叶うなら君のそばで

おやすみとおはようを
―――

 

Re:Love Letter

 

『DATE:200X/X/X 7:38
 SUBJECT:ただいま
 スタジオから朝焼けを見ました。今日もいい天気になりそうですね。
 最近は擦れ違いばかりで寂しいです。明日こそは逢えることを願って。
 おやすみなさい。』



メッセージ送信完了、の表示を確認してから携帯を閉じる。
明るくなりかけた部屋にカーテンをひいて、ベッドに潜り込む生活にもずいぶんと慣れた。
狂い過ぎた体内時計は狂ったなりに時間を刻んでくれているようで、
ただ今は眠気ばかりを欲してくれていて。

濡れたままの髪でシーツにダイブし、目を閉じる。
本当に微かに残った、あの人の香りを抱きしめて。



擦れ違いの生活を送るようになって、もうどれくらいになるんやろう。
ずいぶんとあの人に、触れてない気がする。
きっとそれは気のせいなんかじゃないはずで。
口付けも、睦言も、交わした日がとても遠く感じる。

「逢いたい…」

枕に顔を埋めたままで呟く、それは紛れもない本音。
贅沢は言わないから、せめて。
叶うなら君のそばで、おやすみとおはようを告げられたらいいのに。
それは、過ぎた望みなんかな?

「薫…」

小さく象った名前。

この声がどうか、遠く離れた君に届きますように。

「愛してる…」

あなたの元へ、魂を飛ばすから。



「お前って、メールになると人格変わるよな」

以前、薫くんに言われた言葉。

「なんか、普段のお前じゃないみたい」

嫌いじゃないけど、そういうの。

そう言って、微かに笑ってたっけ。
そんなことを思い出しながら、今日もメールを認める。
あなたを愛する気持ち、焦がれる気持ち、全てを伝えたくて。



『DATE:200X/X/X 23:17
 SUBJECT:満月
 今日は久々にこの時間に帰ってきました。今はベランダで煙草をふかしています。
 綺麗な満月が浮かんでいます。見れそうなら、空を見てみて下さい。』



いつも通り、表示を確認してから携帯を閉じて。
暗闇にぼんやりと浮かぶ赤い蛍火を見つめながら、小さく溜息をつく。
擦れ違い生活は、まだ終わる兆しを見せてくれそうにもなかった。

逢いたくてたまらんくなる。



―――どうしてこんなにも、愛しいんやろう



〜♪

静寂を切り裂くようにして、鳴り響く着信音。
誰からの着信かも確認せずに、通話ボタンを押して耳に押し当てた。

「はい?」
―――ダイ?』

電話の向こうから聞こえた声、それは紛れもなく……

「薫くん!?」
『おー』

めずらしい。
普段は滅多に電話なんてかけてこーへんのに、急にどうしたんやろう。



なぁ。

―――ほんの少しでも、俺のことを恋しがってくれた?



「どうしたん?」

仕事に没頭してるときはそれ以外のことに無頓着な薫くんに限って
それは有り得へんか、なんて思いながら問い掛ける。

けど、返ってきた答えは予想外な言葉やった。

『ダイ』
「ん?」
―――たわ』
「え?ごめ、よく聞こえへ…」
『もう、メールのおやすみは聞き飽きた』

そんなことゆーたって…他に、どうしようもないのに。
いちいち電話するのにも、仕事しとったり疲れて寝てるとこを
無理矢理起こすわけにもいかへんやろ?
そんな俺の戸惑いや葛藤を余所に。

『たまにはそばで聞かせろ、バカ!』

プチッ、ツーッ、ツーッ……

聞きようによってはえらく自分勝手な捨て台詞を残して、切られた電話。



なぁ、これって期待してもええんよな?

薫くんも、恋しがってくれてるんよな?



明日のスケジュールを瞬時にシュミレートする。
昼からインタビュー、後はスタジオに籠りっきり。

逢いに行くのは、きっと今しかない。



煙草を灰皿に押しつけ、必要なものを鞄に詰め込む。
片手でメールを打ちながら、部屋の電気を消して鍵をかけて。
大通りまでダッシュして、タクシーをつかまえて乗り込む。

行き先はもちろん、あの人の家。



『DATE:200X/X/X 23:58
 SUBJECT:今から
 逢いに行くから。起きててな。』



君のそばへ。
おやすみとおはようを、告げに行くから。

 

END