無意識にお前のキスの味を求めてる
LOVER'S KISS
「…なんで買ってまうかなぁ…」
買い置きしていたカートンの煙草の前に、薫は一箱だけ銘柄の違う煙草の箱を投げ出した。
長年吸い続けた愛用の煙草を、つい先日カートンで買ったばかりだったというのに。
なのに何故かそれが半分以上残っているのにも関わらず、自販機前で押してしまったメーンソールライト。
嫌になるほど見慣れた、アイツの煙草の銘柄。
「…あぁ、もう…」
薫は色を戻した黒髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、どさりとソファに体を倒した。
微かに香る、メンソールの香り。
指先、服。
染み込んだ香りは、まるでアイツに包まれているみたいな錯角を起こす。
不意に浮かんだ思考に、ふるりと首を振って。
「認めたないわ…」
小さく零れる本音。
言葉とは裏腹に、その声はやけにか細く、弱かった。
カィン、と鈍い音をたてて開いたジッポオイル。
一度は自分の煙草を手に取りながら、ちらりと買ったばかりの新しいボックスに目をやって。
「〜〜〜っ」
クソ、と悪態を吐きながら、手にしていた煙草を荒っぽい手つきでボックスに戻すと、
薫はメンソールのボックスを手にとって封を切った。
フィルターを口唇で挟んで、火を付ける。
鼻先につくオイルの甘い香り。
ジッ、と音をたてて煙草の先端が燃えて、口一杯にメンソールの香りが広がる。
メンソール独特の爽快な香味と、口内に残る苦みは。
直接ではなく間接的によく知った味、で。
ソファの背もたれに頭を預けながら、ふーっと紫煙を吐き出した。
白っぽい照明の前に、ふんわり漂う灰色の煙。
頭を真っ白にした状態で、フィルター近くまで吸いきって。
灰皿に吸い殻を落とす。
1つの灰皿に、2つの銘柄の吸い殻。
「…クソ」
もう一度、そう吐き捨てて。
薫はソファの上で片膝を抱えて、そこに額を擦りつけた。
いくら同じ銘柄の煙草を吸ったところで。
いくら普段身につけている服をまとってみたところで。
それはアイツの変わりにはなり得ない。
そんなことは重々分かっていたはずなのに。
視界の隅には、封が切られたメンソールボックス。
「…ダイ…」
膝を抱えたまま、小さく名前を呟く。
アイツはアイツでしかなくて。
何物にも代え難くて。
微かに潤んだ視界。
煙草の煙が染みたんだ、と自分の中で言い訳して。
薫は目を閉じた。
「ダイ…」
切なく呟かれる名前は。
メンソールの煙が揺れる室内にただ、行き場をなくして漂う。
END
…ダイくんと何があったんですか?(書いた本人が一番わかってない