lingering scent
不意に意識が浮上して、俺はゆっくりと目を開けた。
「………」
暗い闇の中、目に飛び込んできたのは白く浮かび上がる人肌。
まだ正常に動いていない頭が少しずつ稼働しはじめて、あぁ、ダイの腕の中、か…と今の状況を把握する。
俺の腰と背中を抱き抱えるようにして眠っているダイ。
少し伸びた髪が、静かに寝息をたてているダイの表情を隠している。
普段は人懐っこい笑みを浮かべている印象が強い分、俺を抱くときのダイの表情はたまにはっとさせられることがあって。
そりゃ仕事の上での真剣な表情や、怒った表情も見たことがないわけじゃない。
人懐っこい笑みも、二人だけのときやわらかく微笑む表情も、いろんな表情を見てきた。
でも、何て言うんかな。
見つめられるだけでぞくぞくしそうな、熱っぽい視線とか。
その口元に浮かべられた、口角を上げた笑みとか。
そういう『オトコ』の表情をされると、大した抵抗をする前に簡単に引き込まれてまう。
くやしいけど、何回経験したって敵わへん。
ちょっとは慣れろやって言われるかもしれんけど、ほんまにその通りで。
たぶんダイは、その辺の切り替えが秀逸なんやと思う。
普段通りに接してたかと思えば、急にころっと雰囲気を変えて。
意味ありげに俺の身体を抱き寄せて、耳元で名前を呼ぶねん。
「薫…」
って。わざと、ちょっと掠れた声で。
情けない話やけど。
それをやられるとほんまにダイの思うがままで。
たまには突っぱねたる!って意気込んでみても、耳朶に歯をたてられて下肢をまさぐられれば、
押し返そうとしてた手は逆にダイを引き寄せようとしてる。
そんな俺の仕草を見ながらダイはニヤニヤ。
…しゃーないやんけ!
こんな身体にしたんはどこのどいつやねん!?
………なんて文句を吐けるはずもないんやけどな。
別に、この状況が不満、ってワケやない。
何だかんだダイに流されててもそこに俺の意志はあるわけで、ダイやからって思う部分もある。
泣き顔もよがってるとこも、全部見られとんやから今更かもしれんけど。
それでもやっぱり、プライドが邪魔するんよな。
なんで当たり前のように男であるダイに押し倒されとんやろ、とか。
なんで俺は抵抗せぇへんのやろ、とか。
考えだしたらキリがないけど。
………………
なんや思考が不毛になってきた。
そういえば…
「喉渇いた…」
急に自覚しだした喉の渇き。
よくよく考えたらこの部屋換気もしてないから空気淀んでんな…
ついでに窓開けたらええか…
被っていたタオルケットを静かに剥いで、大して力の入ってないダイの腕をそーっと持ち上げて。
ダイに気付かれないようにベッドを抜け出し、落ちていた服に手当たり次第手を伸ばす。
ったく、乱雑やな、ほんま。
口には出さずにぶちぶち言いながら、俺は近くにあった服の固まりを引き寄せた。
…ダイのパーカーや。これでええか…
腕を通して羽織ると、案の定指先が少し見える程度の状態で。
「………」
わかっとったけど。
なんでこんな女の子みたいな気分を味わわなあかんねん。
知らず小さく舌打ちをしながら、足音をたてないように窓際に近付いた。
斜光カーテンを引いたままの状態で静かに窓を開ける。
初夏にしては少しひんやりとした風が、細く開けた窓の隙間から入り込んできて。
ベッドサイドに放りっぱなしやったタバコをくわえて火を点けてから、俺は静かに台所へ向かった。
勝手知ったるダイの家。
開けた冷蔵庫の中には、何本かの缶ビールと封を開けた赤ワインと小さい日本酒。そして水。
相変わらず何もないなー、と思いながら手前にあった水のペットボトルを手にとる。
まぁ、俺かて人のこと言えへんけどな。
ペットボトルにそのまま口を付けて、水分を補給する。
冷たい水が渇いた喉を潤す、この瞬間て結構好きかもしれん。
タバコの灰を置きっぱなしになってた灰皿に落として、俺は紫煙を吐き出しながら何気なく視線を手元に落とした。
「………」
手の甲を覆おうとしている、袖口。
ダイが最近よく着ているパーカー。
「………」
自分のタバコの匂いに交じって、微かに香るダイの匂い。
袖口を鼻先にもっていくと、より強く、その匂いを感じる。
あぁ、ダイや…なんて。そんなことを思っていると。
「…俺の匂い、する?」
突然声をかけられて。
俺は驚愕して、慌ててそちらの方を向いた。
「ダッ…、何で…!」
恥ずかしいやら何やらで、顔を赤くしながらダイを見つめる。
そんな俺をよそに、俺の手にしていたペットボトルを奪うダイ。
「ん?なんかひんやりすると思っておきたら隣に薫おらへんし。どこ行ったんか思たらこんなとこで服に顔埋めとーし」
…全部見てたんかお前!
「覗きなんて悪趣味やぞお前!」
思わず悪態をつくと。
飲んでいたペットボトルから口を外してこちらを見つめるダイ。
「覗くつもりなんかなかったし?」
にや、と笑われる。
…くっそー!
「それにしても。えらい扇情的なカッコしてんな、薫」
「はっ?」
不意に頭上が暗くなって。
俯かせていた顔を上げると、首筋にダイが冷たく冷えた唇で口付けを落としてくる。
「…っ、つめた…ッ!」
開けっ放しの前開きのパーカーの中に、ダイは手を突っ込んできて身体を撫で回す。
開いたもう一方の手はつ…、と内股をなぞられて。
「すんごいヤラシイやん、このカッコ。裸体にだぶだぶのパーカー1枚って。襲ってくださいって言わんばっかりやで?」
「ちょ、やめ…ッ!!」
抵抗を封じ込めるように、キス。
薄く開いた唇を割って、ダイの舌が俺の口腔に入ってくる。
「んっ…ふ……」
絡められた舌先。
流し込まれる唾液をうまく飲み込めず、それが口の端から伝い落ちて首筋を濡らす。
その間にも、ダイの指はゆっくりと俺の蕾をなぞりはじめて。
先程までダイを受け入れていたソコが、物欲しそうにひくつくのがわかって俺はさらに顔を赤らめた。
行為の名残を示すように、簡単にダイの指を飲み込むソコ。
「めっちゃひくついてるやん」
耳元で囁かれる言葉に、身体が反応する。
ぴちゃ、と濡れた音をたてて耳に舌を入れられ、身体が勝手に震えた。
「ダ、イ…」
震える手をダイの首に回して、その身体に縋りつく。
プライドだとか体裁だとか、そんなことを気にしていられる程の余裕はない。
ただ、目の前に男―――ダイが、欲しくて。
「…欲しい?」
囁かれた言葉に、こくこくと頷く。
ここが台所で、白っぽい蛍光灯が煌々とついていて、とか。
そんなことはもう、思考の彼方に飛び去っていた。
ダイはくるりと俺の身体を裏返すと、項に手をかけて俺の上体を何も置かれていない調理台の上に押し倒して。
「つめた…ッ」
肌に触れたステンレスの冷たさに声を上げた俺にも構わず、中に突っ込んだままの指を掻き回す。
床から足が浮き上がった不安定な体勢。
捲り上げられたパーカー越しに触れるダイの肌が、熱い。
「やっ、ダイ…ッ!あ、っも…」
上げさせられた腰から下が、ぐずぐずと溶けそうに熱くて。
引き抜かれていく指。
身体が勝手に、余韻で震えた。
腰に手を添えられた瞬間、ソコに指とは違ったモノを押し宛てられて。
「や…っ、はぁ…んっ!!」
一気に貫かれる。
息をつく間もなく与えられたダイに、知らず俺の喉は鳴って。
腰を固定されたままの状態で、激しく打ち付けられる。
「あっ、は…ぁんっ、ダイ…!!」
肌がぶつかり合う、生々しい音。
狭い空間に、俺の喘ぎ声と、ぐしゅぐしゅと濡れた音が響き渡る。
中から溢れ出た液体が、内股を伝って流れ落ちて。
そんなことを気にしていられないくらい、ダイに翻弄される。
「気持ちええ?っ、薫…」
調理台に両手を投げ出して、袖口をぎゅっと握り締めている俺の頬に、ダイが身体を折り曲げて口付けを落とす。
より密着するように奥に入り込んでくるダイ。
そのまま腰を抱かれて。
「あっ…は、ん…っ、ええよ…ダイ…ッ」
もっと、と。
気付かないうちに強請るように突き出す腰。
そんな俺に、ダイは微かに笑って。
先程よりも強く穿たれる。
片手で腰を抱いたまま、もう片手で蜜を零していた俺自身に手をかけられて。
「ダイ…っ、イきそ……ッ!」
ダイの匂いがよりいっそう俺を包み込む。
力が入らずに投げ出した腕に埋めた顔。
吐息が、ステンレスを白く曇らせて。
「えぇよ、イき」
強く扱かれる。
抉られるように、先端にたてられる爪。
「あっ、あ、あぁぁあぁ―――ッ」
耐えきれずにびしゃり、と。
絶頂の証を吐き出して、ダイの掌を濡らす。
と、息をつく間もなく身体を強く揺さ振られて。
「…っ!!」
耳元でダイが息を詰めた瞬間、身体の奥で熱い憤りがぶちまけられるのを、霞みがかった頭でぼんやりと感じていた。
ずる、と、濡れた音をたてて引き抜かれたダイ。
それと同時に中で放たれたものがこぷりと溢れ出して。
重力に逆らえずに、内股を伝って幾筋も流れ落ちていく。
「うっわ、エロ……」
人の気も知らんとのんきにそんなことをほざくダイを、
「お前、後から絶対シバク!!」
という言葉と共に睨み上げる。
好き放題されたせいで、下肢にまったく力が入らない。
とりあえずここから降ろせ、とダイを睨みつけると。
「ちょぉ待って」
ダイはそう言って履いていたジーパンを上に上げて、一端姿を消した。
すぐ戻ってきたその手には、ティッシュボックス。
「風呂入るやろ?」
「入る…気持ち悪い…」
「なら、後始末は風呂でしよか」
そう言って、いきなり中に指を突っ込まれる。
意識とは裏腹に、びくりと震える身体。
中に出した液体を掻き出す指の動き。
…感じたいわけやないのに!
「相変わらず感度ええよなぁ、薫くん」
「そんなこと言われてもうれしない」
「誉めてんのに」
ダイはそんな口を叩きながらも大雑把に処理をすませて。
そのまま抱きかかえて、風呂場まで連れていってくれた。
「一緒に入ろか?」
「いらん」
下世話な問い掛けを一蹴して、浴室のドアをしめる。
シャワーを出して湯を暖めながら、着たままだったパーカーに手をかけようとして。
もう一度、袖口を鼻先に近付けた。
ダイの匂い。
何より馴染んだその存在。
このパーカーは黙って頂戴しよう。
俺はそんなことを考えながら、ゆっくりとパーカーを脱ぎ捨てた。
END
ダイくんのパーカーを着てる薫くんを想像してみたら萌えまして。爆
エロ書くつもりはなかったんですけど気付いたら台所でヤっちゃってました(乾笑
薫くんを振り回してるダイくんを書くのは結構楽しかった
てゆか台所エロ楽しかった!爆
す、すいません…汗
タイトルは『残り香』の直訳です