視界を奪って
自由を奪って
悪戯してるのは俺か―――それともお前か?
「薫?」
「ッ…」
耳元に落とされる、吐息を含んだ甘い声。
見えてないはずやのに、的確に場所を捉えて攻撃してくる
その余裕は一体どこから来るのか。
明らかに有利なはずやのに、対するダイがあまりにも余裕たっぷりに見えて
何かめっちゃ落ち着かへん。
「ほら、動いてくれな俺何も出来ひんねんで?」
ダイの身体に跨ったまま、動きあぐねている俺に下からそんな急かすような言葉が聞こえて。
見えてへんねんし、と必死に自分を言い聞かせながら、ともすれば止まってしまいそうな指を叱咤し、
俺はゆっくりとダイの羽織っているシャツのボタンに手をかけた。
『お菓子くれな、悪戯すんで?』
確かにさっきそう言って悪戯をしかけたのは俺、で。
『薫っていう甘いものももらうけど、悪戯させてな?』
その後あっさり形勢を逆転し、そう俺の耳元で囁いたのはダイ。
―――じゃあ、この状態は一体どっちがどっちに悪戯してるんやろう?
「たまには普段と違うことしよか」
「は?」
あれよあれよという間にベッドに連れ込まれ、さぁ今から行為を始めましょうかと言わんばかりの状態で。
ダイは俺に覆い被さってちゅ、と触れるだけのキスを落としながらそう言ってにんまりと微笑んだ。
「な、何する気やねん…」
明らかに嫌な予感がして、腰を退きながらおそるおそる問いかけると。
「んー?ちょぉ待って」
ダイはそのまま俺の上から退き、部屋の隅にあったクローゼットを開けて。
「コレでええやろ」
そう言ってその手がクローゼットの中から取り出したモノ。
それは―――2本の、ネクタイ。
「はぁ!?お前何する気やねん!?」
付き合いだしてから結構な変態やってことは重々(それは身を持って)知ってたはずなんやけど。
未だにダイのやることはたまについていけんくなる。
そう、例えば今みたいな状況がまさにそうで。
あからさまに顔を顰めた俺とは対照的に、ダイは至極嬉しそうな表情を浮かべたまま。
ベッドの背もたれへと身体を寄せていた俺に、はい、と取り出してきたネクタイを寄越した。
「へ…?お前が使うんちゃうの…?」
てっきりこっちが使われるんやとばっかり思っていた俺は、拍子抜けして思わず素な反応を返してしまう。
「何、薫くん使われたいん?」
にやにやといやらしい笑みを浮かべたダイを
「アホか!!」
と一蹴して。
そんなことされたらたまらん、と差し出されたネクタイを引きちぎらんばかりの勢いで毟り取って睨みつける。
「で!どないせぇっちゅーねん!?」
半ばやけくそ気味で声を荒げた俺に、ダイはにんまりと微笑むと。
俺の耳元で、それはそれは甘い声でこう囁いた。
「今日は薫くんの好きにしてええよ?」
それが魅力的な―――巧妙に仕掛けられた罠やったことに、
そのときの俺は気付くはずもなく…
「薫、手ぇ止まってんで?」
「う、うっさい!」
ぱさ、と音を立ててはだけさせたシャツ。
悪戯に使ったパーカーは疾うの昔に本人が脱ぎ捨てて、今はベッドサイドに転がっている。
奪われた視界。
奪われた自由。
言われるがままに、ダイの目にネクタイを宛い、その両手を後ろで縛り上げて。
ここまでくれば主導権は俺にあって当然なはずやのに、先程から俺はそれを握るどころか
未だにダイに翻弄されてる状態。
ええ加減腹括れ!と覚悟を決めて、露わになった白い肌に口唇を落とした。
頭の中では必死にいつもダイがしてることを思い出しながら、その手順を追うようにあちこちにキスを降らせる。
「だ、ダイ…?」
「んー?」
「気持ちよぉ…ない?」
「そんなことないで?」
口ではそう言う割に、ダイの反応はあくまで静かなもので。
いつも散々良いようにされてる俺からすれば、納得いかないものに他ならへん。
ええいクソ、とやけっぱちもいいところで、俺は必死に羞恥心と戦いながら
思い切ってダイの穿いているジーンズに手をかけた。
いつもなら絶対にこんなこと出来ひんけど。
見えてへん、今なら―――
「か、薫!?」
今宵始めてダイの焦った声が聞けて、それだけで何となく勝った気分になった俺は
僅かな優越感に浸りながらチャックを下げ、中からダイ自身を取り出す。
「…っ」
瞬間、微かに歪むダイの口元。
やっぱ攻めんのって楽しい、とようやく握り始めた主導権にいたく満足しながら
布越しのソレにちゅ、と口唇を落とした。
びく、と震える身体。
「ダイ、気持ちえーんや?」
にんまりと笑いながらソレを下着の中から取り出し、先端をちろりと舐める。
トクン、と手の中のソレが脈打って。感じてることがわかって、嬉しくなる。
「か、おる…?」
不安げに揺れる、ダイの声。
嗜虐をそそられるってこんな気分なんや、と妙な納得をしながら
手の中に収めたソレに音をたてて口付けを落とす。
びく、と震える白い肢体。
所々、ダイが施す愛撫の場所を思い出しながら口唇を落として。
悪戯に強く吸い上げれば、微かに開いたダイの口から溜息にも似た吐息が零れ落ちる。
「かお、る…」
ひく、と引きつった白い喉元。
隠された目元、戦慄くように震える口元がやけに艶めかしくて。
思わずこくりと息を呑んだ。
いつもこっちがダイの思うがままに追いつめられてばかりで、ダイがイくとき
どんな顔をしてんのかとか凝視したことはなかったけど。
改めて見て、思う。
―――その顔は、反則やろ…
白い肌を赤く上気させて。
薄く開いた口唇からは、潤いを欲してるのか時折柔らかな赤い舌がのぞいている。
その舌の熱さと感触は、記憶よりも先に身体が覚え込んでいて。
覆われた目が、見たいと思う。
人懐こい光を宿した瞳は、きっと快楽に潤んで。
獲物を狙う獣のように、鋭く光らせているのだろうか。
それとも劣情を溶かし込んで、甘く溶けているのだろうか。
「ダ、イ…」
掠れた自分の声は、
一体どれ程の余裕のなさを表しているのだろうか―――
「薫?」
訝しげに名前を呼ぶ、ダイの声。
は、と気付いた時には、その口元には既に余裕の笑みが戻っていて。
下肢に蹲ったままだった俺をそのままに、ダイはやおら上半身を起こすと
ごそごそと後ろ手を動かしている。
しばらくして、パラリ、と。
軽い衣擦れの音と共に、縛っていたはずのネクタイが解かれて。
「は?って、お前、ちょ、何…!?」
「ごめんな、薫くん。やっぱ俺、マグロは性に合わんわ」
余裕のない声と共にドサリとベッドに押し倒され、そのまま口唇を塞がれる。
「ンッ、んん―――っ」
熱い、舌。
吐息ごと奪われていきそうな、キス。
「薫…」
落ちてくる、低い声。
何でコイツは、こんなに優しい声で俺の名前を呼べるんやろう。
何で名前1つで、こんなに俺を縛り付けることが出来るんやろう。
答えはわかってる。
でも素直にそれを認められへん俺は、まだ往生際悪く自問自答を繰り返してて。
酸素不足のために肩で息をつく俺を余所に、ダイは頬に口付けを落としてから
首筋に口唇を滑らせてきた。
両手を掬い取られ、指先を絡めたままシーツに押さえつけられて。
そのまま胸元に顔を埋めたダイを、キスの余韻に浸ったままぼんやりと見つめていると
いつの間にかシャツのボタンが全部外され、はだけられていることに気付く。
「…は?」
ぼうっとした、自分の声。
それもそのはず、ボタンを外すはずのダイの手は今しっかり俺が両手とも束縛してて。
意味が分からずダイを見上げた俺に、ダイは鼻先でシャツを割り開きながら
「何?」
と問い返してきた。
「や、お前どないしてボタン外したん…?」
「え、口やけど」
……や、そりゃな。
手以外でそんなこと出来るんは口ぐらいしかないやろうけど。
「…お前、もしかしてめっちゃ器用?」
「さぁ。人並みちゃうの」
「…舌でサクランボの茎結べてもたりする?」
「あぁ、出来るなぁ」
俺の問いに至極あっさりと答えたダイは
「ジーンズも脱がせること出来るけど?」
と更に耳を疑うような台詞まで吐いて。
「は?」
今度こそ訝しげな声を上げた俺に、見ててみ?と一言告げる、と。
そのまま下肢に沈み込んで、ごそごそと動いている。
プツ、という音と共にボタンが外され、そのまま歯がチャックを銜えて。
ものの数分もせぇへんうちに、くつろげられたジーンズ。
「……………」
絶句する俺を尻目に、ダイは事も無げに言い放った。
「な?」
いや、な?って。
出来て当たり前、みたいに言うけど、多分世の中の大半はこんなこと出来ひんでお前…。
「続き、してええ?」
「ッ!?」
あまりの技巧に呆然となっていた俺を、現実に引き戻す声。
繋いでいた片手が解かれ、くつろげられたジーンズの隙間からその手が差し入れられる。
「あ、もう反応してる」
「…ッ!っさい!!」
手の束縛が解かれたとは言え、ダイはまだ目隠しをしたままで。
にも関わらずダイを追いつめるのは疎か、俺の方が逆に追いつめられてる。
さっきまでは形勢逆転やったはずやのに。
至極簡単に、あっさりと。
ダイはイニシアティブを握りかえしてきて―――
「ン、ぅ……ッ…」
突き立てられる、長い指先。
身体の熱で溶けたのか、潤滑剤を塗り込められたソコがはしたないほどに濡れているのを感じる。
わざと音を立てるダイの指先が、俺の自制心だとか理性なんかを更に崖っぷちにまで追いつめて。
「ひァ、っ、ダイ、も…」
開きっぱなしの口唇から零れ落ちる、自分の声とは思えないほどに
高く、甘く濡れた喘ぎ。
手で口を覆おうにも、ダイに一括りで頭上に押さえつけられた腕ではそれも叶わずに。
「ダイ…ぃっ…」
いつもは潤んだ瞳で見上げた先、シニカルな笑みを浮かべたダイと目があって
この先の欲求を言わずに汲み取ってくれるのに、目隠しが邪魔して
今はそれすらも叶わない。
「何?薫……」
解ってるくせに、わざとそう問い返してくるダイ。
余裕のない声が、何より抱いてる身体がもう限界を訴えているのを
誰よりも知ってるのはお前のくせに。
「ちゃんと、言うて。どうして欲しい?」
掠れた声で。
紡がれる言葉は残酷で、それでいてひどく甘美な誘惑にも似て。
ダイの首に手を回し、そのまま体重をかけて体勢を入れかえる。
「っ、薫…?」
きっと驚きに見開かれているであろう瞳に、目隠しの上から口付けて
ソコに差し込まれていたダイの手を後ろ手に引き抜く。
「ンッ…」
指が出て行くときに感じた甘い疼きに息を詰めながら、そろそろと既に臨戦態勢に入ったダイに手をかけて。
焦らすように解されたソコへゆっくりと宛った。
「ダ、イ」
投げ出されていたダイの手を取って、腰を掴ませる。
熱い、ダイの手。それは自分も一緒で。
このまま溶けるんじゃないかと、錯覚のような目眩に襲われる。
ゆっくりと、長い吐息をひとつ零してから。
そのままぐっ、と、重力に預けるようにして身体を落とした。
「―――ッ!!」
「かお、る…っ」
身体の奥を開かれる、感覚。
潤滑剤の助けを得て落ちる身体を止めることもままならず、
俺は勢いのままにダイを飲み込んで。
「いッ、ぁ…」
ギリ、とダイの腹の上についた手を握りしめる。
どれだけ慣らされたとはいえ、毎回受け入れるこの瞬間には痛みを感じて。
耐えるように俯き、噛みしめた口唇に、ふわりとダイの指が這わされた。
「薫、息止めんと」
「ん…っ」
促されるがままに口を開き、詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
背中を撫でさすってくれる、大きい手。
もう片方の手で頬を包み込まれ、触れるだけの口付けが繰り返される。
啄むように、何度も。
しばらくするとようやく身体が馴染んできて。
受け入れたダイの熱さや鼓動を感じて、逆に物足りんくなってくる。
「も、ええ、から…」
「大丈夫なん?」
「へーき…ッ」
啄むようなキスの合間に、ダイを促して。
ゆっくりと律動を始めたダイの理性の引き金を引くように、俺は自らその口唇に噛み付いていった。
やがて、理性が弾け飛んだのか本能のままに貪ってくるダイに覆い被さられ、穿たれて。
されるがままに身体を揺らしながら、次第に輪郭のぼやけていく恋人の顔を見つめる。
絡み合う視線を分断する薄い布地がどうにも邪魔で。
もどかしい気持ちでどうしようもなくなり、俺は震える両手を伸ばして未だその目元を覆っていたネクタイを上へ押し上げた。
―――瞬間
露わになった瞳と、目が合う。
射抜くような強い視線。
いつもは人懐こく眩い瞳が、今はただ劣情を溶かし、鋭く細められて。
「薫…ッ」
強く、強く。
傷跡を残すかのように、奥の奥まで抉るように穿たれる。
軋むほどに抱きしめられた身体。
ただ、熱くて。
「ダイ………」
熱に浮かされ、快感の波に攫われれながらフェイドアウトしていく意識の中、
愛おしげに目を細めて此方を見つめるダイの瞳だけが、やけに強く
印象に残った。
不意にぷかりと、浮上する意識。
深海から急に沖へ連れ戻されたかのような、濁った思考の中
薄らと閉じていた瞳を開いた。
重たい身体。
指先の感覚すらはっきりしない状態は、瞬きすらも億劫に思わせて。
「…薫?」
ぼんやりと天井を見上げていた視界に、入り込んでくる鮮やかな赤い髪。
ぱさりと肩から滑り落ち、恋人の目元を覆い隠してしまうそれが今はやけに邪魔に思える。
「手、爪立ててたやろ?傷んなってるで」
すい、とシーツの上に投げ出されていた手を取られ、両手で包み込まれた。
掌をなぞっていたダイの親指が、傷になっているといった箇所を擦った途端、
ぴりっとした痛みが走る。
普段からほとんど爪を伸ばしてないと言っても、それなりに力を込めれば皮膚も抉ってしまうらしく
気付かないうちに俺はダイの肩や背中に引っ掻き傷を残してしまうことがよくあった。
「抉ったみたいになってる…。俺の腕にでも掴まっとったら良かったのに」
そしてダイは、そうして俺が残した傷を一度も咎めたことがなくて。
今も労るようにそこを撫でた後、そのままその手を自分の口元に運んでやわらかく口唇を押し当ててくる。
「薫ばっかりに痛い思いをしてほしないねん。俺にも分け与えてくれたらええ」
ちゅ、と音を立てて、中指の―――十字架の部分に落とされる口付け。
それは何処か誓いめいたものにも似て。
「…ダイ」
何と言っていいのかわからず、包まれていた手を解いてダイの表情を隠していた髪を
耳にかけ、その頬を包み込んだ。
真っ直ぐに見つめてくる、真摯な瞳。
プライドだとか常識だとか自制心だとか、俺を覆い尽くす諸々の感情を打ち砕いて
弱さや本心をさらけ出す場所を作ってくれる男。
いつも、何の迷いもなく与えられる愛情に、どれ程救われてきたんやろう。
「…愛してんで」
囁かれた言葉に、返事のかわりに身体を起こして口唇を寄せる。
言葉に出来ない想いを託して。
苦い煙草味のキスは、微かに潮の味がした。
END
遅くなりましたが、『REDREDRED.』六犬さまにお捧げいたします!
ハロウィーン話の続きですね…
季節がだいぶずれてしまってホント申し訳ないです
目隠しエロ、お待たせいたしました…笑
最終的には目隠しも束縛も全部外されてましたが笑、
これで良かったでしょうか…?
返品はいつでも可ですので!
な、何なりとお申し付け下さい!!
いつもいつもメールありがとうございますvv
これからもよろしくお願いしますー