永劫回帰
2ndrevolution

 

「え…?」

思わず顔を振り向かせると、思った以上に真剣な瞳をした顔がそこにあって。
言葉を失う。



―――最後まで、ってそれはつまり、その……



「なぁ、シンヤ…あかん?」

頬をす、と撫でられて。
その視線を直視出来ずに思わず眼を逸らした。






「途中でやめるから」

そう言って俺の身体に手を伸ばしたのは紛れもないダイくんで。
こうなることも予知出来たはずやのに、甘んじてその手を受け入れたのは俺。

興味がないわけやなかった。
ダイくんが、どんな風にセックスするのか。
どんな風に愛するのか。
それに加えて男同士のセックスっていうものにも。

ハイリスクなのはよくわかってた。
この状況じゃ受け入れるのはどうしたって俺の方。
ましてやどちらも同性は未経験とあれば、不安は拭い去れないけれど。

その手に触れられるのが気持ち良くて。
ダイくんの唇が身体を這うのが心地好くて。
自分ばっかり、という気持ちも無きしにも非ずで。

長い逡巡の後に、小さく頷く。
わかっているのはダイくんが俺のことが好きで、俺やからセックスしたいって思ってくれてるってこと。
優しいダイくんは俺が嫌って言えばせぇへんことくらいわかってた。
でも、それでまた知らない人を傷付けて、またダイくんが傷付くことになるって考えたら、そっちの方が余程嫌で。



だって、受け入れたのは俺。
甘えてこいって、そう言ったのは俺なんやから。



頷いた俺に、ダイくんはありがとうって笑って。
その笑顔が見れただけでもええかなんて、そんなことを思った。






左肘をついて、俺の身体に覆いかぶさりながらダイくんが繰り返し口付けを落としてくる。
目を閉じてその首に手を回しながら、それを受け入れて。
やがてゆっくりと、俺の放ったモノで濡れたままだったダイくんの手が、ある一点に触れた。
不安げに目を開けた俺に、ダイくんは大丈夫って繰り返して。
何度か深呼吸を促され、身体の力が抜けたのを見計らって、ダイくんの指がゆっくりと中に沈んだ。

「…っ…」

痛み、はほとんどない。
けれど違和感と異物感だけはどうしても否めなくて。

「平気そう?」

心配そうにダイくんにかけられた言葉にひとつ頷いて、その身体に抱きつく。
煙草と、シャンプーと、汗の匂いが鼻孔を擽る。
いつの間にか馴染んだ匂いは、ひどく安堵感をもたらして。
ふぅ、ともう一度深呼吸すると、ダイくんがゆっくりと中で指を動かし始めたのがわかった。

「痛い?」

その問いに、ふるふると首を横に振る。
痛くはない…けど。

「なんか、気持ち悪い…」

本来受け入れるべき器官ではないソコが、異物を排除しようとしているのがアリアリとわかって。
どうしようもなくてただ、止めそうになる呼吸を何とか繰り返しながらダイくんに縋りつく。
だけど口を開けば否定の言葉を吐いてしまいそうで。
無意識のうちに、その肩口に歯をたてていた。

「…っ」

ダイくんの呻き声にはっと顔を上げると、目の前の肩にくっきりと歯形が残っていて。
自分のせいだと気付いて、慌てて謝る。

「ご、ごめん!」
「や、ええよ。そうやって噛み付くなりしがみ付くなりしとってくれて構わんから」

ダイくんはそう言って俺の額に口付けを落とした。



異物感が増長して、指が増やされたのだと気付く。
快感の兆しから程遠かったその状況を打ち破ったのは、やっぱりダイくんの指で。

「ひぁ…っ、何…!?」

背筋に何か例えようのない電流のようなものが走って。
驚いてダイくんを見つめると、見つけた、とダイくんが微笑んだ。

「やっ、え?何コレ…ッ」

俺の中に沈んでいた指が、ソコに重点を絞って刺激してくる。
おもしろいように跳ねる身体を、ダイくんは腰に回した手でしっかりと抱き留めながら。

「気持ちええ?」

そう問い掛けてくる。

「ここ、前立腺。雑学博士のお前なら、どんな場所か知っとぉやろ?」

話を聞くだけと、経験するというのはまったく別物だということを、俺は今まさに身を以て体験していた。

触れられるだけで、おもしろいように跳ね上がる身体。
自身に刺激を与えられているのとはまた違った、ぞくぞくとした感覚が下腹部から背筋に駆け上がってくる。

「ダ、イ……ッ!!」

刺激に震える身体を持て余して、その身体に縋り付く。

と、唐突に濡れた音をたてて指が引き抜かれて。
ダイくんが指を口に入れて濡らすと、唾液に濡れたそれをまた俺の中に沈み込ませてくる。

「や、ぁ…っ…!」

今や完全に、俺の身体はセルフコントロール出来る状況ではなくなっていた。

「シンヤ…」

耳元で囁かれるダイくんの声がやけに掠れていて。
限界が近いんだと、悟る。

濡れた音をさせて、指が引き抜かれた。
散々弄くられたそこが、熱を孕んでいる上にやけに敏感にダイくんの動作を追う。
ジ、と音をたてて、下ろされるダイくんのジーンズのジッパー。
直視出来ずに顔を両手で覆って、下腹部に溜まった熱を少しでも発散させようと深呼吸を繰り返す。
大した効果がないことくらい、よくわかってた。
けれどそうせずにはいられなくて。



「シンヤ…」

両手を外されて、顔を覗き込まれる。
のしかかられた身体はやけに熱い。

されるがままに、口付けを受けとめる。
いつの間にか口腔に侵入されて、絡めとられている舌。

「あ…ふ…」

首に手を回して、口付けをせがむ。
そうこうしている間に、先程まで散々解されていたところに、熱い熱の塊を押しつけられて。

途端に竦む身体。
指とは比べものにならないほどの圧倒的な質量と熱をもったソレに、知らず身体は固まって。

「力抜いて、シンヤ…」

右手を俺の腰に回して、左手をベッドについた体勢で、ダイくんがそう言って俺の中に入ってきた。



「いた…ぁ…っ」

やはり、というべきか。
その質量に耐え切れずに、敏感になったその部分は100%痛みを訴えてくる。

「シンヤ、息とめんな」

ダイくんが俺の頬に口付けを落としながら、言う。
険しく寄せられた眉間。
頬からぽつりと汗が落ちて、俺の頬を濡らした。

「爪立ててええから…縋りついとき」

ダイくんが俺の腰を固定して、さらに中に入り込んでくる。

「…っ、いた…」

白いその背中に、爪を立てて。
潤滑が足りないのか、滑らないソレをやや強引に中に押し入れられるのに耐えた。
瞳に張っていた水の膜が溢れて、流れ出る。



途方も無い時間をかけて、ダイくんと俺はひとつになった。
ダイくんはいったん動きを止めると、俺の頬に流れた涙を唇で掬って。

「大丈夫か?シンヤ」
「……」

正直限界やったけど。
言葉にすることも出来ず、ただ曖昧に視線をダイくんに向ける。
ぎゅ、と、抱きしめてくるダイくん。

「シンヤ…好きやで」

耳元で囁かれる睦言。
つきん、と胸に、痛みが走った。

「ダイ…くん……」

大きな背。広い肩。長い腕。
すべてが自分を包み込むためにあるんじゃないかと思うような、ダイくんの身体。

痛み云々よりも、安堵感がじんわりと広がっていくのを感じる。
それが相手がダイくんだからなのか、それともこの行為自体に安堵を感じているのか。
それを知る術はないけれど。
でも、どこの誰か知らない人間よりと肌を合わせるよりも、ずっと心地がいいのは確かで。

俺を求めるダイくんと、ダイくんのぬくもりと感触を求める俺。
実際のところ、ダイくんが一体俺の何を求めているのか、それはわかるはずもないけれど。
端から見たら傷の舐めあいに見えるかもしれないこの関係。
それでもいいんじゃないかと思う。
事実ダイくんは俺を求めていて、俺はダイくんを求めてる。

それだけで十分。



「ダイ、くん…」
「ん?」
「もうええよ、動いて…」
「でも、お前…」

痛いやろ、と言おうとするダイくんの口唇を塞いで。

「ええ、から…」

その身体に縋り付く。
身体を痛めても、きっと身体を繋ぐ理由があるはず。
そう思って。



「シンヤ…」

ぎゅっと、抱きしめられる身体。
息が詰まりそうなくらい、胸が締め付けられる。

愛しいだとか、恋しいだとか。
そんな感情とはまた違った切ない気持ち。
伝える術があまりに少なすぎる俺に、それを表す言葉は見つからなくて。
ただ体温に頼らざるを得ない俺を、ダイくんはどれくらい気付いてるんやろう。



それから、ダイくんと溶け合って。
痛みに萎えてしまった俺自身に手をかけながら、ダイくんがゆっくりと身体を揺さ振って。
再び身体の熱を高められていく。
ダイくんは最後まで優しくて。

「も、好きにして、えぇ、から…っ」

縋り付いた背中に爪をたてながら、言う。
俺だけ気持ち良くなったって仕方ない。
ただ身体を求めるだけのセックスじゃないのなら、尚更。

「どうなっても知らんぞ、シンヤ…」

そんな脅し文句を吐きながらも、やっぱりダイくんは優しくて。
強引からはおおよそ遠い、それでも俺を求める仕草に、必死にその身体に縋りついて応える。



もっと吐き出したらいい。
不安を、闇を、俺の中に吐き出して。
そうしてずっと、今までのように笑っていてほしい。



「ダ、イく…」
「シンヤ…出す、で…?」
「ぅ…んっ……」

強く揺さ振られる身体。
俺を抱きしめた腕に、よりいっそう力がこもって。
身体の奥に熱い憤りがぶちまけられるのを感じながら、俺はゆっくりと意識を手放した。






それからも変わることなく、ダイくんは俺に甘え、俺を好きだと何度も口にする。
外では相変わらずちょっかいばっかりかけてくるし、やたらトシヤともべたべたしてる。
けど、密室空間に籠もれば吃驚するくらい甘えたで。
身体を求められることも多くなった。

「セックス嫌いやったんちゃうの?」

そう問い掛けると、俺の身体を抱きしめたまま、んーと唸るダイくん。

「なんかシンヤとしてからやたらセックスしたいねん。今までは嫌いやってんけどな。急にエッチくなってるわ」
「そうなん?」
「うん。シンヤには負担かけるけど。シンヤが嫌やったらこうしてるだけでもええねん。お前とおるだけでも俺、楽しいし」
「ふぅん…」

キスして、抱きしめて。
普段が普段なだけに、何も知らん人が見たら引きそうなくらい、甘えたなダイくん。
そんなダイくんにも随分と慣れた。

「シンヤ、好きやで」
「…ん」

囁かれる言葉に、まだ答える言葉は見つからないけれど。
こうして口付けで応えることが、実は一番伝わってるんじゃないかと。

そんなことを思いながら、俺はゆっくりと、ダイくんの首に手を回した。

 

END