プラスチックバタフライ

 

たまに、こういうときがある。
バンドのメンバーの中で比べてみても、自分はどちらかと言えば淡泊な部類に入ると思うけど。
ごく、稀に。
ひどく身体が熱に飢えるときがあって。

昔なら、どうにかこうにか時間を作って恋人に会いに行って、飯食ったり話したりしながら
最終的にはうまいこと相手の子をその気にさせて、満たしてもらって。
どうしても無理なときは、ただひたすらその熱が過ぎるのをじっと耐えて待った。
どうも俺の性欲は周期的な波があるみたいで、時間が経てばさっきまでの劣情は何やったんやろう、と
思うくらい自分でもあっさりスイッチが切り替わる。

そして、今現在。…どうも、劣情に駆られているらしい。

「………」

寝ころんでいたベッドで寝返りを打って、枕に頭を乗せながら最後にダイとシたんいつやったかな、と思いを巡らせる。
地下作業に入ってから仕事場でも擦れ違いが続いて。もうまともに顔やって見てへん。

「……きゅう、じゅう、じゅういち…」

記憶を遡りながら、ダイと逢ってない日を指折り数えてみる。
仕事してるときはそっちに意識持っていかれとぉからあんま何も感じてなかったけど、よう考えてみたら結構逢ってなかったみたいで。
少なくとも、片手じゃ足りひんくらい逢ってないのは確か。
それ以上は数えるのが億劫になってやめた。

「…だいー…」

枕に顔を埋めたままで、もごもごと名前を口にする。
そんなところで名前を呼んだって、本人がこーへんのはよくわかってたけど。

たぶん、気を遣ってくれてんやと思う。
現に俺はここ数日、帰ったら意識を失うみたいにしてベッドに突っ伏してた。
気付いたら朝、みたいな。食生活も不摂生極まりない状態で。
直接逢ったわけでもないし話したわけでもないけど、たぶんアイツは勘付いてる筈。

それが、何故か今日に限って全然眠気が襲ってこーへん。
挙げ句の果てに身体は劣情に駆られていて。
はぁ、と熱っぽい息を吐き出しながら枕に頬を寄せた。

ダイと俺は所謂“恋人”っていう関係にあって、“そういう行為”があって当たり前やし、現に何度も夜を共にしてる。
誤解なきよう言っとくけど、別に性欲がどうにかしたくてダイと付き合ってるわけやないで?
好きやってん、ずっと。気が遠くなるぐらいの時間、片想いして。
それがひょんなことから両想いやってことがわかって。それで目下お付き合い中。
同じ生活サイクルで生きてたから、性欲のサイクルも被ったんかどうかはわからへんけど。
性欲の周期の話をした覚えはないはずなんやけど(酔っぱらいの戯言であったんかもしれんけど覚えてへん)、
ダイが身体を求めてくるときはちょうど俺もしたいときで。
やから今まで伸ばされた手を拒んだことはなかった。

………ん?待てよ…

「…よくよく考えたら、俺から、っていうのがない…?」

そう。
長い付き合いやけど、俺がシたいって言って行為に縺れこんだことがなくて。
シたいときにはダイが身体を抱きしめてたから。それに身を委ねてた。

ダイは俺がシたいときがわかるってことか…?

「……どないしたらええんやろ…」

真剣に頭を抱えて考える。
例えダイが俺のシたいときがわかったとしても、俺にはダイのシたいときがわからへん。
今までの経験みたいにその気にさせて持けばええって話かもしれんけど、今までが上手くいってたんは自分が主導権を握れてたから。
別にダイが主導権を握ってるわけやないけど。でも、俺がダイをその気にさせて持っていく…?
想像つかへん。色仕掛けでもしろってか。…あかん、自分で想像してサブイボ出た。

耐える…か?
でもダイっていう恋人がおって、その存在がこの欲望を昇華させてくれるのを知ってしまった今、それは俺にとって拷問にも等しくて。

「…どないしよ…」

ベッドの傍に放り投げた鞄を手を伸ばして引き寄せ、中から携帯電話を探し出す。
パチリと音をたてて開いてみると、そこには新着メールを示すマークが。

「誰や?」

クリック。……あ、ダイ、や…

『明日、一緒に飯でも食いに行かん?』

「明日かい…」

メールの本文に1人ツッコミ。
携帯を探すついでに取り出した煙草を銜えて火を付ける。

『ええよ』

一度はそう書いて、クリアボタンを連打。
紫煙を吐きだして高揚している身体を落ち着かせる。
よく考えろ、俺。

このタイミングにメールが来た。ってことはダイは起きてる。

「………」

煙草のフィルターに歯をたてて、噛みしめた。
緊張しながら短い疑問文を本文にしたためる。



『             』



もうキスすら自然な行為として受け入れられるようになった間柄やっていうのに、
俺の心臓はメールを送信するだけで信じられへんくらい早く脈打ってた。

はよ返事寄こせ。
そんな思いと共に、携帯を握りしめる。

数分もしないうちに、センター問い合わせ中のマークが点灯。
新着メールが1件。受信ボックスを開くと。

『ええよ』

さっきと同じアドレスから、たった一言のメール。
どないしたん?も、何かあったん?もナシで。
一言、了承の返事。

ダイも求めてくれてたんかな。
俺がシたいって思ってたときに、ダイもそう思ってくれてたらええな。
そんなことを考えながら、埋もれていたベッドから身体を起こす。



疼く身体はそう長くはもちそうにないから。
早くお前でいっぱいにしたって、ダイ。



口には出さずにそう呟いて。
俺は持っていた携帯を、ぱたんと閉じて握りしめた。

 

END

 

薫くんはダイくんに何てメールを送ったでしょう?

少なくとも1文でダイくんはヤる気になってますよね。たぶん(何
ダイくんが来るのか、それとも薫くんが向かうのか
それはあえてわからないように書いてみました
欲求に素直な薫くん
すごい子供っぽくなったけど、こういう面ありそうなイメージ(あくまでイメージ