くちびるの感触を想像した日

 

First Kiss

 

「薫くーん?」

スタッフがバタバタと探し回っていた薫くんを、ちょっとした息抜きも兼ねて
自分が探してくるわ、と言い出したのがついさっき。
ここにいる、と言っていたはずの作業部屋ではその姿を見ることが出来ず、
擦れ違った人間に聞くのも何か気が乗らんくて、目につくドアを
ノックもなしにひとつひとつ開けては閉めて。

無言でドアを開けたかと思えば何も言わずに閉める俺を中におったダイくんやトシヤは
不思議そうに見つめとったけど、それに答えるのも何か億劫で。
ひんやりした廊下をすたすたと歩きながら、単調な作業を繰り返す。
そのうち自分が何のためにこんなことをしてるんか忘れ始めた頃、
ある部屋で机に突っ伏して爆睡している薫くんを発見した。

「あ…」

―――そういや探しとったんやっけ

鬱陶しく目にかかる前髪を掻き上げながら、後ろ手にドアを閉める。
パタン、と思ったよりも大きな音が響いて、起こしたかと一瞬危惧したものの、
目の前には変わらずに上下する背中があってとりあえずほっと息をついた。

―――さて、どうしたもんか

見付けたものの、ここで心地良く寝てるのを起こすのも何か癪で。
でもこのまま寝かしといても風邪ひいてまうかもしれへんし…
そんなことをぼんやりと考えながら、足音を立てないようにして
その傍に近寄った。

「薫くん?」

小さい声で名前を象る。
案の定、返ってくる返事はない。

机には散らかされた資料やら何やらの紙。
薫くんはその上に腕を置いて、そこに突っ伏す形で規則正しい寝息を立てていて。

片頬を机、というか、腕にくっつけたまま、顔を此方側に向けて眠っている薫くん。

薄く開かれた口唇。
目蓋が閉じられたその表情は、いつも目が与える印象がない分
やけに幼くあどけなく見えて。

「かお、る…」

知らず ドクン と。
鼓動が跳ね上がるのを、感じた。

何で男に、とか。
何で親友である薫くんに、とか。

疑問や葛藤がなかったわけじゃない。

でも、何故か。
そのときはただ、薫くんにキスしたい、という欲求だけが
俺を突き動かしていて。

音もなくその傍に屈み込んで、そぅっと。
口唇を近付ける。

きっと今までキスしてきた女のコに比べたら、やわらかくも
甘くもないだろうその口唇。
でも、今の俺にはそれがたまらなく魅力的に感じて。

鼻先を近付けた瞬間、ふわりと掠めたのは薫くんがいつも吸っている煙草の匂い。

そうして、一瞬だけ。
触れた、口唇―――






「…王子様だね」
「あぁ、眠れる森の美女?」
「その場合薫くんが美女…?想像出来ん…」

ドアの向こうでデバガメ組がそんなことを言ってたとは露知らず。
俺はただ、触れた熱に思考を奪われたまま。

何も知らずに規則正しく寝息を立てる薫くんを見つめながら
まだうっすらと感触が残っている自分の口唇に触れる。
冷たい指先。先程触れた口唇の熱とは程遠いそれ。



そのときになって、やっと。
俺は、情けないほど恋に落ちている自分の気持ちに気付いたのだ―――

 

END

 

どうでしょうのヨーロッパリベンジを見ながら書きました
眠れる森の美女はミスターが洋さんにちゅーしようとしてて、洋さんが
車から逃げてミスターがそれを追っかけてるので大爆笑してました
メルヘン。笑