いつもの調子で話してたかと思えば、急に甘い声
だから、あなたはズルイんだ
「薫くんってズルイよね」
情事後の気怠い雰囲気の中、俺に背中を向けて煙草を吸っていた薫くんに話しかける。
「何、突然?」
俺の言葉に心外だ、とまではいかないけど、不思議そうな顔をして薫くんが振り向く。
薄い口唇に銜えられた煙草。
先程まで散々貪っていたその感触を思い出して、微かに息を呑む。
そうやって、いろんなことを俺の身体に覚えさせて。
連鎖反応を起こさせる。
ズルくて罪作りな人。
「いっつも結構言い方キツイくせにさー」
「そうか?」
「そうだよ」
根はやさしい人だけど、こと仕事に関してはシビア。
結構辛辣なことをさらっと口にする。
真正面から受け止めていちいち傷付くこともなくなったけど。
それが出来なくて辛かった時期もある。
時々関西弁って突き放したみたいな言い方をするから。
「そんで人が落ち込んでたら、急に物腰がやわらかくなるし」
優しい声。
やわらかい声音が、俺の名前を紡ぐ。
『トシヤ、どうした?』
ふわりと頭を撫でてくれる、暖かい手。
子供扱いされたいわけじゃないけど、薫くんのこういうスキンシップの仕方が好きだった。
他のことで落ち込んでたときも、へこんでたときも。
こうされると、不思議なことに少し浮上することが出来た。
「…あんま自覚ないねんけど」
「………だろーね」
無意識で駆け引きをしてる。
年齢差なんてそんなにあるわけじゃないのに。
いつまでたっても追いつけなくて、くやしい。
子供みたいに
「ズルイ」
って。
唇を尖らせたくなるの、薫くんにはわかんないんだろーな。
まだ見慣れない絵柄に彩られた腕を引いて、その口唇を強請る。
望み通りに降ってくる口付け。
さっきまで薫くんが吸ってた煙草の匂いがして、胸が少し暖かくなる。
入り込んできた舌は苦いのに、交わす口付けは不思議と甘い。
「俺からしたらお前の方がズルイけどなぁ…」
「っ…な、んでだよ…ッ」
口付けを解いて、俺の首筋に顔を埋めた薫くんの背に縋り付きながら問いかける。
生暖かいやわらかな舌が、ねっとりとそこを這う感触。
行為の残り火がじわりと煽られ、覚えのある熱が呼び起こされて。
「普段はガキみたいやのに、こういう時はめっちゃ扇情的」
もどかしくシーツを手繰る指先。
爪先が、甘く乱れたそれを蹴って。
「あんま無自覚に人を煽らんとってや」
囁かれた瞬間、ピアスごと耳朶に歯を立てられる。
濡れた音が耳元で響いて。
思考回路を、甘く溶かしていく。
「かおるくん、こそ…ッ」
口惜しくなって、必死に言い返すけど。
俺の言葉は全部言い切る前に吐息の中に消えていく。
熱と快感に飲まれて飛びそうな意識の中、潤んだ瞳で見上げたそこには
シニカルな笑みを浮かべた薫くんの顔。
俺がどんなに必死になったって、いつだって余裕な表情で。
指先ひとつでこんなに俺を溺れさせることが出来る。
声音ひとつでこんなに俺を夢中にさせることが出来る。
だから、あなたはズルイんだ。
END
僕薫くんに「ズルイ」って言うの好きみたいです(何で