遠雷

 

「…ダイ、何とん…」

遊びに来て早々、薫の口をついて出たのはそんな台詞だった。

「んー?…あぁ、薫くん」

リビングのフローリングに突っ伏したままの体勢で、ダイがいらっしゃいと声をかける。
転がれば剥き出しのフローリングよりいくらかはやわらかそうなカーペットが敷いてあるのに、何故わざわざ
床に寝転がっているのかと薫は不思議そうに首を傾げた。

「とりあえず座れば?」
「あぁ…うん…」

頬をフローリングにつけたまま、ダイがソファを指さす。

「つか…お前何してんの?」

そういやシンヤの連れてきてた犬がこんな風に寝てたよな、と昔の記憶を回想しながら薫が口を開いた。
相変わらずこいつのとる行動って犬っぽいよな…と本人には言えないことを思いつつ。

薫がぼんやりと大型犬と寝ころんでいる恋人の姿を被らせていると、ダイがその場に上半身を起こした。

「んー……いや、別に…」
「やったらそんな固い床の上で何してんの?床の上で寝たらカラダ痛なんで」

それはもう身をもって経験している薫がジーンズの後ろのポケットから煙草を取り出しながら問いかける。
するとダイは口を閉ざしたまま、ソファに座っていた薫の手を引っ張った。

「わっ!」

咄嗟のことにダイの方に倒れかかった薫は、その手を床について体重を支える。

「…?冷たい」

フローリングについた手から、伝わってくるひんやりとした冷たさ。
暑い真夏の日に心地よい温度に、薫が不思議そうにダイの顔を見上げた。

そんな薫の疑問に答えるべく、ダイは頭上を指さす。

「ここ、クーラーの真下」
「あ…」

言われてみれば冷気が直接降りてきていて、外を歩いてきたばかりの薫の体に心地よさを与えている。

「たまたまフローリング触ってみたら冷たくて寝ころんでてん」

そう言って、再びごろんと床に寝ころぶダイ。
窓際は相変わらず煌々とした太陽熱が降り注いでいるのに、ほんの少し離れたココはこんなにも涼しくて気持ち良くて。

薫はくすりと笑うと、寝ころんだダイの腕を引っ張った。

「なに……」
「腕枕」

可愛い恋人のお強請りに、ダイは、ん、と腕をのばす。
ごろん、とその横に寝ころぶ薫。

「涼しくて気持ちええな」
「やろ?」

腕に確かな重みと温かさを感じる。
けどそれは、暑い真夏の日でも不快感なんて感じない。

しばらく黙って寝ころんでいたけれど、突然くぃ、と服の裾を引っ張られた。

「ん?」
「せっかく遊びに来たったのに、何もなしで昼寝?」

そう言って、薫がダイの腕を下に敷いたままで頬を膨らませる。
瞳には挑戦的な光が宿っていて。

「何がお望みですか?姫は」

腰に手を回してその体を引き寄せながら、ダイは嬉しげに問いかけた。

「…わかっとぉくせに」
「さぁ?」

薫の上に覆い被さった体勢で、ダイがその顔をのぞき込む。
しばらくして首にまわされる、薫の腕。

引き寄せられるがままに口唇をあわせて。
この部屋には似つかわしくない熱気の籠もった吐息を零す。






遠く、遠雷の音が聞こえる。
来るときに見えていた入道雲が、雨を連れてきたんやろか。

ダイの熱を受け入れながら、曇った思考の片隅で薫はぼんやりと考えた。

「あ……つぅ………」

体の奥底に入り込んできた熱の熱さに翻弄され、すぐに思考回路は遮断されてしまうけれど。

「ダイ…ッ……うご……い、て…ンッ」

少し動くだけで体に電流を走らせる相手の背中に抱きついて、その肩に額を擦り付けて。
微かに汗ばんだその背中に滑らせた指先に、知らずこもる力。

「ハァ…ッ、も……っと………」

脱がされた衣服は足下の方に蹴られ、剥き出しのフローリングが背中を擦る。
冷たかったはずのソレは、いつの間にか熱をあげていて
───

「ダ、イ……ぁっ!」

いつもの低音からは考えられないような高い喘ぎ声をあげて、ダイの体にしがみつく薫。
ダイはそんな薫の耳朶に口付け、その体を奥の奥まで暴いて……

やがて、白昼の明るいリビングで2人同時に果てる。



いつの間にか、遠雷はやんでいた。






「やっぱ体イタ…」

ベッドに移動してから、煙草を燻らせていたダイに投げつけられる情けない声。
あれから情事が一度で済むわけがなく、心ゆくまでお互いの体を貪ったために薫の喉は枯れてしまっていた。

「大丈夫か?」
「だいじょぶやない…」
「やろな…」

弱々しい声で呟いた薫に、ダイは煙草を揉み消しながらその体を自分の方へ抱き寄せる。

「ダイ」
「ん?」
「腕枕」

数時間前と同じ要求に、ダイはふっと笑うと腕をのばした。

「ほら」
「んー」

ごろん、とダイの胸に転がり込む薫。
さらさらの髪から微かに汗の匂いに混じって甘い匂いがしていて。



やがて規則正しい寝息を立て始めた薫に誘われるように、ダイもゆっくりと目を閉じた。






誰もいなくなったリビングでは、開け放たれた窓から緩い風が入ってきてカーテンを揺らしている。
通り過ぎた夕立の後、冷たかったリビングの床は再び太陽の熱により暖められようとしていた。

 

END