クリスマスだとか、バレンタインデーだとか、誕生日だとか。
恋人たちがデートを取り付けるのに絶好の理由があるイベント事に託けるわけではないけど。

やっぱり、男としては付き合ってるコがデートの度に可愛くしてきたりしてくんのって嬉しいやん?
それが普段見慣れへん格好
―――例えば、浴衣とかやったりしたら、尚更。

お誂え向きに、来週は花火大会。
それも俺の家から見えるっていう、絶好のシチュエーション。
…これを利用せぇへん手は、なくて。

 

花火
1stshot

 

この間、たまたまふらっと街へ買い物に出かけたときのこと。
店頭にディスプレイされた服にまじって、何故かやたら浴衣が陳列されてて。

首を傾げていた俺に、飛び込んできた『花火大会』の文字。

「…あぁ…」

そういえばもうそんな時期か。
全く季節感のない生活を送っている自分に少し苦笑しながら、夏の風物詩の代名詞でもあるその行事の
詳細が刻み込まれたポスターをぼんやりと眺めて。
少し視線を滑らせて、薄いサングラス越しにそのポスターの横、ガラスに映った自らの姿を見つめる。
紫の頭に、垂らされた長い髪。黒い服に、ごついリングが嵌められた指先。
どう考えても可愛いとは言い難いその姿を改めてマジマジ見つめて。
こんなんを可愛いっていうアイツはやっぱりおかしい、と苦笑しつつ、ガラスの向こうの浴衣に視線を移した。

付き合ってるコが着慣れへん浴衣とか着て、いつもと化粧も変えて、可愛くしようと頑張ってる、
そんないじらしさが何よりも愛しくて、嬉しかったのを思い出す。
別にダイが俺にそれを望んでるわけやないけど。
それでも俺がそんな風な行動をとったとしたら。

………ダイは、喜んでくれるんやろか?

「…キモ。乙女思考か、俺…」

降って沸いた考えを、一笑する。
けど、その思いはなかなか胸の中から消えんくて。

―――結局、浴衣は疎か着付け用のビデオまで買い込んで帰宅した俺がいた。



たまにふらっと泊まりにくるダイに計画がばれたら元も子もないので、買った浴衣諸々は仕事部屋の一角にこっそりと隠しておいて。
とりあえず一回着とかんと当日失敗しても嫌やし、と思って浴衣にも袖を通してみた。
普段着慣れへん浴衣に、やっぱり悪戦苦闘・四苦八苦して。
姿見に映った、自分のどうにか見れるようになった格好を見つめながら、ふぅと溜息をひとつ。

これだけで伸びたんちゃうか、と思うほど巻き戻したビデオを取り出してケースに戻しながら、手順を頭の中で反芻させて。
…まぁ、なんとかなるか。そんなことを思いながら、着付けた浴衣の帯に手をかけて緩める。
皺にならんように、丁寧にそれを脱いで今まで置いていた場所に戻して。

銜え煙草のままで、どさりと身体をソファに沈めた。
別に大した作業をしたつもりはなかったんやけど、やっぱり慣れへんこともあってか結構疲れたみたいで。
女の子はこれにさらに化粧して髪まで結い上げるんか、とぼんやりと考えながら、立ち上ってゆく煙草の煙を見つめる。
見てる分にはおぉ可愛い、とか、色っぽい、とか。
そんなことしか考えてなかった気がする。
着付けがこんなに苦労するとは思ってもみぃひんかったし。
少しばかり今まで付き合ってた女の子たちの大変さがわかって、俺は苦笑した。






そして、当日。
先日一度着てみたおかげで、思ったほど時間をかけることもなく浴衣を着付けることが出来て。
ちらりと時計を見上げれば、ダイが酒を持って俺の家に来ると約束していた時間までまだ小一時間ほど余裕があった。

行われる花火大会は、結構打ち上がる花火の数も多くて名の通ったものらしい。
偶然にも今日はスケジュールが緩くて、他のメンバーも夕方には解放されとって。
帰り際、トシヤがシンヤや京くんに花火行こうよー!!と騒ぎ立てていたが、人混み嫌いな二人は怪訝な顔をして文句ばかり言っていた。
巻き込まれたら計画が台無しや、と早々に俺はその場を後にして。
追いかけてきたダイを、まだ家が片付いてないからお前は酒でも買ってきてや、と上手く言いくるめて現在に至る。

姿見で自分の格好を何度も何度も確認して。
背中を向けた瞬間、目に入ったただしばられただけの髪の毛の束。

「………」

まだ時間もあるし。お誂え向きに髪の毛をとめるピンも置いてあるし。
と思って、俺は洗面所に移動して長い髪を結い上げる。

髪を上げるだけでも、結構雰囲気出るもんやな。

「これでええ、か…」

すっきりした首もとを見ながら、手を止めて。
腕を挙げていたせいで少し開かれてしまった胸元を手早くなおして、リビングに移動。

約束の時間まで、後少し。

柄にもなく早鐘を打ち始めた心臓に、落ち着けと苦笑しながら煙草に火をつけた。

―――ダイはこの姿を見て、何て言うやろう?

そんなことばかりが頭の中をぐるぐると回って。
不意に静寂を破るようにして響いたチャイムの音に、俺はビクリと肩を竦ませて玄関のドアを見つめた。



『……はい』
「あ、薫くん?俺。もう片付いた?」
『あぁ、うん。開けるわ…』

合鍵を持っとるくせに、こういうところはちゃんと気を遣ってくれるダイ。
そういうところが、好きだと思う。
…そこだけに惚れた訳じゃないけど。

うるさいくらい脈打つ心臓を押さえつけて、ふぅ、と深呼吸をひとつ。
震える指先で鍵を捻って、ドアノブに手をかけた。

「ごめんなぁ、ちょぉ遅なってもて。近くのコンビニ凄い人やって……」

ん、と続くはずのダイの言葉は。
俺の姿を見て、途切れた。

 

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