「これなんか可愛いんちゃう?」
「え、こっちも似合いそう」
「薫くんこれどう?」

一向にこの場所から出してもらえず、次から次へと持ってこられるモノに、
俺は若干ウンザリしながらため息をついた。

 

Private Lesson
-How to date?-
5thdate

 

先程から試着室に押し込められたまま、着せ替え人形と化している俺。
やたら気の合う店員と一緒になって、次から次へと新しい服を持ってくるのはダイ。
何でこないなことになってんのか、俺が聞きたい。

「これ、どう?」
「あ、いや…」
「お客様、こちらなんかもお似合いになるんではないでしょうか?」
「あ、それええやん!」
「あの…」

最早口を挟む時間すら与えてもらえず、はい、と大量に手渡される
服、服、服………。
着替えずにぼんやりと立ち尽くしていれば、

「着替えた!?」

なんて言葉と共に試着室をのぞき込まれる始末。
いや、いくら同性で、同じバンドのメンバーゆえに着替えなんか見慣れてるとは言え
それってどうやねんダイ……。

「まだ着替えてへんの?あ、それ気にいらんかった?」
「あ、いや…」
「じゃぁこっち着てみて!いいやろ、これ」

ダイの手に抱えられた、新たに持ってこられた服。
もうどうにでもなれ、と、俺は半ばやけくそになりながら
ダイの手から新たな服を受け取った。



「いやー、おもろかった」

ほくほくと満足げな顔をして横を歩くダイ。
その肩には大きな紙袋がぶら下がっている。
ただし、その中に詰まっているのはダイが購入した俺の服。

「なんか申し訳ないんやけど…」

誕生日でも何でもないのに、こうして物を買ってもらうというのも
何だか居心地が悪い。

「んー?まぁ、ええやん。気にせんでも!」
「いや、気にするわ」

せめて晩飯ぐらいは奢らせてくれ、と言い募れば
んーとダイは曖昧に返事をして。

「さて、じゃぁ飯にしますか」

そう言って、唐突に腕を引っ張られる。

「ちょ、おま、何してんねん!?」

手じゃなかったのがせめてもの救いやけど、
人通りのある通りで男が2人手ぇ繋いでたら
明らかおかしいやろ。

「えー?ちょっとくらいええやん」
「よぉないわ! とりあえず離せって」

ぶん、と手を振り払えば、存外あっさりと離れたダイの手。
捕まれた腕にダイの体温だけが残る。

「で、何処行くねん」

残った感触だけがやけに生々しくて、多少乱暴に
コートのポケットに手を突っ込みながら口を開くと。

「ええとこv」

にぃ、とその男前な顔に笑みを浮かべながら。
ダイはそう言って、目の前にそびえ立った大きなビルの中へ足を踏み入れた。



「ちょ、こんなとこ入れんのか!?」

連れてこられた店の入り口で、思わず後込みする俺。
たかが夕飯、と高をくくっていた俺は、目の前に広がった立派な造りに
呆然と立ち尽くした。

焦る俺を横目に、ダイは平然としたまま。

「大丈夫やって。何焦ってんの薫くん」

逆に俺の態度がおかしい、みたいな言い方をしてくる。
お前、いつの間にそんな金銭感覚おかしなってん!?

「ほら、入るで」

気付かないうちに背に手を回され、押されるがままに店へと入る俺。
すると、控えめな挨拶と共に『いかにも』な女将さんが出迎えに来てくれて。

「すいません、予約していた…」
「は!?」

それだけでも仰天する出来事やったのに、
さらりとダイの口から出てきた言葉に、俺は思わず声を上げる。
途端、キョトンとした2人の視線を受ける俺。

「あ、いや、すいません…」

さすがに居心地が悪く、謝る。…けど、俺が悪いんか?

はは、すいません、なんて爽やかに笑いながら
ダイがあっさり名前を言って部屋へと通される。
いつも行くような飲み屋と明らかに雰囲気の違う店に、
勝手のわからん俺はついていくだけで精一杯。

通されたのは、案の定畳の敷き詰められた、小綺麗な一室。
すぐに飲み物を手配します、と部屋を出ていった女将を見送って、
俺はようやくダイに詰め寄った。

「ちょ、どういうことやねんこれ!?」

胸元を掴まんばかりの勢いで問いかけた俺に
ダイはやんわりと笑いかけて。

「飯食うだけやん?何も泊まろうって言ってんちゃうんやからさ」
「当たり前や!」

続きの部屋を示唆するような襖の戸に顔を赤くしながら
そう言い募れば、まぁまぁ、とダイが宥めてくる。

「せっかくのデートなんやからさ、薫くんと2人でゆっくり飯食いたかったんよ」
「だからって…」

こんな高そうな店…しかも予約までしてって…

そう、ごにょごにょと口の中で呟くと、ニィ、とダイが微笑んで。

「ま、そんなに気ぃはらんと。ここは料理もうまいし、何より酒がうまいんよ。
 薫くんも、気に入ってくれると思うわ」

そうダイが言ったと同時に、廊下の方から店の方らしい人の声が聞こえて。
促されるままに、俺は席に着いた。



実際、運ばれてくる料理はどれもうまくて。
個室な分、マナーだとかそういうことを気にすることもなく
気楽に飯が食えて、俺もようやく気が緩んできた。
すすめられる酒が、うまかったのもあるんかもしれへん。

「ダイ、ほんまに飲まへんの?」

先程から飯ばかり食って、一向に酒に手を付けないダイに酒を傾ければ、

「車で来てるから、今日は飲まんでええの」

そう言って、やんわりと断られる。
飯もうまいし、酒もうまいのに、ひとりで飲んでるっていうのも何か虚しくなってきて。



―――たぶんその時、俺は酔ってたんやと思う



「…ええやん。今日は泊まってこぉや」

そんな言葉が、ぽろりと零れた。

「…へ?」

俺の言葉に、ダイの手が止まる。

「そうや、泊まってこ。明日仕事昼からなんやし」

だからお前も飲めって。

そう言って強引にグラスを手渡し、そこに酒を注ぐ。
困惑顔のダイを後目に、かつん、とグラスを合わせて。

「な、ええやろ?何か都合悪いん?」
「あ、いや…そんなことはないけど…」
「ほなええやん」

飲も。ほら、早ぉ。

言いながら、ぐいぐいとダイの手を押す。
すると、ダイが小さなため息をついて。

「もぉ、どうなっても知らんからな」

そう言いながら、ぐい、とその手のグラスを一気に煽った。

「おぉ、ええ飲みっぷり」

陽気に笑いながらグラスに酒をつぎ足す俺は、
幸か不幸か、その時のダイの言葉に俺は気付くことはなく―――

 

NEXT

 

用意周到なダイさん
さて、どうなる?