fall in love

 

初夏の夜。
静寂が落ちた住宅街を、肩を並べて歩く。

時折、生ぬるい風が悪戯に傍を通りすぎていって。
ふわりと京くんが羽織っていたシャツが、風にはためいて揺れる。

暗闇に青白く浮かび上がる、白い肌。
ひどく冷たそうな印象を受けるそれに、一瞬目を奪われて。

「…薫くん?」

ぼんやりしていたのであろう俺に、京くんは不思議そうに首を傾げて此方を見つめた。

「どないしたん?ぼーっとして」
「や、何もないねんけど…」



いつだってそう。
京くんの一挙手一投足に目を奪われて。
その僅かな表情の変化に見惚れて。

恋をする。
繰り返し。

やけどそんなことを口には出せへんから。
思いついた最もらしい言い訳で、その場を濁す。



「さっき、京くん寒い寒いゆーてたから。大丈夫かなって」

先程までいた飯屋で。
この季節にしては効き過ぎちゃうかと思うほどの冷房に、京くんは肩を震わせとって。
冷たそうに見えるのは気のせいでもないんかな。
薄手の長袖のシャツに覆われた身体にちらりと視線を落としながら、そんなことを考えていると。

「あぁ、うん。大丈夫やで」

シャツがはためくのを気にもしない様子で、答える京くん。
肩からシャツが落ちて、タンクトップに包まれた肩が丸見えになっている。



風が、色素の抜けた髪を靡かせて。
舞い上がる蜂蜜色。
たったそれだけのことなのに、目が、離せない。



「気持ちいいな、風」

うっすら目を閉じながら、京くんが呟く。
ウォレットチェーンと鍵が擦れあう、鈍い金属音が静かに響いた。

「な、薫くん」

にこっと笑って、京くんが此方を見る。



その表情に、また恋に落ちて。
繰り返し繰り返し。
俺は、京くんという人間に溺れていく。



―――胸が、疼いて。焼け付くように、痛い。



「京、くん…」
「ん?」

立ち止まって。
不思議そうに顔を上げた京くんの身体を、抱きしめる。

「ちょっ、薫くん!?」

驚いて声を上げた京くんの頭を抱え込んで。
胸元に押しつける。

「何すんねん、離せって…!人来たらどないすんねん!!」

時間帯を考えてか、いくらか声を抑えながら必死に抵抗して叫ぶ京くん。
ごめん、とその耳元で謝りながらも、腕の力を緩めない俺。



京くんが、好きで。
本当に、大好きで。



それでも、俺には京くんにこの気持ちを伝える術が少なすぎて。
行き場のない想いが、いつも自分の中で空回り。

例えその響きにぬるい惰性の匂いが潜んでいたとしても。
『好き』という言葉に頼らざるを得ない俺を、京くんはどれぐらい理解ってくれてるんやろう。

歯痒く思っては、想いを焦がして。
そのたびに恋をして。

もしも、なんて考えへん現実主義者やけど。
もしもまだ、願いが1つだけ叶うんやとしたら。

この想いが、そのまま京くんに届けばええのに、と思う。

誰もが共有するであろうこの感情。
それでも、俺が抱えた京くんへの感情は、他のどんな人間よりも特別で。

他人に理解ってほしいわけやない。
ただ京くんにだけは、伝わっていてほしい。



「……薫くん」

しばらく腕の中であれこれ抵抗を重ねていた京くんは、やがて諦めたのか、ゆっくりと俺の身体に手を回して。
小さく名前を呼ばれて顔を上げると、下から掬うように口唇を掠めとられた。

「京、くん……」

言葉に雄弁な京くんでも、言葉に出来ひん感情はきっとあって。
だからこうやって行動で示す。
抱きしめたり、キスをしたり、体温を分け合ったりしながら。

精一杯相手に気持ちを伝える努力を重ねて。
不器用な俺たちは、恋をする。
繰り返し、繰り返し。

そうやって、何度だって恋に落ちていく。






「…帰ろうや、早く」

ぽつりと、京くんが呟いた。
俺の背から離れた手が、そのまま俺の手を掬って。

緩く、握りしめられる。

俺より少し大きな京くんの手。
ひんやりとした感触が、伝わってきて。

空には、見慣れてしまった濁った月。
黒い影を背負った雲が、風に煽られて急速にその姿を隠していく。

夜の淵でただ、京くんの体温だけがリアルで。

「…そうやな」

握りしめられた手を、強く握り返す。
ふわり、と笑う京くん。



伝える術はごく僅かかもしれんけど。
俺たちはこうやって気持ちを確かめ合いながら、日々を過ごしていく。

擦れ違うこともあるかもしれへんけど。
繋いだ手のぬくもりだけは、確かやから。



「京くん」
「ん?」
―――好きやで」
「…うん」






――――――俺が生きる上で、これ以上の意味はなくたっていい

 

END

 

ちょっとセンチメンタルな感じが書きたかった
のに、玉砕してますネ…涙
(たぶんセンチメンタルの意味を履き違えてる
京くんが好きで好きで仕方ない薫くん
好きっていう気持ちを伝えるのは、本当に難しいことだなって思います

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