Open a mouth?

 

Private Lesson

 

白い指先が、口唇を割って。
そこに当たり前のように、触れあわされる口唇。

「ん……っ…」

上顎をなぞられて、声を漏らしたその瞬間には舌を探り当てられて。
口内を逃げ回っていたはずのそれはあっという間に絡め取られてる。

「な、んで、こんなっ、上手いわけ……ッ?」

息を継ぐ間もなく奪われていく口付け。
キスだけ身体を高揚させるテクニックに、簡単に俺の身体は陥落して。
潤んだ目で、しれっとしたまま絡め取った舌先を軽く甘噛みしている薫くんの顔を睨みあげた。

「さぁ?生まれつきちゃう?」

その態度が態度なら、その口が紡ぐ言葉も紡ぐ言葉で。
またそんな台詞が浮かべたシニカルな笑みにぴったりと当てはまって。
言い返す言葉が見付からず、俺はただ本能的に後ろずさりながらその顔を睨みつけることしか出来ない。

「とーしや。そういう目が余計に煽られるって、何回言ったら覚えるねん」
「知らねぇよ…!」

とん、と音をたてて背中に触れた硬い感触。
壁際に追いつめられた、と瞬間的に悟る。
それはそれは嬉しそうな表情で、俺の顎に手をかける薫くん。
顔を上げさせられたその刹那、再び口唇を奪われた。

「…今日のレッスンはソファ?ベッド?」

蜜糸がお互いの口唇を繋いだ至近距離で囁かれた言葉に、小さく

「………ベッド」

答える。
了承の返事の変わりに、もう一度口唇を触れあわされて。

そのまま手を引かれて、ふらつく足取りで薫くんの後に続いて寝室に向かった。






きっかけは酔った席での女の子談義だった。
今まで付き合ってきたコがどーだったとか、ぶっちゃけセックスが上手かったとか良かったとか。
そういう下世話な話で盛り上がってたときのこと。

「なに〜?じゃぁ薫くんはテクニシャンなの〜?」

俺はキスだけで腰砕けさせられる、と豪語した薫くんに、酎ハイを片手に絡んだ俺。
周りは周りで出来上がってて、ダイくんはシンヤに絡んでて嫌がられてるし、京くんもめずらしくお酒を飲んだのか
赤い顔をしたまま、席の隅っこでころんと横になってる。
グラスを持ったまま薫くんの身体にしなだれかかった俺を嫌がる風でもなく、薫くんはちらりと視線を落として。

「…知りたい?」

その薄い口唇に煙草を銜えながら逆に問いかけてきた。

「え〜知りたい〜」

へら、と笑いながら深く考えずに答える。
後々考えたら、酒が入ってハイになってたんだと思う。

―――そのとき俺は、この後自分の身に降りかかってくる現実に気付くことすらなく。



「ええよ、教えたるわ」
「え〜、ホント〜?…ッ!?」

瞬間、ふわりと降ってきた口唇。

え?え?これってキス…だよな。俺、薫くんにキスされてる…?
と動揺している間に、薫くんの舌は簡単に俺の無防備だった口唇を割って中に入り込んできた。

「ん………ッ!?」

歯列をなぞられて、上顎を擽られて。
思わず零した声に薫くんがにやりと目で笑うのがわかった。

絡め取られた舌。
やわく甘噛みされて、強い力で吸い上げられて。
女の子としてきたキスでは感じなかった、ぞくぞくする感覚が背筋を這い上がってくる。

…俺、もしかしなくても感じて…る?

「やらしー顔するんやな、お前」

混乱の渦に巻き込まれていた俺の耳元で、ようやく口付けを解いた薫くんが低い声で囁く。
瞬間、びくりと震える身体。
崩れ落ちた身体を支えるように俺の腰に回された薫くんの手が、アツイ―――

「もっと知りたくない?気持ちイイこと」

耳元で、濡れた声が誘いの台詞を吐く。
どうしてあのとき頷いてしまったんだろう。

幸か不幸か、そのとき始まった俺たちの関係は、それからも変わることなく。






「トシヤ」

とさりとベッドに押し倒されて、のし掛かられる。
伸びた髪をさらりと梳かれて。
露わになった額に軽く口唇を触れあわせると、そのまま口付けられた。

実際問題、この人は紛れもなくセックスが上手かった。これは、本当。
桁外れのテクニシャン。
普段はそういう話になってもしれっとしてるくせに、
実はその指先がギター以外でも器用に動くってことを俺は身を以て体感してた。

ぶっちゃけ下手に相手を見付けるよりも、こうして傍にいるけどセックスだけって割り切ってる関係の方が
後腐れ無くていいんじゃん?とか。
最初の頃はそんな言い訳だって考えてた。
溺れていく自分に気が付いてはいたけど、認めたくなかったんだ。

身体から始まった関係に、感情が揺れ動きました、なんてさ。

その手を、その指を、その口唇を。
独占したい、なんて。今更過ぎる感情。

気持ちよければいいって、考えてた俺が嘘みたい。



酔った過ち。
その一言で片付くはずだった俺たちの関係は

『プライベート・レッスン』

という良く出来た名目でそのままずるずると続いていった。

でも俺は薫くんに教えてもらったことを誰か他の人に実践する気はないし、薫くんもそのことに気付いている。
それでも終わらないこの関係。
それが意図するコトって、一体何なんだろうね?
薫くんも、少なくとも俺と同じ気持ちでいてくれてるって、思ってもいいのかな?

でも、臆病者の俺は、そんなことを聞き出せるはずもなく。
身体が自然と薫くんのキスの癖を覚え込んでも、何度だって俺は覚えの悪い生徒を演じて続けてた。
そして、そんな俺にあわせるように薫くんは今日も根気よく付き合ってくれてる教師の役を演じてくれてる。

でも知ってる?
怯えるフリも、潤んだ目で睨みつけるしぐさも、全部計算した上での行動だってこと。

アナタ好みの可愛い『俺』を演じてあげるから。
今日もその声で、指で、俺をつくりかえて。
そうして薫くんも俺に溺れたらいい。俺が、薫くんに溺れてるみたいに。



俺が薫くんだけに個人授業を受けてるみたいに
薫くんも、個人授業は俺だけにしてよ



ねぇ、薫くん―――

 

END

 

ちゅーを教える話を書きたかったんです(何それ
書いてるうちにとっちがどんどん策士になっていってしまいました…爆
プライベート・レッスンって響きがなんかやらしくないですか?
また書きたい 次は他のカップリングもありかな