淡い光に照らされたその人を

とても綺麗だと、思った

 

deep sea

 

眼下に広がる眠らない摩天楼の風景。
ぼんやりとそれに視線を落としたまま、俺は手元にあったグラスを一気に煽った。

鏡状になった窓ガラスに映る、淡い光に照らされたその人。
ただ、綺麗で。
俺は空になったグラスの氷をカランと鳴らすと、振り返って窓の桟に身体を預けた。

新曲のレコーディングの打ち上げ。
どうせならいつもと違った形でやりましょうと言うスタッフの提案で、ホテルの一室を借り切ってのホームパーティ形式で
行われている打ち上げは、気心の知れた人間が多いからかひどくアットホームな雰囲気に包まれていて。
皆が思い思いにスパークリングワインやカクテルの入ったグラスを片手に至るところで談笑している。

そんな中で一際目を惹く、恋人の姿。

ごくごくフォーマルな。
白いシャツにジャケットを羽織っただけのシンプルな出で立ち。
なのにその身体からは、いつだって匂い立つような色香が放たれていて。

少しはだけられたシャツからのぞく白い肌が、ひどく扇情的。
しばらく触れてないその身体を想像して、ほんの少し、身体が疼く。

スパークリングワインの入った細いグラスを片手に、スタッフと言葉を交わして微笑んでいるその姿は
淡い光に照らされてひどく綺麗に見えて。
目が、逸らせなくなる。
その指に嵌められた、ごつい指輪が放つ鈍い輝きからすら
―――



瞬間、不意にその人が振り返って。
此方を見る。
絡まり合った視線。

刹那、ふんわりと微笑んで。

あぁ、好きなんだ、と思う。



恋はするものなんかじゃない。

落ちるものなんだ、と。

その表情を見るたびに、そう実感する。



「とーしーやー。飲んどーかー?」
「わ、ダイくん!!」

ぼんやりしていたところを横から小突かれて、驚愕と共にそちらを見た。
先程までシンヤに絡んでいたダイくんが、グラスを片手に隣にいて。
やけにハイテンションで絡んでくるダイくんを交わしながらシンヤを盗み見ると、
やっと矛先が他に向かったと言わんばかりにほっとした表情をしている。

「どこ見とーねんトシヤー。飲めー!」
「ちょ、ダイくん零れてるから!!」

いつもは俺もどっちかと言えばこんな風に絡んでるけど。
今日はそんな気分じゃないんだよ。

ただ、薫くんがあまりに気になって。
酒に酔えない。
それだけ。

それでも、和やかなこの雰囲気を壊したくはないから。

「あー飲むから!飲むからそれ以上入れたら零れるって」

ほっといたらグラスに溢れそうな程ワインを注いでくるダイくんの手を止めて。
俺は淡い黄金色に揺れる液体を、一気に飲み干した。



急激なペースでピッチを上げたために、いつもより酔いが回るのが早かったらしい。
少しくらりとする頭を押さえて、水を求めて小さなキッチンのようなスペースに移動する。
ダイくんは人に絡むだけ絡んだ挙げ句、他のスタッフのところへワインのボトルを片手に向かっていて。
これ幸いとばかりにそそくさとその場から早足に立ち去った。

ドア代わりに目隠しのように垂らされた簾を手で払いのけながら中に入ると。

「あれ、トシヤ?」

そこには先程までずっと視線で追っていた、恋人の姿があった。



「薫、くん?どうしたの?」

こんなところで、とたずねると、薫くんは煙草を挟んだ片手をひらひらさせて。

「ちょぉ、休憩」

そう言って、紫煙を燻らせる。
伸びた髪が、目元を隠して。
薄暗い照明の中で、影を落とす。

長い睫が、瞬いて。
その光景に、こくりと息を呑んだ。

「お前は?ダイと飲んでたんちゃうの?」

黙って薫くんを見つめていた俺は、真正面からぶつかってきた視線に釘付けになって。
一瞬固まった後に、あ、あぁ、と曖昧に言葉を返した。

「ちょっとピッチ上げ過ぎちゃって、さ」
「ダイ出来あがっとったからなぁ」

くく、と笑いながら薫くんが灰皿に煙草を押しつける。
そのままその手ですい、と空のグラスを取り上げられ、傍に置いてあった新しいグラスを手渡されて。
ストックしてあった瓶の中から1つを拝借すると、シュポンという音と共に栓が抜かれ、黄金色の液体がグラスに注がれた。
自分のグラスも同じように満たすと、そのままグラスが合わさって高い音が奏でられる。

「お疲れ」
「ん、お疲れさま」

考えたら乾杯もしてなかったな、と思いながら、手渡されたグラスに口を付けた。
甘い、液体。喉元を心地良い液体が滑り落ちていく。

「甘い、ね」
「シャンパンやからな」

くすりと笑って。
瞬間、絡まる視線。
さっきとは違って、隔てる距離がごく僅かな位置にあるその瞳から、目が逸らせずに。



「ゲームしまーす!!」

その静寂を割ったのは、向こう側から聞こえる歓声だった。
わぁ、と盛り上がった後、ふっと照明が落とされて。

テレビかなんかで見たな、こういうの。
そんなことを思いながら、照明が消えた瞬間に少し動揺して逸らしてしまった視線をもう一度、戻して。



どちらからともなく、身体を寄せる。

片手にグラスを持ったまま。
薫くんの、少し伸びた襟足をもう片手で梳いて。

くちづけた。

煙草と、シャンパンのアルコールの匂いと。
薫くんの、甘い匂いに包まれる。

触れるだけで一度口唇を離して、今度は少し開いて口付けて。
ちゅ、と、濡れた音が響く。
薫くんの手が、俺の首に回って。

グラスを手にしたまま、その細い腰を抱き寄せる。
いつもはひんやりとした清冷な印象をもたらすその白い肌が、アルコールにあてられてか
ほんの少し、熱くて。

沸き上がる、衝動。
シックな装いに彩られたその身体を剥き出しにして、愛したいと思う。

その匂い立つような色香に、抵抗する術を俺は持っていないから。

「トシヤ…欲しい……」

強請るように囁かれた言葉。
至近距離で交わす言葉は睦言以外の何物でもない。

しかもそれが誘いの台詞だったりしたら、尚更。

「いくらでも。…愛してるよ」

了承の言葉と共に、愛を囁いて。

再び口唇を塞いで、その身体を掻き抱く。
もう少しだけ、この身体はお預け。
終わったら快感の極みに昇らせてあげるからね。

名残惜しむように、その身体を離して。
そっと、触れるだけのキスを。

奥にある窓から差し込む、月明かりと摩天楼の光だけが、ただ静かに俺たちを照らし続けていた。

 

END

 

えぇ、と
DVDを見まして
某**タワーの
撮り方が、めちゃめちゃツボで
……書いてしまいました
感じたままの衝動を、もっとうまく言葉に出来たらいいのに、といつも思う