Trick or Treat.
お菓子をくれなきゃ悪戯―――して、みたくない?
「Trick or Treat!」
楽屋のドアを開けた瞬間、そんな無邪気な声に出迎えられた。
「は?」
ぽかんと思わず口を開けたまま、ひどく嬉しそうにこちらを見ているトシヤを見つめる。
その両手は何かを期待しているかのように此方に向かって広げられていて。
何のことかわからずにその向こう側にいた京くんやシンヤに助けを求めるように視線を送れば、
ふたりは「今日は何の日でしょう?」と笑っていた。
今日は何の日…。
首を捻りながら壁際のカレンダーに目をやる。
確か今日は月曜日。
目がとまった日付には、『31』の数字…。
「あぁ!ハロウィンか」
思い当たってそう声を出せば、そうだよー!と背後からトシヤが不満げに声をあげた。
「薫くんノリ悪いー」
ぶー、とその頬を膨らまされて、思わずすまんすまんと宥めるようにその頭を撫でてやる。
俺よりも背丈の大きな子供はしばらくそうしてふてていたが、やがてころっと表情を変えると
再び俺に向かって両手を差し出してきた。
「…?何?」
「だからー!Trick or Treat!」
あぁ。お菓子をくれなきゃ悪戯するよ、ってやつか。
でも落ち着いて考えてみろや?
ただでさえ日付の感覚には疎い生活を送ってる自分たちが(俺に至っては今日が
何月何日で何の日かもわかってなかった)事前にお菓子なんか仕込めると思うか?
無理な話やろ。
「甘いもんなんか持ってへんから、これで我慢しとき」
「えぇー!って、これ薫くんの煙草じゃん!しかも1本て!」
けちーと口の減らない大きな子供は再び唇をとがらせて拗ねている。
「ケチとは聞き捨てならんなぁ…?」
ほう、と笑顔のままで握り拳を作ってやれば、トシヤは嘘ですーなんて悪びれもせずに舌を出しながら
俺から逃げていった。
やれやれ、ほんまにぎやかなやっちゃな。
そんなことを思いながら鞄を降ろして、先程出した煙草を1本口にくわえて火を付ける。
「ハロウィンに煙草て」
煙草の煙にあからさまに表情を歪めたシンヤが、手元のお菓子のパッケージを破りながらそう突っ込んできた。
「んなことゆーたってそんなん持ってへんもんはしゃーないやん」
「まぁせやけどなぁ」
ソファでごろごろしていた京くんは、そう同意しながらテーブルに広げられたシンヤのお菓子を断りもなく手にとって口に運んでいる。
「で、お前は用意しとったん?」
いつもより多く感じるお菓子の量にそうたずねてやれば、だってトシヤ拗ねるやん、と末っ子はしれっと答えた。
…シンヤ、お前トシヤよりもちゃっかりしてるわ。知っとったけど。
「すまん、遅れたー!」
ばたばたと足音をたてて楽屋に駆け込んできたダイに、トシヤは先程と同じように
「Trick or Treat!!」
と飛びついて。
困ったように此方を見てくるダイに、シンヤや京くんと一緒に声を揃えて笑った。
「そーか、今日ってハロウィンかー」
二人揃ってダイの家に帰って。
何をするでもなくソファに身体を投げ出し、たわいもないことを喋りながら煙草を吸っていると、
隣で同じようにくつろいでいたダイが急にその話題を蒸し返してきた。
あれからすぐマネージャーが来て、結局お菓子も悪戯もうやむやにされたままに仕事になって。
その話はそこで流れとったんやけど。
「みたいやなぁ。…そんなにポピュラーな行事やなかった気がすんねんけどな」
クリスマス、バレンタイン、ホワイトデー。
横文字の行事はそれなりに幼い頃から親しんできた覚えがあるけど、
ハロウィンてのはいまいち『何かした』って思い出はない気がする。
まぁ確かにこの季節になると、街角でオレンジのでっかいカボチャのオブジェを
よぉ見るなぁとは思っとったけど。
「な、な。俺も聞いていい?」
ぼんやりと思いを巡らせながら紫煙が立ち上るのを目で追っていると、
ダイがどことなく声を弾ませながらそうたずねてきた。
「何を?」
視線を落としてダイの方を見つめると、にぃっと微笑まれて。
その口唇が、予想と違わぬ言葉をゆっくりと紡いだ。
「Trick or Treat?」
その期待に満ちた瞳を黙ったまま見つめて、ふーっと紫煙を吐き出す。
しばしの沈黙の後。
「………じゃぁ、Treatで」
「って、え!?」
俺の答えが意外やったんか声を上げたダイに、事前に仕込んでおいた飴玉をポケットから取り出して押しつける。
その表情はみるみるうちに落ち込んでいって。
思わずくっと笑いが漏れた。
大方お菓子なんか持ってへんわ、と言った俺に悪戯と称して行為に持ち込むつもりやったんやろけど。
そんなに物事がうまくいくと思ったらあかんよ、ダイ?
くつくつと笑いを零しながら隣を見てみれば、あからさまに落ち込んだ表情のままで
ソファに沈み込んでいるダイの姿。
そんなダイを見ていると、何か急に悪戯心がむくむくと沸いてきて。
吸っていた煙草を机の上にあった灰皿に押しつけると、俺はもぞもぞと身体を動かして
ダイの膝の上に跨った。
いつもなら絶対にこんなことしたらへんけど。
…今の俺には、ちょっとした野望があんねん。
「だーい」
「なん…」
「Trick or Treat?」
俺の言葉に目を見開くダイ。
俺からそんなことを言われるとは思ってもみーひんかったやろ?
「お菓子くれな、悪戯すんで?」
堪えきれない笑いを噛み殺しながら、ダイの肩に手を置いて、ゆっくりと顔を近付ける。
ダイが驚きを隠せない表情のままにこくりと息を呑むのがわかった。
瞬間、ダイの肩に垂れ下がっていたパーカーのフードをばさっとその頭に被せて。
「ちょ、薫…!」
驚いたように声を上げたダイの口唇を、自分のそれで塞いだ。
「…っ!?」
視界が塞がれて、唐突に口付けられて。
混乱してるんやろうダイの口唇を舌で割って、咥内に侵入する。
いつもはペースを乗せられてばかりやけど、今のダイはされるがまま。
きっと何が起きてるか理解するのでいっぱいいっぱいなんやろう。
逃げる舌を追って、舌を絡ませて。
結構攻めんのって楽しいな、とちょっとした発見に笑いを零しながら
口付けを深くしていく。
と、唐突に強く舌を絡め取られて。
「んぅ…っ!?」
いつもよりも強引なしぐさで、口腔をまさぐられる。
ダイの視界を覆うように被せたフードを握りしめたまま、ペースを乱された
口付けに翻弄されて。
ようやく口付けが解かれる頃には、息も絶え絶えで身体からくたりと力が抜けきっていた。
ぱたりと俺の手が落ちたのに気付いたのか、ダイはそのままフードを髪ごと片手で掻き上げて。
「煽ったんは薫やからな」
「は!?っ、」
体勢を入れ替えられ、どさりとソファに押しつけられる。
煌々と光ったままの蛍光灯の眩しさに思わず目を細めると、上からダイが覆い被さってきて。
「ちょ、何して…!?」
荒っぽい手付きで服の裾から手が差し込まれ、慌ててその手を掴もうとするものの、
辿り着いた胸の突起をぎゅっと摘まれた。
「ぅあっ」
思わず零れた声。
しまった、と後悔するには既に遅く。
逆行でよぉ見えへんけど、ダイの口元が緩んでるのが明らかに感じ取れた。
「…こーやってさぁ」
俺の両目を覆う、ダイの大きな掌。
強く香る煙草の匂い。
「視界塞がれると、他の感覚が敏感になるやん?」
ぎ、とソファが微かな音を立てて。
近付いてくるダイの身体。
感覚的に拾う、ダイの気配。
ぺろりとやわらかな感触で口唇をなぞられて、思わず身体が震えた。
「ほら、めっちゃ敏感」
く、と喉の奥でダイが笑う。
視界の塞がれた状況では、確かに他の感覚が敏感になって。
何をされるかわからへん状態に、身体は隅々まで鋭敏になってどんな小さな感覚すらも拾おうとする。
「めっちゃ煽られた」
「っ、ダイ…」
舌で口唇を割られ、そのまま咥内を蹂躙されて。
飲み込みきれない唾液が口角から頬を伝い落ちていく。
ぴちゃりと唾液の絡まる濡れた音が、耳から離れへん。
「や…っ」
伝った唾液をなぞるように、頬から首筋に落ちてくるダイの舌。
いくら首を打ち振ったところで、ダイは目を覆う手を解放してくれる気はないらしい。
与えられる感覚が、目に見えへんっていうだけで増幅していく。
不意に服の中をまさぐっていた手に突起をなぞられ、びくんと身体が跳ねた。
「もっかい聞こうかな」
「っぇ…」
「Trick or Treat?」
耳元で落とされた、吐息混じりの言葉。
「薫っていう甘いものももらうけど、悪戯させてな?」
END
ハッピーハロウィーン!
Trick or Treat.が実は歌から来てるってご存じでしたか?