花火
2ndshot
「か、薫く………?」
正直言って、驚愕した。
玄関を開けて俺を出迎えてくれた薫くんは、先程までスタジオにいたときの普段着ではなく、
見慣れない濃紺の浴衣に身を包んで。
普段背中を流れている長い髪は、綺麗に結い上げられて細い首筋が露わになっていた。
合わさった胸元からちらりと見える白い肌は、これ以上ないくらい扇情的で。
思わず、こくりと息を呑む。
「ダイ…?」
動きを止めた俺を、少しばかり潤んだ目で見上げる薫くん。
―――ヤバイヤバイヤバイ。それは犯罪的やって、マジで!
かぁ、と血が上って。
思わずそこに押し倒しそうになるのを必死に堪えて、俺は何とか平静を装って反応を返した。
こんな所でそんなことをしようものなら、きっと速攻で平手打ちをくらってほっぽり出されること間違いなし。
浴衣の薫くんを堪能するはおろか、一緒にいることすら危ぶまれてしまう。
買い込んできた酒を薫くんに手渡すと、まぁ上がれや、とリビングへ通される。
俺に背を向けて先行く薫くんの、耳元や首筋が微かに色付いていて。
あぁ、緊張してたんや。そう思って、少しにやけてしまった。
きっと俺を喜ばそうと着てくれたに違いない、浴衣。
普段は滅多に愛情を口にしたりしてくれへんけど、ごく稀に。
こうして何気ない風を装いながら俺を驚かせてくれる。
そんな控えめな愛情表現が何よりのサプライズで。
思わず緩む口元を手で覆う。
ドアを開けた瞬間の、俺をのぞき込むような体勢で見上げられた、あの表情はホンマにヤバくて。
反芻するだけでもバクバクと心臓が早鐘を打つ。
そこはかとなく漂う色香。
潤んだ少し色素の薄い瞳。
露わになった項に流れる後れ毛。
動くたびにちらちらと見え隠れする、胸元の白い肌。
全てが壮絶な艶やかさをもって俺に襲いかかってきて。
「や、ばい……」
知らず、零れた独り言。
おさまりなんてききそうにない。
正直花火なんてそっちのけで、丁寧に着付けられたその浴衣の下に隠された肌を暴きたくて。
恥ずかしがり屋で、照れ屋で、シャイな薫くんという人。
そんな彼を知っている分、俺を喜ばせるためにこうして浴衣を着てくれた、
その事実だけでも充分過ぎるほどなんやけど。
たぶん本人は気付いてない。
それが、どれだけ色っぽくて殺人的なフェロモンを撒き散らしてるか。
昔、まだ薫くんと付き合う前。
可愛い彼女が浴衣とか着てきて、さらに可愛くなったところを一緒に連れて周りに見せびらかす、
そんな優越感に浸ってた時期もあったけど。
今回だけは、どんなに薫くんが外に行こうって言っても出したくない。
見せたくない。
他の人間に晒すなんてもったいなさ過ぎて俺が耐えられへん。
ただでさえいらん虫がつかんようにすんので苦労してんのに、
わざわざその虫を増やす余計な苦労なんてする必要ないし。
そんなことを頭の中で考えながら、1人にやけたり顰めっ面したりしていると
薫くんがリビングの方から訝しげに俺の名前を呼んだ。
「もう花火始まるで。何してんねん、お前」
からら、と音をたてて開けられた窓。
先程までつけていたクーラーを切ったのか、途端にむっとした夏の空気が部屋の中に入り込んでくる。
「ごめんごめん、すぐ行く……」
そう言って、入り口近くにあった電気を消して。
薫くんの隣りに向かおうとした、その、瞬間。
ドーン、という銃声にも似た音と共に、夜空に眩い華が咲き乱れた。
「あ……」
ぱらぱらと音をたてて、落ちる火花。
部屋が一瞬鮮やかな光に包まれて。余韻を伴って、闇が落ちる。
「お前が何やちんたらしてるから始まってもたやん!」
最初から見るつもりやったのに!と、薫くんが憤慨しながら俺に背を向けて。
わざわざベランダに出しておいたのか、下駄を鳴らしながら外へ出た。
一瞬の出来事だったけれど。
俺の目蓋に、焼き付いた残像。
ただ、眩しくて。
艶やかに光を纏ったその姿が、離れない。
「ダイ、何しとんねんお前。はよ来いや」
スローモーションで俺の目に映る、振り返る薫くんの姿。
ぱらりと音をたてて白い項に落ちる後れ毛。
ひゅ、と音をたてて、火種が夜空高く舞い上がる。
「あ………」
光が尾を引いて。やがて華開く。
「おぉ……」
鮮やかすぎる、澄んだ青色。
華開いてやがて色を変えて。
パリパリと音をたてて夜空に光が降る。
「ダイ、見た?凄いな」
無邪気に笑う、その顔。
ただ、綺麗で。
静かに息を呑む。
先程まで燻っていた劣情の導火線に、音もなく火がついて。
「まだそんなとこおるん?はよこっち来いって」
そう言って差し伸べられる、白い掌。
その背後では先程とは違った形の花火がザーッと波が寄せるような音をたてて消えて。
時間をおくこともなく、また新しい火種が夜空を高く昇っていく。
「ダイ?」
黙ってその手を取って。
少々強引に抱き寄せる。
「ちょ、ダイ!?」
声をあげるその身体を抱きしめて、口付けた。
瞬間、夜空に大輪の華が咲き乱れて。
火薬の香りがふわりと風に乗って辺りを舞う。
「ん……っ、ダイ…!」
息を切らしながら、睨みつけてくる切れ目の瞳。
光を受けて、キラリと光って。
濡れた目元が醸し出す妖艶すぎる雰囲気。
凛として。
儚げで、艶やかな、薫くんという存在。
いつもは透徹した意志の強い瞳が、劣情を溶かし込んで。
甘く濡れる。
そんな顔をさせるのが、たまらなく好きで。
「薫……」
頬に手を添えて。再び口唇を触れあわせる。
「ダ、イ、花火………っ」
絡め合わせた舌。
口唇が離れるのを見計らって、紡がれる言葉。
掠れた声と共に零される吐息がこれ以上ないくらい扇情的で。
「…ごめん、薫くん」
その身体を抱き上げる。
ひゃ、と驚いたように声をあげた薫くんを、そのまま寝室へ連れて行って。
相変わらず軽い身体をベッドに降ろし、慌てて身体を起きあがらせようとするその上に跨る。
俺の肩を必死に押し返そうとしている両手を頭の上でベッドに縫いつけ、
開いた片手でベッドの傍にあった窓のカーテンを全開にさせて。
「ちょ、何して、ダ…」
何処か泣き出しそうな顔で俺を見上げてくる薫くんの口唇に、ちゅ、と口付けを落とす。
ベッドの高さがあってか、ベランダの柵の向こう側に華開く夏の風物詩はここからでもよく見えて。
露わになった首筋に口唇を這わせる。
落ちた後れ毛がたまらなく蠱惑的で。
軽く吸い付きながら、浴衣の合わせ目に手をかけた。
「や…ダイ…」
弱々しく押し返してくる、腕。
その手を取って、爪先に口付ける。
悪戯とばかりにそこに歯も立てて。
「ひゃ……んっ……」
びくり、と震える身体。
思わず零れた甘い声に、薫くんは慌てて自分の口をもう片方の手で押さえつけている。
…まぁすぐにそんな余裕もなくなるやろうけどな。
はだけさせた胸元。
露わになった白い胸板に、そっと口付けを落とす。
いっそ過敏なほどに反応を返してくる身体。
そんな薫くんが愛しくて。
絶えず響き渡る轟音。瞬間ぱっと照らし出される部屋。
暗闇に薫くんの白い肌が浮かび上がっては消えて。
「んっ………ぅ……」
先程から音が響くたびに、薫くんは身体を震わせている。
おそらく敏感になった身体がそれだけで反応してるんやろう。
絶えずびくびくと震えている薫くんの身体を抱き留めながら、俺は気付かれないようにこっそりと微笑んで。
「薫?気持ちええ?」
その肩から浴衣を落とす。衣擦れの音をさせて腕へと滑り落ちるそれ。
肌をまさぐって指に引っかかった突起に爪を立てる。
途端、俺を押し返そうと悪あがきを続けていた指先に力がこもって。
「あぁ、ほら。口唇噛んだらあかんってゆーたやろ?」
噛み殺した声に顔を上げれば案の定、薄い口唇が噛みしめられている。
身体をずり上がらせて開かせた口唇を舌でなぞると、熱い吐息と共に微かな嬌声があがって。
仰け反って露わになった首元に舌を這わせながら、指先でとらえた突起をこねくり回して。
もう片方を辿り着いた口唇で挟み込んで、歯を当てる。
ぷっくりと勃ちあがったそれに唾液を絡ませて吸い上げると、薫くんはびくびくと身体を震わせながら
俺の髪に指を通し、強く握りしめてきた。
「可愛い、薫…」
銀糸を引いた状態でふっとそこに吐息を吹きかけると、それだけで大袈裟に反応を返してくる身体。
再び突起に歯を立てながら、身体のラインをなぞるように指先を落としていく。
捲れ上がっていた合わせ目から、太股をなぞって。
ゆっくりと、焦らすように中心部へ指先を這わせていくと。
「…あれ?」
あるはずの布の感触がなくて、俺は思わず声を上げた。
「かお、る………?」
驚きのあまり目を瞬かせながら、薫くんの顔を覗き込もうとする。
と、途端にふいっと背けられる顔。
その頬が、闇に慣れた目で見て取れるくらい、紅潮してて。
「………」
ほとんど残っていなかった理性が、がらがらと音をたてて崩壊していくのを感じた。
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