初めてその身体を目の当たりにした時

何てキレイなんやろう

と、思った

 

sculpture

 

きっかけはほんの些細なことやった。
確かツアー中か何かで、汗だくの身体を引きずってシャワーを浴びに行って。
男同士でましてや今更恥じらうほどの間柄でもないわけやし、と何も気にせずに着ていたシャツを脱ぎ捨てて。
何気なく視線を移した先、同じように服を脱ぎ捨てているトシヤがおった。

俺の視線に気付くことなく、身体のラインが綺麗に出るタンクトップを脱ぎ捨てたトシヤ。
日に焼けることを知らない白い肌が、惜しげもなく露わになって。

「……」



今まで見慣れていたはずのその身体が、急に。

ひどく神聖なものに見えた。



「ダイくん?」

ぼんやりしていた俺の前で、トシヤがひらひらと手を振る。

「え、あ、何?」
「や、何かぼーっとしてたから。何、俺のビボーに見とれてた?」
「アホか」

まさにその通りやってんけど。
そんなことをバカ正直に言えるはずもなく。
何考えてんねん俺、と先程まで思考回路を占めていたことを追い出すように無理矢理服を脱ぎ捨てて、シャワールームのドアを開け放った。



打ち上げもそこそこにホテルの部屋に帰って。
着替えるのも億劫で、そのままの格好でベッドに横になる。

目蓋を閉じた瞬間、浮かんだのは先程見たトシヤの白い身体。

「…変態くさ、俺…」

別に、欲情したわけやない。
ただ、その造形物のような美しさをもったそれが、頭から離れへんだけ。
例えば美術館で良く出来た彫刻を見ているような。
そんな、感覚。






それからしばらく経って。
何がどう転んだのかはわからへんけど、所謂『恋人』という間柄になったトシヤと俺。
まぁ付き合う前からもずっとつるんどったし、波長が合うんか一緒におるのが楽しいし落ち着くし。
ならいっそのことお付き合いをしましょうか、って言ったところで、そんなに劇的な変化があったわけでもなく。

ただ、1つだけ変わったことといえば。
世間で言うところの、夜の関係、ってヤツだろうか。



正直、トシヤを抱く寸前まで、欲情するんかなってずっと考えとった。
男同士やからどうこうってわけじゃなくて。

普段はどちらかと言えば冷たそうな印象を持つ白い肌。
綺麗に育て上げられた筋肉。
細いライン。
あまりに揃いすぎた条件を兼ね備えたトシヤの身体は、やっぱり何度見てもキレイで造りモノめいてて。

だから、この手で触れることもほんまは躊躇っとった。

壊してしもたらどうしよう、とか。
汚してしもたらどうしよう、とか。

そんな思いはやっぱり形となって現れて。
躊躇いがちにしか手を伸ばさへん俺に、トシヤは閉じていた目を開いてきっぱりと言い放った。

「俺、そんなキレイな存在じゃないよ?
 …ダイくんが汚すっていうんなら、汚されてもいいし、俺」

だから躊躇わないでよ、とトシヤは俺の手を取って。
両手で包み込むようにして、掴んだ手を自分の心臓の上においた。

造りモノめいた身体。
それでもその身体には体温が宿っていて、鼓動が響いてる。

「…トシヤ」
「彫刻でも人形でもない。…人間だよ。汚いところも狡いところも持った、ね」

だからこういうこともしたい。
そう言って、トシヤは俺の首に手を回して口唇を寄せた。

絡み合わせた舌。
やわらかで熱いくらいの体温を伝えてくる、感触。

「…う、ン……」

身体に手を滑らせれば、ひんやりした印象を醸し出していた皮膚は徐々に温度を上げて。
うっすらとピンク色に染めていく。

…キレイやと、純粋に思った。

触れるたびに声を上げて、身体を震わせて。
そうやって反応を返してくるトシヤが、ひどくキレイ。
何の反応もない無機物よりも、ずっとずっと目を奪われる。

「ダイく…ンッ!」

浮かべた生理的な涙も、その頬を伝った汗も。
必死に縋り付いてくる白い腕も、力無く震える足も。
背中に立てられた短い爪も、ピンと張られた指の先も。

全部が愛おしくて。

欲情するんかと訝しんでた自分が嘘みたいに。
その身体が放つ壮絶な色香に魅せられて、貪欲に溺れていく。

「トシヤ……」

名前を象って、口付けて。
あがる嬌声を飲み込んで、覚えたてのガキみたいにその身体を貪る。

「ダイ…ッ、ア、あぁッ……!!」

熱に浮かされた表情も、濡れた口元も。
何の表情も読み取れない造形物より、ずっと妖艶に俺の目を惹いて。



初めてやっていうのに、ひどく自分勝手な抱き方をした。



意識をとばしたトシヤの身体を、静かに横たえて。
少し開かれたままの口唇に、そっと口付けを落とす。

頬を伝った幾筋もの水滴の跡。
閉じられた目蓋の周りは赤く腫れていて、少し熱を持っているのがわかった。

「ごめんな、トシヤ」

勝手な男でゴメン。
聞こえてないやろうけど、何度も繰り返しながらその目蓋に口付ける。
よくよく思い出せば、そんな無茶な抱き方をした俺を、トシヤは一度も止めようとしなかった。
受け入れるのは初めてで、恐怖だって痛みだってあったやろうに。
それでも何も言わなかったトシヤを思い出して、さらに自分を責めた。

もっと優しくしてやれたはずや、とか。
もっと気を遣ってやれたはずや、とか。

手を出すのを躊躇いながら、気が付けばその身体に溺れて。
気遣ってやれへんほど、夢中になってた。
駆け引きを知らんガキでもないのに、今までの経験で得てきた知識なんてほとんど飛んで。
ただ、トシヤしか目に入ってなかった。



綺麗に後始末をしてやって、その身体を抱き寄せる。
無意識にか、擦り寄ってくる身体。
俺の右肩辺りに頭を預けて、トシヤはそのまま静かに寝息を零している。

少し頭を傾けてその額に口付けると、煙草とシャンプーと、それから汗の匂いが鼻を掠めた。



先程までの壮絶な色香が嘘のように、子供のような表情を浮かべて眠っているトシヤ。
闇に慣れた目が、青白く浮かび上がるその顔を映し出して。

こういう表情は彫刻みたいや、と思う。
あまりにキレイで。息が止まりそうになる。

「…トシヤ……」

でも、トシヤは人間で。
生きていて、呼吸をしていて。
いろんな表情を浮かべ、そのたびに俺を魅了していく。

結局、俺はトシヤっていう人間が好きで。
その性格も、表情も、身体も、何もかもをひっくるめて、好きなんやと思う。

何か1つ欠けても足りひん。
その総てで構成された、トシヤっていう人間が、好き。

キスしたいって思うのも、セックスしたいって思うのも。
きっと俺らが人間やから抱える感情なわけで。

この想いは何よりも純粋で、汚れがない。

「…愛してんで、トシヤ」

一点の曇りもない想いをその耳元で囁いて。
そっと唇を合わせてから、ゆっくりと目を閉じて夢の世界へおちていく。



どんなに素晴らしい美術品よりもキレイな恋人を、腕にしっかり抱きしめたままで。
迎える朝は、何よりも幸福に満ちていた。

 

END

 

初堕威敏
元ネタは、DVDを見て不意に思ったこと
僕はめっちゃ綺麗やと思うんです、あの身体
有名な彫刻みたいな身体やなぁって
それで手を出すのを戸惑うダイくんが書きたかった
黙ってたら造りモノみたいだけど、触ったら体温があって
そういう人間的な部分に惹かれていく、のを書きたかったんですけど
明らかなる技量不足です…涙 精進します…