流れ星に願いかけてた
約束をしていた

幼い頃
夢を描いて笹につるした、短冊と同じように

 

pray

 

『台風通過による悪天候』

ぼんやりと携帯で天気予報を見ていた俺に、飛び込んできた最悪のニュース。

「トシヤどないしたん?顔色悪いで」

端から見ていた薫くんにまでそんなことを言われる始末だ。
きっとひどい顔をしていたに違いない。

だけど…

「明日雨ってことは…星見えないのか…」
「雨?あー…台風くるらしいからなぁ。って、明日何かあんの?」
「…なんでもない」

気持ちの落胆を抱えたまま、薫くんに「煙草吸ってくる」と言い残して
とぼとぼと楽屋を後にする。



喫煙所のソファにどっかり腰を下ろし、手荒に煙草に火をつけた。

「…ふぅ…」

紫煙と共に零れていく、溜息。
視線を上げた先にある窓からは、まだ昼を過ぎたばかりだというのに灰色の空が映し出されていて。

「…絶望的」

ぼそ、と独り言を呟く。



明日は7月7日。俗に言う七夕。
記念日嫌いの京くんが、人知れず楽しみにしてくれていたイベント。

『一緒に星を見に行かない?』

1ヶ月も前から楽しみにしてくれていた京くんの笑顔が、ひどく可愛くて。
喜ばせたくて、驚かせたくて、星の見えるスポットとかも人伝に教えてもらって。

京くんに内緒で下調べも済んだし、準備万端、後は当日を待つのみ、だったのに…

『台風通過による悪天候』

ついてない、と思った。
やってられない。

世間では単なる七夕でも、俺たち2人にとってはとても大事な意味があったのに。



7月7日。
七夕。
俺たちが付き合いだした、日。



勘のいい京くんのことだ、きっとこの天候を見て明日のことも察しているかもしれない。
それでも俺の前では無理して平気な顔をしてくれるんだろう。

それだけは、やるせなかった。



フィルター近くまで燃えかかった煙草を灰皿に落とすと、黙って空を見上げる。



せめて夜だけ
ほんの一瞬だけでいい

どうか、俺たちに星を見せてほしい
―――






そんな俺の切実な祈りが通じたのかどうかは知らないが、翌日起きてみると
曇ってはいるものの雨は降っていなかった。

「なんか雨降りそう。湿気含んでて暑いわー」

薫くんが相変わらず素敵な趣味全開のシャツをはだけさせた状態で、
そこら辺にあった団扇でぱたぱたと扇ぎながら呟く。

「今日は悪天候やゆぅとったのになぁ。向こうの方の空は暗いけど」
「ほんまになぁ。ぼちぼち雨降るんやろか」

京くんの言葉に相づちを打ちながら、手にしたリモコンでテレビをつける薫くん。
映し出された画面では、アナウンサーが懸命に雨雲の進み具合を説明している。
俺はそんな様子を横目に見ながら、ちらりと視線を窓の外に向けた。



願わくば
この夜だけでいい

晴れてくれ―――






それからはもう天候なんて気にする暇もないくらいに仕事に追われて。
気が付けば外は真っ暗。夜の帳がおりていた。

「…あ」
「どないしたん?トシヤ」

素っ頓狂な声をあげた俺に、ダイくんが不思議そうに問いかけてくる。

「星、見えてる」
「え?マジで?」

昨日は灰色の空が広がっていた窓からは、今間違いなく雲のない星空が見えていて。

「京くんっ、帰ろう!!」
「えっ、ちょ、トシヤァ!?」

ぐぃっと強引に手を引っ張って、帰り支度もそこそこな京くんを楽屋から連れ出す。
後からいくら文句を言われても構わなかった。

与えられたタイミングは一度きり。
今しかないと、思った。



ダチに無理を言って借りたバイクの指定席に京くんを乗っけて、いつも以上に荒っぽい運転で夜の公道をぶっ飛ばしていく。
また雨雲が来る前に、どうしても行きたい場所があったから。

「ちょ、トシヤ何処…」
「黙って」

背後から聞こえてくる京くんの声も遮断して、この間辿った経路を思い出しながらバイクを走らせる。

尋常じゃない俺の様子に最早覚悟を決めたのか、その後は京くんも黙ったまま俺の腰に回した手に力を込めた。
恐い思いさせてごめん、京くん。

だけどこれだけは、譲れないんだ。



「着いた…」

目的地に辿り着いて、平らなところを探して静かにバイクを停めた。
フルフェイスのメットをはずし、空を見上げる、と。

宝石箱をひっくりがえしたように、星がきらきらと輝いていて。

「すご…」

同じようにヘルメットをはずして空を見上げた京くんの口から零れる、感嘆の言葉。

何も言わず、ぎゅっとその体を背後から抱きしめる。
言葉なんていらなかった。



流れ星にかける願いは唯一つ。
これからも、京くんと一緒にこうして星を見に来ることが出来ますように。
こうして1つ1つの大事な思い出が、共に積み重ねていけますように。



「トシヤ」

不意に腕の中で名前を呼ばれて、視線を下げる。
腕の中で体の向きを変えた京くんが一瞬背伸びして…

口唇に、触れるだけのキスを残して離れていく。

「ありがとうな」

普段滅多に聞けないような言葉と、とびっきりの甘い笑み。

そう、この笑顔が見たくて。
惚けたように固まっていた俺は、我に返ってぎゅーっと京くんの体を抱きしめながらその耳元で囁いた。

「京くん、大好きだよ」

小さく交わす睦言の合間に、口付けを交わして。

そんな俺たちを、
星たちだけがただ静かに見つめていた―――






流れ星に願いかけてた
約束をしていた

聖なる夜

幾千の星に生まれた俺とあなたが出逢えた奇跡
2人だけのもの

 

END

 

相変わらずイベントごとには乗り遅れます
すいません。逃