永劫回帰
1strevolution

 

―――なんでこんなことになったんやっけ



ダイくんの口付けを受け入れながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

「口、開けてや…?」
「いや、や……」

このままいったらヤられる雰囲気は確実なのに。
どうして俺は、その腕から抗おうとしないのだろう。

いっこうに口を開けない俺にダイくんはあきらめたのか、触れるだけの口付けを何度も繰り返す。
時折悪戯に俺の口唇を食んでは、舌でなぞって。
口唇のやわらかさはオンナノコと大差ないんだ、なんて。
慣れた感触を、今更のように思う。

服の裾から手を差し入れられ、体をなぞられる。
慣れた手つきに、くすぐったさすら感じて。
目を閉じてダイくんの首に手を回した。



―――なんでこんなことになったんやっけ



上がりはじめた体温の中、またぼんやりとそんなことを考える。
そうこうしている間にダイくんは俺の着ていたシャツのボタンを外して、肌に口付けを落としていた。

「ん…」

肉付きの薄い、骨張った、どう見てもオトコの身体。
なのにダイくんは俺に、俺の身体に欲情したらしい。



「なんで?」

つい先ほどまで、交わしていた会話。

「なんで俺がええの?」

セミダブルのベッドに、男が二人、肩を並べて。
ダイくんの腕に頭を預けた俺と、男の俺に腕枕をしているダイくん。
端から見たらあまりナチュラルではないその光景も、気にしなくなって随分経つ。

「なんで、やろなぁ…」

ゆらゆらと、空気に溶けていくダイくんの言葉。
みんなの前やといつだって人にちょっかいかけてくるくせに、二人で会うときはそんな素振りすら見せず。

付き合い方のどこに線引が存在するのかはわからへんけど、俺とダイくんは言ってしまえばとっくに『友達』というカテゴリを逸してたんやろうと思う。



気が付いたら同じ空間におって、気が付いたらその腕は俺を抱きしめていた。

考えてみれば、外でも一緒にいたいがためにわざと人にちょっかいをかけてくるのかと思うくらい、ダイくんは二人でいるときスキンシップを欲しがる。
隣を歩いてても、あぁ手が繋ぎたいんやろなって思うことがままあって。
その反動のように、密室空間に入れば俺の傍から離れないダイくん。
そして気が付けば抱きしめるだけだったはずのスキンシップは、キスにまで発展していた。



―――なんで、こんなことに…



気が付かなかった。
気が付いたらいつの間にかこうなっていた。
何で俺にキスしようとしたのかもわからないし、いつからこんなことになっていたのかもわからない。
ただ、それを問うにはあまりに今更過ぎる気がして。

いつも明るくて、優しくて、大らかで。
薫くんとはまた違う意味で頼りになるお兄ちゃん。
何で人にばっかりちょっかいかけてくんねやろと眉間を寄せることも何度かあったけど、ダイくんの周りはいつも笑顔の人が多くて、事実俺も傍にいて救われた。
思いやることに長けたその性格は、そのままにダイくんを表していて。



でも、ある日知ってしまった。
明るくて、優しくて、大らかなダイくんが抱えた闇。



―――他人の不安を飲み込んで元気づけながら、実際この人は自分の中にどれほどの不安を抱えていたのか



吐き出す場所を欲しながら、でも必死にそれを押さえ込むその姿。
見ているこっちが辛くなるほどのそれに、俺はとうとう口に出してしまった。

「何でそんなに1人で抱え込むん?」

俺の言葉が余程意外だったのか、ダイくんは目を見開いて。

「シンヤ…何言って…」

そうして曖昧に笑って誤魔化そうとする。
でも騙されない。騙されてやれない。だって。



―――大丈夫でも何でもないくせに、大丈夫や、なんて笑い飛ばすその姿に、気が付いてしまったから



「もっと甘えたらええやん。吐き出したらええやん。何でそんなに1人で抱え込もうとするん?」

言葉を重ねる。
いつだって言葉が足りないと怒られる俺が、必死に。

気が付かれたことに驚いてるのか、それとも俺が必死に言葉を重ねていることに驚いてるのか。
そのどちらとも図りかねた、けど。






ダイくんが俺に甘え始めたのは、それからしばらくしてからやった。

頼られてばかりやった自分は、気が付けば甘える場所をなくして。
甘えてもいいんや、と思ったら、次の瞬間にはその人はいなくなって。
そんなことの繰り返しで、人に甘えることがこわいのだと。

一緒に過ごしてしばらく経った頃に、ダイくんはぽつりとそう零した。
甘えることは決して悪いことじゃない。
弱音を吐いたり、自分を曝け出したりするのにだって、ある種の『強さ』がいるわけで。
他に吐き出す場所がないならそれでもいい。
俺がその場所になってあげたらいい。

誰かのためにしてあげられることなんて、本当は微々たるものかもしれない。
結局は自己満足なのかもしれないけれど。
彼の―――ダイくんの、甘える場所になってあげたい。

僅かばかりの自惚れもあったのかもしれない。
でも、ダイくんが弱く『ありがとう』って言った瞬間、あぁやっぱり支えてあげたいって。
そう思ったのは紛れもない事実なわけで。



時間を共にすることで、徐々にダイくんという人間の抱えた闇を知っていった。
ひどく不安定になったときは、誰でもいいから体温を感じたくて。
そうして人を傷付けてきたから、セックスは好きか嫌いかと問われれば後者だとか。
それでも体温に安心するのは変わらなくて、スキンシップをはかるのはそのためなのだとか。

ダイくんの闇は、ベクトルは違えど俺と似たようなもので。
寂しくて体温を求めたり、キスして確かめたり。
それはひどく本能的なものなんじゃないだろうか。
愛とか恋よりも、もっと本質的な感情。
それを受け入れてくれる相手がいなくて、ハリネズミのジレンマに陥って相手を傷付けて自分も傷付いて。
でもそうするより他なかったダイくんを誰が責められる?
少なくとも、似たような感情を併せ持った俺には、ダイくんを責める理由なんてどこにも存在しなかった。



甘えるということが、いつからか恋愛感情に発展したらしいダイくんは、それからは頻りに俺に好きという言葉を伝えたがった。

「シンヤは?俺のこと好き?」

そうダイくんがたずねてくるたび、内緒、と言葉を濁す。
好きか嫌いかを問われれば確実に前者。
でも、今の俺の感情は『好き』という言葉ひとつで片付けられてしまうほど簡単なものなのか?



―――よく、わからない



甘えてばかりでごめん、とダイくんはよく言う。
かと言って俺がダイくんに甘えたことがないのかと言われればそれは嘘で、だからいつだって俺も甘えてるからええよ、と答えるのだけれど。
きっとダイくんは気付いてるんやと思う。
俺がそこまで自分という人間を曝け出してないことに。

甘えろと言ったわりに、俺という人間はひどく甘え下手で。
これでもダイくんには十分甘えてるつもりやった。
時折零す弱音や、涙を、ダイくんだけに見せてきた。
それはダイくんやったからなのか、それともたまたま傍におったのがダイくんやったからなのか。
自分のことやけど、いまいちよくわかってなくて。



セックスに安心を求める俺と、セックスすることによって安心を得るダイくん。
快楽主義者の俺と、俺の体温を求めてるダイくん。






なんでこんなことになってるのか、それはわからへんけど。
少なくとも俺がダイくんの手を拒む理由なんて、なかった。






「あ……」

閉じることを忘れた口から、ひっきりなしに熱っぽい吐息が零れ落ちる。
縋るものを探して胸元の赤い髪を握りしめると、ダイくんがちらりと視線を上げて。

「気持ちいい?シンヤ」

甘く、男の顔をしたダイくんが笑う。

「ん…ちょ……」

片手で器用にかちゃかちゃとベルトを外す音がして。
不意にのしかかっていた重みが消えたかと思うと、ダイくんが身体を起こして俺のジーンズに手をかけていた。

「え?ちょ、待っ…」
「ええから腰上げて」

言われるがまま、強引にジーンズを剥ぎ取られていく。
普段から着替えも一緒にしてるんやから、見慣れてるはずやのに。
こんなに恥ずかしいのは、やっぱり状況が状況やから?

両手で顔を覆って、最後の抵抗とばかりに、セックス嫌いちゃうかったん?と呟く。
ばさ、という音をさせてダイくんがTシャツを脱ぐと、さっきと同じように俺にのしかかってきて。

「シンヤとかやから。すごいシたい」
「あ、そ…」

素っ気なく答える俺に、ダイくんは再び口唇を落としてくる。
どうしても舌を迎え入れることができなくて。
それは今まで攻めるはずだった自分の立場が逆転したことに対して、まだ身体が理解しきれていないからなのか、定かではないけれど。

「シンヤ…」
「っ…」

ぴちゃ、と音をさせながら、ダイくんが耳朶に舌を這わせてくる。
そうこうしている間に右手が俺のモノにかけられていて。
瞬間冷静に戻って、羞恥心が自分の中で溢れかえってくる。

今、一体誰に何処に触れられ、何をされてる?

「やっ…ダイ……」

きゅ、と先端を握りしめられて。
初めて触れられるわりに、同性だからかやたらツボを刺激してくる。
久々に他人に触れられる感覚に、じわじわと快感が競りあがってくるのをはっきりと感じて。

「っ、ダイく…」
「ん?」

手を伸ばしてその頭を引き寄せて、口付けをせがむ。
喘ぎともとれる声がひっきりなしに零れる俺の口の中に、ダイくんの舌が割って入り込んできた。

「ぅん……ッ」

絡む、舌。
そうしている間にもダイくんの手は止まらず、あいた片手は俺の髪を繰り返し梳いていて。

「は……」

濡れた音がして、口唇が離れる。
その間を繋ぐ、透明な銀糸。
ダイくんはそれを器用に舌で切ると、首筋に顔を埋めてきた。

「んん…ッ、あ……」

濡れた舌が、首筋を這う。
手を回しているダイくんの身体が熱い。
触れている皮膚の感触すら、快感で。

「シンヤ…」

譫言のように繰り返される名前。

それは確かに抱いているのが俺っていうことを確認したいのか、それとも―――

いずれにせよ、そんなことを悠長に考えていられるほど、今は余裕がない。

「あ、ダイく…っん、は…」

胸元の突起を唇で食んで、時折歯をたてて弄んでいるダイくんの赤い髪を握りしめた。
ブリーチをして色を入れているはずの髪は、思ったほど痛んでおらず、さらさらとした感触を伝えてくる。

「限界?」

耳元で囁かれる言葉に、こくこくと首を縦に振る。
声を抑えたくて噛みしめた口唇に、感覚がない。

「じゃあ、ええ声聞かせて」

ダイくんがそう言って、俺の口唇を指で割った。

「バッカ…!ッ…あっ、ア…」

毒づく暇もなく、身体の熱を追い上げられる。
身体のあちこちに口付けを落とされて、自身を扱かれて。
急速に熱が高まっていったかと思うと、頭の中が白くスパークして。
俺は、ダイくんの手に絶頂の証を吐き出していた。



弛緩した身体をどうすることもできずに、重くベッドのマットレスに沈み込ませる。
息も絶え絶えな状態で、視線を彷徨わせと、ダイくんが白い液体で濡れた掌をじっと見つめていて。
何を思ったのか、突然それに舌をのばしてぺろりと舐めた。

「何してんの!?」

思わず身体を起こして喚く。
そりゃ経験からして口でしてもらったことがないと言えば嘘になるけど。
それとはまた次元が違うわけで。

ものすごい剣幕の俺を余所に、あんま美味いもんやないな、とダイくんが苦笑する。

…そりゃ、そうやろ…

思わず脱力した俺を余所に、ダイくんがちゅ、と口付けてくる。
青い匂いに顔をしかめると、シンヤの、とかなんとかって笑って。
全然嬉しないし。寧ろ嫌やし。
はよその濡れた手をふけよ、とベッドサイドのティッシュボックスに視線を滑らせると。



「なぁ、最後までシてもええ…?」

耳元で、掠れた声がそう、囁いた。

 

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明け方4時半に目が覚め、携帯で打った話
続きも一気に打ったんで、5時間かけて20000文字
打ち終わったとき、変な痛みが身体を襲ってました(主に腕とか)