EARLY SUMMER DAY
暑い、夏の日。
短い生命を謳歌しようと鳴き続ける蝉の声を背に、軽く汗を拭いながら自宅へと帰る。
右手には先程寄ったコンビニエンスストアの袋。
歩くたびにビニルがかさかさと擦れ合う音が響いた。
「ただいまー」
いつもと同じように、ドアを開けて。
京くんはちょうど昼寝中かな、と玄関先に並べられたラバーソールを見ながらその隣にスニーカーを脱いでいると。
「おかえり!」
予想に反して、そこには恋人の姿があって。
いや、別に京くんがおって当たり前なんやけど。
まさか起きてるとは思わんくて。
予想外の出来事に、しばし俺の頭はフリーズ状態。
「薫くん?」
意表をつかれて固まっている俺に、京くんは少し首を傾げる。
黒のタンクトップに膝までたくし上げられたジーンズ。
そしてその両手には、何故だかプラスチック製のおもちゃの水鉄砲が握りしめられていて。
「……どないしたん、それ?」
とりあえず疑問に思ったことを口に出す。
すると、京くんはにっと笑って。
「薫くん、水遊びしよーや」
そう、無邪気に言い放った。
早く早くと駄々をこねる子供のような京くんを、ちょぉ待って、と何とか宥め賺して。
アイス買って来たったから冷凍庫に入れさせて、と言った俺の後を、ちょこちょこ水鉄砲を持ったままでついてくる。
夏は普段からあんまり食べへん京くんの食がさらに細くなる季節。
まぁ、俺かて人のこと言えたもんじゃないけど。
それでもアイスは口にするらしく、常に夏場の冷凍庫は飽和状態。
出かけたついでに立ち寄ったコンビニで、新作のアイスが出てたから喜ぶやろと思って買ってきたったんやけど…
「薫くん、早く!!」
どうやら気紛れで人の意表をつくのが大好きなこのお姫様は、今は新作のアイスよりもおもちゃの水鉄砲に興味を持って行かれているらしい。
「水遊びってどこでするん?」
コンビニの袋の中身を詰め終わったところで、振り向いてたずねる。
水の入っていない水鉄砲の引き金をカチカチと引きながら、ようやく反応を返した俺に京くんはぱぁっと目を輝かせて。
…そんな顔されたら、嫌って言えるわけないやん…
苦笑しながらも渡された水鉄砲を受け取って、京くんに腕を引かれるがままにリビングを後にした。
家ん中で水遊びする空間なんて風呂場くらいしかないから、洗面所に向かってるんやろうと思ってた俺の予想はまたしても裏切られ。
着いた先はバスタブ兼京くんの昼寝場所。
「え、ここですんの?」
声を上げた俺に、京くんは不思議そうに首を傾げながら部屋の隅にあった蛇口を捻った。
「何で?」
「何でって…風呂場として使う気ないって京くんゆーてたやん。荷物も運んでたし」
そう、部屋の隅には僅かながら京くんの荷物も運び込まれていたはず、って、あれ?
なくなって……る?
「さっきリビング運んどいた」
「あ、そうなん……?」
普段からリビングは大方京くんのスペースになってたから、どうも気付かんかったらしい。
まぁ元々俺に比べたら吃驚するくらい京くんの荷物は少なくて。
以前たずねてみたら、どうやら荷物に束縛されるのは嫌とのこと。
わからんくもないけど…俺みたいな人間からしたら、やっぱ捨てたらもったいないとか考えてまうからなぁ…
がらんとなったスペースを何とはなしに見つめながらそんなことを思っていると、水鉄砲に水を詰め終わったらしい京くんが栓をしながら口を開いた。
「薫くん、後ろのシャワーカーテンひいといて」
「へ?カーテン?」
そんなもんあったか?と首を捻りながら振り向くと。
ドアの前に、濡れないように配慮したのかシャワーカーテンが取り付けられていて。
「…いつの間に…」
そう呟きながらもカーテンをひくと。
―――びしゃッ
「冷たッ!!」
背中に冷たい感触を感じて、慌てて振り向いた。
「隙アリ」
振り向いた先には、水鉄砲を片手に悪戯っ子みたいな顔をして笑っている京くんの姿。
「〜〜〜っ、やったな!」
「お、ようやく薫くんやる気なった?」
「当たり前やろ!やられるだけじゃ気がすまん!!」
手にした水鉄砲に水を入れて。
京くんに向ける。
「うりゃ、目つぶし」
「京くんそれは反則!!」
大の大人が、いい年扱いて水遊びとか。
アホみたいやけど。めっちゃ楽しくて。
開けっ放しの大きな窓からは、絶えず蝉の鳴き声。
暑さを助長させるそれが、今はやけに童心に返った俺たちを煽って。
「京」
その身体を抱き込んで、白いバスタブへダイブする。
「冷たーッ」
張られた水が、ゆらゆらと揺れて。
服を着たままの俺たちを包み込む。
「気持ちいいな」
京くんの身体を抱きしめたまま、呟く。
眩しいくらいの直射日光は、まだ陰る気配さえ見せへんけど。
「やろ?」
俺の言葉に、嬉しそうにこちらを見上げる京くん。
水滴が、頭から足の先まで濡らして。キラキラと光る。
「京」
名前を呼んで。
無防備に曝されていた、赤い唇を啄む。
冷たい感触とは裏腹に、舌でなぞった粘膜はやけに熱くて。
「ここですんの…?」
さきほどまで息を切らして走り回っていたせいか、それともキスのせいか。
息を荒げて瞳を潤ませた京くんの身体を、バスタブで反転させる。
「嫌?」
ぱちゃん、と音をたてて水の中に手を潜り込ませて。
すっかり水で張り付いてしまったタンクトップの上から、京くんの身体をなぞる。
「や、じゃない……」
小さく呟かれた言葉と共に、首に回された腕。
水で冷えていた肌が急速に熱を上げていく。
「京」
濡れて色の濃くなった髪を掻き上げて。口付ける。
「ん………っふ、かおる……」
ゆらゆらと揺れる身体。
バスタブの縁に置いていた水鉄砲が、京くんの腕にあたった瞬間に転げ落ちた。
プラスチックと石がぶつかり合う硬質な音が響き渡ったけど。
そんなことを気にしてられる余裕がない。
「ふぁっ、つめた……ッ」
指でソコを押し開いた瞬間、京くんが身体を竦ませて抱きついてきた。
水が入って冷たいんやろうソコを、急速に解きほぐしていく。
「かおる…ッ」
ぎゅ、と肩口のシャツを握りしめる手。
いつもみたいに気遣ってやれるほど、余裕はなくて。
ぱちゃん、と水が揺れる音が響く。
「あっ…アァァァッ」
そうして、多少強引に。
水の中で交わり合った。
バスタブの中で、白い肢体が揺れる。
差し込む光に照らされたその身体はあまりに綺麗で。目を奪われる。
「京」
息を切らせて、自分の上で揺れる身体を抱き寄せて。
赤い唇に噛み付くようにキスを落とす。
ばしゃ、と水が大きく揺れて、バスタブから溢れ出た。
「つめた……ッ、あつ………」
「どっち?」
微かに笑いながら、身体を突き上げるストロークを段々と早くしていく。
「薫……ッ」
ぎゅ、と肩口を握りしめる力がこれ以上ないくらい強まって。
京くんの腰を抱いていた腕を片方外し、水の中で打ち震えていたソレに手をかけた。
水越しでも伝わってくる、熱。
ただ、熱くて。
「も、イく……ッ」
は、と耳元で零される熱い吐息。
ふるりと震えた身体を、力の加減もきかへんままに抱き寄せて。
瞬間、俺をくわえ込んだその個所がぐっと窄んだ。
「あっ、は……薫…っ…」
「……ッ」
その締め付けで、俺も京くんの中に悦を吐き出して。
射精後の脱力感をそのままに、バスタブに沈み込む。
バスタブの縁に乗せた頭から、見上げた窓の外。
日の光は依然、高い位置から容赦ない光線を降り注いでいた。
力の抜けきった身体を、そこで後処理を済ませてからベッドまで連れて行く。
リビングを横切る際に目に入った光景。
…まぁ、後から片付けさせたらええか…
おそらく自分が片付けることになるのであろう、山積みのDVDや本にちょっと苦笑しながら、
抱き上げた身体をベッドに降ろす。
「……シワシワや」
「まぁあんだけ水つかってたから」
水分ですっかりふやけてしまった指先を見つめながら、京くんが呟く。
京くんの身体の下に敷かれたバスタオルで水滴を拭って。
服を着せると、ころんと横になる京くん。
暑いからクーラー、というここ最近のお決まりの台詞はさすがに吐かなかった。
「アイスでも食べるか?」
冷たくなった肌を撫でる、生ぬるい風に顔をしかめた京くんにそう声をかけると。
「ううん、いい」
そう言って珍しく俺の身体に腕を回してきた。
滅多にない京くんからのスキンシップに、俺の心臓はこれ以上ないくらい脈打ってる。
ほんま、今日は京くんに吃驚させられっぱなしやな。
そんなことを思いながら、京くんの身体に手を回して抱き寄せた。
窓の外は依然暮れる気配のない夕空。
日が昇ると共に鳴き始めた蝉の声も少しずつ弱まりつつある。
「薫くん…」
今にも寝てしまいそうな、とろんとした京くんの声に耳を傾けると
「また水遊びしよなー…」
そう消え入るように呟いて、すぅと寝息に変わった。
そんな京くんの髪を梳きながら、そうやな、と笑って。
抱きしめたその身体にタオルケットをかけてやる。
きっとまた暑苦しくて目を覚ますんやろうけど。
それまではこうさせててな、と京くんの頬にキスを落として目を閉じた。
ある暑い夏の日の出来事。
END
暑中お見舞い申し上げます
時期的にもちょうどいい、ということで水遊びの話です
バスタブの続編みたいな感じで読んでいただけるとわかりやすいかと…
風呂入ってて急に薫くんに「水遊びしよーや」と微笑んでいる京くんを連想し、速攻で書き上げました
薫くんと水遊びするためにバスタブ掃除したり部屋片付けてる京くんを想像すると
とまらなくなりそうだったので、あえてそこはスルーしましたが。笑
個人的にはシリーズ化したい1本でもあります