薫くんが足りない

全ての生き物が生きていくために必要な水や空気と同じくらい、俺によって必要不可欠なその存在が足りない

思考回路を全部停止させて、薫くんのことだけを考えていられたら

この身体も何もかも、満たされるのかな?

 

欠けた月

 

窓から見える遠くの月が、もう眠たそうにしている。
つけっぱなしのテレビから聞こえてくる名前も知らない歌手の透明な声と、鳴らない携帯を持て余したまま、時間だけが過ぎていた。

朝になろうとしているのに、まだ眠れない。
今頃薫くんは、何してるんだろう。

ソファに置かれていたクッションを抱きしめてみるけど、こんなものが薫くんの代わりになるわけがなくて。
ぎゅっと目を閉じて、目蓋の裏に微かな残像を探し出そうとする。



人間の身体の一体何処に『心』は存在するんだろう?

確かにそこは今痛いって、俺に訴えかけてるのに。
異常があるんだって、俺に伝えているのに。

治せない。
病院に行っても、どんな名医に行っても治せない。

くやしいけど、薫くん以外は、誰も。



仕事ですれ違うようになってから、早……何日だっけ。
日数すら把握してられないくらい、薫くんには逢ってない。

それまで毎日のようにツアーで顔を合わせていたのが嘘のようで。

「薫くんは、逢いたいって思ってくんないのかな…」

握りしめていた携帯をソファに放り投げて、俺は抱えていたクッションに顔を埋める。
もうそこには、薫くんの残り香なんて微塵も感じられなかった。



人はこれを、恋の病なんて呼んだりするんだろうか?
少なくとも俺には、そんな綺麗なモノだとは思えない。
もっともっとドロドロして、生々しい感情。
セーブしきれないそれに、俺の胸はもう爆発寸前。



たった一言。
言葉にしてみればたった4文字。

『逢いたい』

それだけ言えば、きっとどんな真夜中だろうと睡眠中だろうと飛び起きて逢いに来てくれる。
と、ほんの少し前までは思っていたのだけれど。

もしかしてもうどうでもよくなっちゃったのかな、とか。
逢いたいって思ってくれてないのかな、とか。
そんなマイナス思考に蝕まれた思考回路じゃ、何を考えても否定的なことしか浮かんでこない。



「愛されてんで、トシヤは。薫くんに」

仕事中、たまたま休憩で一緒になった京くんは、情けない俺の顔を見てそう言ってくれたけど。
わかんないよ。
ワガママで、こんな感情ともうまく折り合いの付けられない俺を、どうして薫くんは好きでいてくれるのか。
でも、それすら面と向かって聞けない。聞けるはずがない。



ねぇ、薫くん。
誓えなくていいよ。嘘でもいい、から。
俺のそばにいて、よ
―――



キスをしても遠くて。
それじゃ埋められない隙間を閉じていくように触れあって。
つながって俺の中で欠けた薫くんをうめて。

そうしてふたりで朽ち果てたって、構わないのに。



でも、臆病な俺は結局何1つ薫くんに伝えられなくて。
ただ待ってるだけ。

鳴らない携帯電話を握りしめて、ただ、待ち続けるしか出来ない。



「薫くん………」



明けない夜はないのに。
俺にとっての夜明けは、まだこない―――

 

END

 

とっち独白系
薫さん気付いたってって感じッスね。苦笑
たまにはこんなのもありかな、と