至近距離

 

「なぁ……薫くんってば」

茹だるような暑さで、窓の外に見える景色がゆらゆらと揺れている。
…蜃気楼?
そんなわけ、ないか。

クーラーをがんがんにきかせた室内で。
薫くんは俺が起きたときからずっと雑誌を読み耽っている。
俺は何をする気もおきなくて、ごろごろと窓際のベッドに突っ伏して窓の外の風景を見つめていた。

窓から入ってくる強烈な真夏の太陽光線と、室内の異常なくらいの冷ややかさのギャップに、
なんだかおかしささえこみあげてくる。

かけていたメガネを外すと、くしゃくしゃに乱れたシーツの上にそれを投げ出した。
さっきまで見ていた窓の外に視線をうつすと、視界がぼやけて。
ぐにゃりと、歪む視界。

「トシヤ、呼んだ?」

読んでいた雑誌から顔をあげ、薫くんが俺に声をかけた。
いつもの癖。
何かに熱中してるときは、大抵しばらくたってからしか気付いてくれない。

「呼んだ」

窓の外に顔を向けたまま、そう答える。
…背後にいる薫くんに、背中を向けたままで。

どうせ薫くんの方を向いたって、はっきりと顔は見えないんだから。
だったらメガネをかければいいだけの話なんだけど。
なんか、めんどくさい。

「何お前?拗ねてんの?」

ぎし、と背中のスプリングが軋んだ。
片足をベッドにのせて、薫くんがにやにやと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
至近距離、薫くんの顔がはっきり見えて。

シニカルな笑み。
何故だかくやしくなって、顔をそむけようとする。
が。

呆気なく薫くんに顎を掴まれて、その行動さえ拒まれてしまった。

「拗ねてんの?トシヤくん?」

茶化すような口調。

「別に」

素っ気なく答える、俺。
この場合、どう見ても負けてるのは自分で。

「可愛いなぁ、トシヤ」

メガネをベッドサイドに置いて、再び寝ころんでいる俺の横に腰を下ろした薫くんが小さく笑う。

「そんなに寂しかった?」
「まさか」

強がりとはわかっていても、反抗せずにはいられない、自分。
…可愛くない、よなぁ…

「じゃぁ寂しがり屋なトシヤくんを、薫様が精一杯可愛がってあげましょう?」

そう言って、薫くんが俺の上に跨ってきた。

「…そういうことなら、可愛がってもらいましょうかね」

艶やかに笑って、薫くんの首に手を回す。



駆け引きのうまい貴方だから。
結局いつも俺が振り回されてるけど。



「…っ、ふ…ぅんっ…」
「トシヤ…」
「かお、る…あっ、う…」

薫くんの髪をぎゅっと引っ張る。
熱を受け入れた箇所が、アツイ。

繋がったままで口付けられ、より深くに薫くんの熱を感じて。

冷房の付いたこの部屋でも、俺の体は真夏の街中を走り回っているかのように、熱い。

「もっと乱れてみろって…」

耳元で囁かれる。
その熱をもった吐息にさえ、敏感な体は反応して。

びくん、と震えたコトを、繋がったままの薫くんは察したらしい。

相変わらず腰をうちつけたままで、耳朶に舌を這わせてきた。
その甘い刺激に、俺の体はただ素直に反応するばかり。

「あっ…あぁッ…かお…ッ、も…」
「まだ早いだろ?」

達しかけていた熱を、ぎゅっと薫くんの手によって掴まれて。
行き場を失った熱が、体の中をぐるぐると回り続ける。

「や…っ、アツ、イって薫…ッ」
「それだけしゃべれればまだイけるやろ?」

そう言って、薫くんが俺の熱を掴んだまま激しく腰を揺さぶりだして。

「アァッ!か…ッ、…アッ」

がり、と薫くんの背中に爪をたてる。
最早口からは意味を為さない喘ぎ声しか出てこない。

今はとにかく、この熱をどうにか冷ましてほしくて…

掴まれていた手が解かれ、薫くんの爪が俺の熱の先端を弾いた。

「ひゃっ…あぁっ…!!」

薫くんの体にしがみついたまま、絶頂に達する。
体の奥底に熱い迸りを感じながら、ゆっくりと視界がぼやけていくのを、何処か遠くで見ていた。






頭の下に、覚えのある感触。
ゆっくりと視線で腕の先を辿る。

そこには、あどけない寝顔ですやすやと眠りにつく薫くんの姿。

メガネもコンタクトもしていないため、はっきりと周りの状況は見えないけれど、
窓の外はもうオレンジがかっているらしい。

…夕方、かぁ…

ぼんやりと霞んで見える夕日。
きっとメガネをかければそれはそれは素敵な夕日が見れるだろう。

けれど。
あえて、俺はそうしなかった。

窓に背を向けて、ごそごそと薫の胸の中に顔を埋めて。

「やっぱり、この場所が一番安心するよ」

メガネなしでも、ようやく焦点がはっきり定まって見えた薫くんの顔に小さく口付けを落として。

「おやすみ…」

ゆっくりと眠りについた。



今日は熱帯夜らしい。
薫くんの腕の中にいる限り、俺には全くもって関係がないのだけれど…

 

END