愛おしそうに、ギターに触れる指先

その指に触れられたいと

そう願ってしまったのも、今回が初めてではなくて

 

Distance

 

伏せ目がちな睫がやけに扇情的で。
コードをなぞる左手が強弱を付けて弦を押さえている。
短い爪。
右手に持ったピックで弦を弾くたび、歪んだ音が部屋に響く。

「…何」
「え?」
「俺の手元じーっと見て。何かあんの?」

まさか気付かれてると思っていなかった俺は、突然かけられた声に吃驚して
思わず素な反応を返してしまった。

「い、いや、何も…」
「ふぅん?」

変なヤツ。

そう言って薫くんはまた、視線をギターに落としてしまう。



愛おしそうに、ギターに触れる指先。
その指先に触れられたいと。
そう願ってしまったのも、今回が初めてではなくて。



ふっと頭を過ぎった妄想に、一気に顔が赤くなるのがわかった。

それ以上薫くんの指先を直視出来ず、視線を手元のギターに落とす。
勝手に拝借した、ダイくんのギター。
先程まで見ていた薫くんの指の動きをなぞって、コードを辿って。

アンプから聞こえてくるのは、薫くんのギターとはまた違う歪んだ音。

「トシヤ」
「え?」

音の洪水の隙間から、薫くんの声が聞こえた。

「そこ、違う。こう」

薫くんの指が、ギターを爪弾く。
しなやかで白い、その指先。



―――触れられたい



「薫くん」

ギターを掻き鳴らしたまま、その名前を呼ぶ。

「何?」

俺のコードをなぞるように、被さる薫くんの音。
少々大声を上げないと声が聞こえないような、そんな空間で。

―――

呟いた願望。
きっと薫くんの耳には届いていないだろう、小さな願い。

何事もなかったかのように俯いたまま、ギターを掻き鳴らしていると、不意に頭上が暗くなって。
目の前に、薫くんの靴の爪先。

不審に思って見上げると、薫くんの口角がにやりと弧を描いている。



どことなく嬉しそうな、それでいて何かを企んでいるような、そんな表情。



呆然と見上げることしか出来ない俺に、薫くんは1つ微笑んで見せてから。

「最初から、素直にそう言えばええねん」

俺の右手からピック、肩からギターを奪い取って、俺の体を抱き寄せて。

「来いや、トシヤ」

抱いたるわ。

耳元で、掠れた声で。
囁かれた言葉に、思わず身を固くする。

なんで、バレた?

目を見張る俺の顔に、薫くんは開いた片手を滑らせて。

「…触れられたかったんやろ?」

それがさも当たり前、とでも言うかのように囁く。
片手が腰を捉え、頬の輪郭をなぞっていた指先がゆっくりと首筋に滑り落ちる。

愛おしそうにギターに触れる時と酷似した、その指の動き。

「トシヤ」
「ん……っ…」

塞がれた唇。
閉じた唇を舌でなぞられて、その感触に戦慄いた唇がこじ開けられて。
甘く蹂躙される口内。
強張っていた体から、徐々に力が抜けていくのがわかる。



触れられた場所から、甘く溶け出していく感覚。



愛されていると、錯覚してしまう。
そんな風に、愛おしそうに、薫くんは俺を抱いてくれた。



―――どんなに触れても、薫くんの本心までは垣間見ることが出来なかったけれど



行為後。
疲れ切って動けない俺を背中から抱いたまま、薫くんはあやすように何度も繰り返し髪を撫でていてくれた。

気怠さの残る体を委ねたまま、その手の感触に酔う。
触れられているという事実に、生まれる安堵感。

言葉だけでは感じ取れない安心感と言うのは、きっとこういうことを指すんだろう。



腹の上に置かれていた薫くんの手を取って、そっと指先を握りしめる。
固い指先。短い爪。
言葉の表現の仕方は同じなのに、どうしてこうも違うんだろう。

その手をすくい上げて、そっと。
指先に口付けを落とす。

―――

言葉よりも明確な、気持ちの伝え方を。
音の洪水の止んだ静寂の中で。

 

END