目の前で、綺麗な弧を描く唇。
赤い紅で彩られたソレから、何故だか目が離せなくて。

―――トシヤ?」

自分でも無意識のうちに。
俺は誘われるようにして、手を伸ばして触れていた。

 

love me , I love you.

 

見た目以上に、やわらかな感触を伝えてくる唇。
微かに曲げた指の背を押しあてた状態で、ぼんやりとこの唇が自分のそれと触れ合ったときの感触を想像する。
そんな俺の危険な思考を断ち切ったのは、シンヤの訝しげに俺の名前を呼ぶ声だった。

「人の唇を触ったままでトリップせんといてほしいんやけど。変態」
「…相変わらず辛辣だネ」
「僕は事実を言ったまで。離して、口紅落ちる」

そう言って俺の手を払うシンヤ。
赤い紅で彩られた唇が、言葉を紡ぐたびに形を変えて。



また、どうしても。
その唇に、触れたくてたまらなくなる。



そんな自分の中でふつふつと沸き上がってくる欲望を押さえ付けながら、とりあえず口に何か入れておこうと、
鏡の前に放りっぱなしだった煙草を口にくわえた。
煙から逃れるように、何食わぬ顔で部屋の隅に移動するシンヤ。
そんな様子を横目に追いながら、俺はふと思った疑問を口に出した。

「…でもさ、めずらしいね」
「何が?」

こちらを見ようともせず、置きっぱなしになっていた単行本に手を伸ばすシンヤに構わずに話し掛ける。

「そんな赤い口紅塗るの。最近はそんな濃いの塗ってなかったじゃん」



昔はよく見た覚えがあった。
もっと衣裳もふわふわしてて。
髪の毛も綺麗に巻かれて。
その頃から、ずっと赤い紅に縁取られたその唇に触れたかった。

たぶん、初めは興味本位。
女の子みたいに彩られた赤い唇は、やっぱり触れたらやわらかいのかな、とか。
そんなことを考えてたんだと思う。

実際、その鮮やかな口元は本当に目を惹くものがあって。
それからもその唇は、赤い紅だけでなく様々な色に彩られてきたけど。
気が付けばいつだってその唇を追ってる自分がいて。
や、こんなこと言ってると本当に変態みたいだけど。
口を開けば生意気なことばっかり言うくせに、いつだってその口元は艶めかしくて。
しまいには色付いてない唇を見ても、触れたいと思ってしまう始末。
ここまで言っといて何だけど、俺は別にキス魔ってわけでもない。
唇フェチでもない(あるのかは知らないけどね)

ただ、シンヤの唇に触れたい。
言うならば、唇だけじゃなくて、その存在全部に。

触れて、感じたい。

そう、ありたいていに言えば、俺はいつの間にかシンヤのことを好きになってたんだと思う。



そんなこんなでこの俺が、一念発起して告白したのがつい先日。
なけなしの勇気をかき集めての俺の必死な告白に、当のシンヤからの返事はといえば、

「あ、そうなん?」

なんていう何とも素っ気ない反応だったけど。

視線を彷徨わせてこっちを直視しようとしないところとか。
その長い髪で隠された耳がちょっと赤くなってたこととか。
嫌ならきっとこんな反応しないよな、なんて勝手に解釈して現在に至る。



まぁ、キスもそれ以上のこともなーんもないけどね。



「…ちゅーしたい」

ふぅ、と煙草の煙を吐き出しながらぽつりと呟く。
今更隠すこともないか、なんて。
そんな開き直りと共に零した願望に。

「……したらええやん」

思わぬ返事が返ってきて。
俺は煙草を持ったまま、ぴきんと固まった。

「し、シンヤ…?」
「……なん」
「い、今なんて…」

したらええやん、て。
したらええやんって言った…よな?
え、それってつまりはえーと…

極度の驚愕でテンパったままの状態で、ぎくしゃくとシンヤを見つめる。
相変わらず何食わぬ顔で単行本に視線を落としてるけど。

長い髪に隠れた耳が、赤くなってる。



あぁ、もう。
どうしてこんなに可愛いかなぁ…



煙草を捻って灰皿に捨てて。
シンヤの隣に移動する。

「シーンヤ、顔上げて?」
「嫌」

この期に及んで反抗?
そんな赤い耳してて、説得力皆無だよ。

「シーンヤ」

さら、と流れる茶色い髪を梳いて。
頬に手を添える。

ちょっと潤んだ瞳で睨んでくるシンヤ。
赤い唇が、ぎゅっと噛み締められている。

「…もしかして、誘ってた?」
「……アホちゃうん」
「こんな赤い口紅塗っといてよく言う」

目の前の唇を、指の背で確かめるようになぞって。
そうしてそっと、自分の唇でシンヤのそれに触れた。

想像してたよりも、ずっとやわらかくて、ずっと甘い、唇。
触れるだけの口付けを、もう一度繰り返して。
その細い肢体を抱きしめる。

抵抗することなく、身体をもたれかけさせてくるシンヤ。
…やばい、めちゃくちゃ可愛い。

「…ねー、シンヤー」
「……なに」

恥ずかしがってか、絶対にこっちに視線をあわせようとしないシンヤの頬に、ちゅっとキスを落としながら。

「俺のことスキ?」

耳元で囁く。
くすぐったかったのか、びくりと身体を震わせるシンヤ。
いつもはあまり感情を表に出そうとしないその顔が、真っ赤で。

「シーンヤ」

身体を抱きしめたまま、名前を呼ぶ。

やがて、小さな小さな声で返ってきた返事。

「……………―――

消え入りそうな声だったけど。
はっきり耳に届いた言葉。
うれしくて思わずシンヤの身体を力いっぱい抱きしめながら、俺も、と頬にキスを落とす。
ちょっと視線を上げたシンヤと見つめあって、ちゅ、と赤い唇に口付けをして。

「シンヤぁ」

ぎゅーっと。
力いっぱいその身体を抱きしめる。
もう、うれしすぎてどうしたらいいのかわかんない。
どうしたら伝わるんだろう?こんなにも大好きで、こんなにもうれしいんだ、って。
そんなことを考えながら、頬や髪に繰り返しキスを降らせる。

しばらくは赤い顔をして、されるがままのシンヤだったけど。
突然ぱっと身体を離してしまった。

「…?なに…」

どうしたの?と言い掛けた瞬間、がちゃりと音をたてて開かれたドア。
あ、そっか。仕事中だったんだ、忘れてた。

「あーしんどー。次お前らやぞー」

怠そうにそう言いながら入ってきたのは薫くんとダイくんで。
あ、うん、と反応した俺をほっぽらかして、シンヤは無言でダイくんと薫くんの横を擦り抜けて行ってしまった。

「何、アイツ。機嫌悪いん?」

訝しげに首を傾げる二人に、何でもないんじゃない?と曖昧に言葉を濁して慌てて後を追う。
さっきのは絶対、恥ずかしさがこみ上げてきて照れたんだろうな。

「シンヤー!」

すたすたと廊下を早足で歩くシンヤを追い掛けて。
さすがに公衆の面前で抱きつくのは憚られて、隣に並んだ。
決してこちらを見ようとしないシンヤの頬はちょっと赤い。



照れ屋で素直じゃない姫は、相変わらず素っ気ないけれど。
とりあえず、一緒にいれるだけで幸せなんです。



「シンヤー、今日一緒に帰ろー」

そう耳元で囁くと、ボコッと頭を殴られた。

「真面目に仕事しろ、この万年色魔!」

万年色魔って…ひどい言われ様だなぁ。
こうなるのはシンヤだけなのにさ。



まぁ、とりあえずは仕事を早く終わらせて。
一緒に帰って、唇だけじゃない、いろんなところを触れさせてよ?シンヤ。



その赤い唇には、いつだって魅せられっぱなしなんだから、さ。

 

END

 

何かとっちセクハラ入ってますよね?爆
…すいません
マカブんときのしんちゃんを雑誌で見てたら唇に釘付けになりまして…(お前か
唇に指で触れてる最初のシーンが書きたかったんです…
最初に口紅落ちるって言ったわりにちゅーしてたんじゃ口紅落ちてますよね…
きっとリップフィニティなんですって!(スイマセン、嘘です!!逃