合宿中、京くんとエッチ出来なくなった。
原因は愛しい俺の恋人の言い分。
ではなく、明らかに俺と京くんの恋路を邪魔してる我らがリーダー、なわけで。
「―――そんなわけで、今日から二人部屋にする」
俺からすればとってつけたような理由で高らかに宣言された言葉に、
逆らおうとするものは誰もいなかった。
シンヤは部屋割りなんかに興味がないのか、はたまたひとり部屋がもらえると聞いて
意義はないのか、薫くんの言葉に黙って頷いているし。
ダイくんはこちらを気遣いつつも、やっぱり異議を唱えないし。
俺はといえばそんなの死活問題で、どうすればその言葉が覆ってくれるか必死に思考回路を働かせてるのに、
恋人の京くんはけろっとした顔で「うん、ええよ」なんて。
途端にがくーんと項垂れた俺に、まんまと策略が成功したリーダーは勝ち誇った笑顔をこちらに向けてくる。
「じゃ、解散」
仕組まれてたんじゃないかと思うくらい、部屋割りもリーダーの思い通り。
俺が想い人と同室に!…なんてことは、ペンギンが空を飛ぶくらい有り得ないことで。
部屋について荷物を置いた途端、思わず俺の口から零れた大きな溜息に、同室のダイくんが
宥めるようにして俺の肩に手を置いた。
「…ま、そんな落ち込むなって。たかだか1週間の辛抱やろ」
たかだか1週間。
されど1週間。
それも、毎日顔を突き合わせて毎日同じ場所で仕事をしてて。
「我慢出来るわけがない…」
情けない声でぽつりと呟いた俺に、ダイくんは困ったな、という風に
小さくため息をついて頭を撫でてくれた。
「お前も苦労してんな」
何が、とはあえてダイくんは言わなかったけれど。
言いたいことは大体わかる。
俺は再び溜息をつくと、ごろりとベッドに寝転がった。
積年の思いでようやく恋人になれて。
毎日が薔薇色!なハズが、思わぬところで強敵の登場。
あれこれ手を回して俺と京くんの恋路を邪魔してくる―――薫くん。
俺にとって京くんが特別な存在であったように、薫くんにとってもまた、
京くんは特別な存在だったんだと思う。
それが親友か恋人か、量りかねることもあったけれど。
結局京くんの恋人に選んでもらえたのは俺だったわけで。
今ならわかる。
薫くんが、親友か恋人か、どちらのポジションにいたかったのか。
でもだからと言って、俺もこの場所を手放す気なんてサラサラなくて。
「負けないから」
ぽつりと、呟く。
それはあの人への、そして、自分自身への宣戦布告。
こんなことでへこたれるわけにはいかないから。
だけど。
早くも挫折してしまいそうになっている、3日目の夜。
昼間は音あわせやら打ち合わせやら仕事詰めで、触れ合うどころか話をするのがやっと。
夜は薫くんとゲームをしてるんだとかで、電話どころかメールすらもままならず。
すっかり覇気をなくしてしまった俺に、ダイくんはお気に入りの酒と
ツマミをわざわざ差し出してくれた。
「あと4日…」
長すぎる、明けない夜を待っているような、果てしなさ。
壁一枚隔てたところにいるのに、触れ合えないのがこんなにつらいとは思ってもみなくて。
「京くーん…」
枕を抱きかかえたままの体勢で呟く名前。
その夜夢に京くんが出てきたけど、つかまえることが出来ずに目が覚めた。
最悪の目覚めで迎えた4日目の朝。
相変わらず京くんの手をひいて逃避行する時間もなければ、存分にいちゃつく時間もなくて。
ただ時間を消化することを覚えた夜、無駄な足掻きはやめてさっさと寝ることにする。
夢を、見た。
「…ヤ、トシヤ」
揺り起こされる身体。
少しずつ覚醒に向かっていく意識。
久々に聞いた甘い声に名前を呼ばれて、俺は半覚醒のままに
触れていた手首を掴んで自分の方へひいた。
「うわっ!?トシヤ、あぶな…!」
ずしりと、感じる重み。
随分リアリティのある夢だなぁ、なんて何処か遠くで考えていると、
不意にぎゅぅ、と両頬を抓られて。
「ぃててててて…!!」
「起きろやーせっかく来たったのにー」
「ふぇっ!?京くん!?」
「おお、起きたか」
抓られた両頬をさすりながら目をぱちくりさせてみるものの、
目の前の京くんは紛れもない実体で。
「せっかく人がダイくんに頼んで部屋変わってもらったったのに、
お前はぐーすか寝てるし…ってオィ!コラトシヤ…ッ!!」
「京くーーーんっ!!」
ぱたぱたと尻尾を大振りにして飛び掛っていく犬よろしく、京くんに飛び掛る。
頭上で痛いとかバカとか罵声が飛んできたけど、今はこの存在を離せるわけもなく。
ぎゅぅと腕の中の暖かな身体を抱きしめる。
そのうちに抵抗するのに疲れたのか、京くんもされるがままに背中に腕を回してきてくれて。
「京くんーvv」
頬を擦り寄らせると、よしよしと撫でてくれる優しい手。
匂いに、感触に、あぁ京くんだ、なんて今更ながらに思う。
「京くん」
「うん?」
「好きだよー」
「はいはい」
足りなかったものが満ち足りていくのがわかる。
凄いな、俺。
『京くん欠乏症』なんて。
ホントにそんな病気にかかっちゃうかもしんない。
「京くん」
髪に触れて。指先を絡ませて。その身体を抱きしめて。
くちづける。
ずっと、焦がれていたもの。
今はただ、キミを感じていたくて。
「ったく、薫くんも意地悪いよなぁ」
ぷしゅ、と缶ビールのタブを開けながら、ダイがくすくすと笑った。
「あにが?」
憮然とした態度で缶ビールに口をつけながら薫が聞き返す。
喉に流れ込んだ苦い液体に思い切り顔をしかめつつ。
「今の目的はどっちなん?」
京くんが好きやから邪魔したいん?
それともトシヤの反応がおもしろいからいじめてるだけ?
言外にそう含まれたダイの言葉に、薫は口角だけをあげて微笑んで。
「秘密」
そう言って一気に残りのビールを煽った。
「ま、俺はどっちでもええねんけどな」
「お前ムカつく!」
ふっと微笑んでダイが肩をすくめる。
京くんのことであれだけ気を動転させているトシヤも見物やったけど。
さすがに夢でまで魘されてるなんて…ある種凄いよな。
昨晩のことを思い出して、思わず口元が緩む。
「…お前、何ニヤニヤしてんの」
不意に飛んできた薫の冷たい一瞥。
ダイは「べつにー?」と茶化すように答えると、手元のビールを一気に飲み干した。
END
そしてダイくんは薫くんのことが好きだったりする裏設定
薫くんもそれに気付いていながらまだ京くんへの想いを断ち切れずに揺れてる
そんな2人に春は来るのでしょうか?笑