に強く吸い上げられる。
めずらしく余裕のない状態で、早急に服の裾から手を差し入れられ、肌をなぞられて。
息もつかせてくれへん口付けに翻弄され、思うがままに口腔を蹂躙されて、
肩で息をついている俺の耳元に、これまた余裕のない囁きが落とされる。
「お前が、煽ったんやで」
熱っぽい吐息と共に耳朶に歯をたてられ、まさぐられる肌。
抗議しようにも言葉は声にならず、自分のものとは思えぬ甲高い喘ぎの中に消えていく。
「ッ、かお…」
「ダイ…ッ」
深く深く、交わりあって。
引き寄せた身体、近付いてくる口唇から、ヴァニラの匂い。
熱と快感でトランスハイになった俺たちを更に煽りたてていく、甘い甘い―――絶妙の調味料。
スパイスが加えられた行為が、更にヒートアップしていくのは目に見えていて―――
「は…?リップクリーム…?」
「そ。ヴァニラの匂いやろ?」
明け方、空が段々と白み始める頃。
これ以上ないくらい怠い身体を持て余したまま、俺は隣で煙草を吹かしている薫くんの言葉を
まだうまく思考の回らへん頭で反芻していた。
「…リップ…」
「スタジオって煙草の煙とかめっちゃ籠もって埃っぽいやん?それでつけててんけどな。
まさかこんなオプションがついてくるとは思わんかったわ」
甘いヴァニラの香りはいつしか俺だけでなく、薫くんの理性すら剥がれさせていたらしい。
薫くんの口唇から俺の肌に移されたその匂いは、やがてお互いの思考回路すらも甘く焼いて。
「ちょお頑張りすぎた?」
「いや、ちょっととか言う範疇じゃないねんけど…」
紫煙を吐き出しながら苦笑気味に問いかけてくる薫くんに、思わず俺も苦笑い。
外しすぎたハメのツケが、今になってようやく回ってこようとしていて。
指1本動かすことすら億劫なこの身体。
好きなだけ貪られた身体は、ただ静かに休息を欲していて。
「……眠い…」
「そやな…そろそろ寝よか」
じ、と音をたてて灰皿の上で煙草が捻られ、残った紫煙がふわりと空気に紛れて消える。
薫くんは寝転んでいた俺の横にごそごそと入ってきたかと思うと、
そのまま抱き寄せて触れるだけの口付けを落としてきた。
強く香るのは、いつもの煙草の匂い。
ヴァニラとは似ても似つかぬその味は、苦いくせにとろけそうな程に甘い。
「ダイ、おやすみ」
ヴァニラよりも蜂蜜よりも、甘いその声。
俺をべたべたに甘やかしてくれる、その存在。
「ん、おやすみ…」
その腕の中は、いつも極上の甘さに満ちている。
END
『Black Mercy』早矢さまへ相互記念としてお捧げいたします!
堕威薫か薫堕威とのリクでしたので、今回は薫堕威にさせていただきました
少しでも楽しんでいただければうれしいです
早矢さん、これからもよろしくお願いしますね!
リクエストどうもありがとうございましたv