「………そんなに口が寂しいん?」
「え?…ッ!?」

 

LOVING YOU

 

愛煙家の多いうちのバンド。
かくゆう薫くんもそのうちの1人で、黙って見てると結構な確率で煙草に手を伸ばしてる。
銜えて火をつけて吸い込んで。
灰皿に押しつけたかと思えば、数分もせぇへんうちにまた新しいのを出して…

「…吸い過ぎちゃうん…」

思わず口に出して呟いてしまう。
いい加減副流煙ばっかり吸わされてるこっちの身にもなってほしい。
喫煙者より周りにおる人間の方が健康害されるって納得いかんわ、絶対。

「あ?シンヤなんか言った?」

俺の呟きに、薫くんは見ていた手元の資料から顔を上げて此方に視線を移した。

「…別に」

この調子やとまだ帰りそうにないな、この人。
そんなことを考えながら、帰り支度を始める。
スタジオおったら時間忘れとって、気付いたら薫くん以外みんな帰ってもてた。
薫くんがもうちょっとで終わるんやったら待っとこうかと思ったけど…動く気配なさげやし。

「帰るわ、俺」
「んー」
「…聞いてる?薫くん」
「聞いてる聞いてる」

荷物を詰め終わった鞄を肩から提げて。
薫くんに声をかけるけど、当の本人は意識ここにあらずといった感じで相変わらず紙面から顔を上げようとしない。
ヘビースモーカーでワーカーホリックか。

…何で俺、こんな人好きになったんやろう。
ちょっと真剣に考えてもた。

黙って薫くんを見ていると、また新しい煙草を箱から取り出して。
銜えて火をつける。手慣れているのか、最早ライターなど見ることもなく。

…どんなに仕事に集中しとっても、煙草は忘れへんのや。

そんなことを考えて。
ふと頭の中に煙草と自分がかけられた天秤が浮かんで、薫くんにとっては煙草の方が上なんか、とくだらんことを思ってしまう。

自分もダイくんとかに比べたらよっぽど素っ気ない部類に入るんやろうけど。
薫くんの比じゃないと思う。
いらんときはめちゃめちゃ構いたがりのくせに。

…振り回されてんのは俺ばっかり?

そう思うと、無性にくやしくなってきて。



音もたてずにそーっと薫くんが座るソファの背後に回る。
相変わらず紙面に顔を落としたままで此方に気付きもしない薫くん。
てか目ぇ悪ないくせに何で眼鏡かけてんのやろ、この人。

「………そんなに口が寂しいん?」

茶色い髪を上から見下す。
俺が背後に立ったことで手元に影が差し込んだのか、ようやく訝しんで顔を上げた薫くんの口から煙草を抜き取って。

「え?…ッ!?」

顔を覗き込んだままの状態で、口唇を合わせた。
さっきまで吸っとったからやろけど。めっちゃ煙草の匂いがする。

突然のことで何が起こったのかわかってないのか、目をぱちくりさせてる薫くん。

―――たまには振り回される方の気分を味わったらええねん。

ふっと勝ち誇った笑みを浮かべながら、既に山をなしていた灰皿に吸い殻を放り込む。



「じゃぁ俺帰るから」

そう言って部屋を出て行こうとすると、ぱしっと腕を掴まれて。
振り返ると、その腕を力任せに引っ張られる。

「なん…っ!?」

驚愕して口を開いた俺は、そのままぼすっと何かに頭をぶつけた。
鼻先を擽る匂い。薫くんの、煙草と香水の。
そう、気が付けば俺は薫くんに抱きすくめられていて。

俺の頭を抱きかかえたままで、薫くんが耳元で囁く。

「口寂しいねん。だから構ってや?シンヤ」
「は?って、ちょ…」

そのまま顎に手をかけられて。
薫くんの薄い口唇が、俺のそれに重ねられる。

「ちょ、ンッ……」

そうやっていとも簡単に翻弄されて。
振り回される。
どうやってもこの人には勝てへん。
気が付けばいっつも、薫くんの思うがままや。



「……は…」

息をつく間もなく、口腔を蹂躙されて。
キスから解放される頃には、息も絶え絶えな状態。

「かわええ、シンヤ」

薫くんがそう言って俺の髪を撫でる。
キスに酔ってた俺は、直後に沸き上がった羞恥心にぱぁと顔を赤らめて。

「薫くんのアホ」

その胸に顔を埋める。
煙草と、香水と。馴染んだ薫くんの匂い。
ひどく安堵する、それ。

「アホってひどいな、お前」

苦笑しながらも、俺の身体を抱き込む力は緩めない薫くん。
髪をくしゃくしゃっと掻き混ぜられて、何すんねんとその胸から顔を上げると
ちゅ、と触れるだけのキスが落とされて。

「ちょー待って。一緒に帰ろ」

そう言って、薫くんが帰る準備をしだした。

「へ?だって仕事…」

まだ続けそうな雰囲気やったやん。
俺帰るって言っても何の反応もなかったくせに(ちょっと根に持ってる)

すると薫くんは、さっきまで見ていた紙面を鞄に入れながら視線を此方に向けて。

「ええねん。構ってやらんと姫のご機嫌斜めやし?」
「誰が姫やねん」

ぼす、と背中を叩くと、けらけらと薫くんが笑う。

―――
あぁ、やっぱり。

どれだけ振り回されても、やっぱり俺はこの人が好きで。
その笑顔を向けられると、何も言えんくなる。

「帰ろ、シンヤ」

差し出された、手。
いっつもやったら何考えとんって払うトコやけど。

「………」

まぁ、今日ぐらいはええか。
そんなことを思いながら、俺は黙ってその手を取った。

薫くんは何も言わずにふわりと笑って。

緩く握りしめられる、手。

何バカップルみたいなことしてんやろ、と思ったけど。
……まぁ、たまにはええかな。

煙草より俺を選んでくれたみたいやしね。






「…薫くん、禁煙したら?」

人の気配のない、薄暗い廊下を歩きながら口を開く。
煙草にコーヒーにお酒が大好きで。おまけにワーカーホリックで。
たまには身体労ったらんとほんまヤバイで。

すると、薫くんは少し笑って。

「シンヤがずっとキスさせてくれとったら出来るかもな」
「ッ、アホちゃうん…」

聞いとるこっちが恥ずかしなるわ、ホンマ。

「何やねん、俺真剣やで」
「はいはい、はよ帰ろね」

とりあえず、帰ったら構ったるよ。
煙草のことなんか忘れるくらい、ね。

 

END

 

初薫心!
書いた本人が一番吃驚してる。笑
まさか自分で薫心書く日が来るとは思わなんだ!爆笑
しかも結構楽しかった!爆
また書こう…