Private Lesson
-How to date?-
4thdate
例のごとく俺に財布を出させることもなく、ダイはチケットを購入して。
「ポップコーンとか食う?」
そんなことを言いながら、慣れた様子でコーラとポップコーンを買い込んできて渡された。
「俺、映画館とか久しぶりやわ」
まだ照明の落ちひんシアターで、ダイに手渡されたポップコーンを頬張りながらそう言うと、
ダイがそうやなぁと相槌をうって。
「大概DVDでえっかーって思うもんなぁ」
「そうそう。最近すぐDVDなるしな」
俺の手に抱えられたポップコーンに手を伸ばしながら、
そう言うダイに、ぼんやりと視線を移す。
…何でコイツって、こんな何でもない仕草が様になるんやろ?
「…薫くん?」
「へっ!?」
「零すで、それ」
ダイの指さされた部分を視線で追えば、俺のもう片手の中で傾きかけているコーラの容器。
「おわっ」
「なーんか、仕事離れると薫くんって危なっかしいよなぁ」
くすぐったそうに笑いながら、ダイが俺の手から零れかけていたコーラを取り上げ、
席の飲み物を置く部分に置いてくれる。
ついでに抱えていたポップコーンの容器をひょい、と取り上げて
食べやすいようにこちらに傾けてくれて。
「ん、どーぞ」
笑いながらかけられる言葉。
子供扱いされて恥ずかしいやら、ベタベタに甘やかされて
身の置き場がないやらでどうしたらいいかわからず、
どーも、なんて素っ気ない返事をしながら視線を画面の方に彷徨わせる。
よく考えたら、こんな風に甘やかされたのなんて子供の頃以来で。
慣れてへんのも当たり前や、とひとりごちていると。
突然、周囲がふっと闇に包まれた。
何の前兆もなく、突然真っ白だったスクリーンに画像が映し出されて。
あぁ、そういえば映画見に来てたんやっけ、なんて今更ながらに
自分の置かれている状況を確認する。
黙ったままそろりと横に視線を滑らせれば、イスに深く座り込んで
画面を見つめているダイがいて。
俺の視線に気付いたのか、ん?という風に目で問いかけられる。
見つめていたことに気付かれた気恥ずかしさに、慌ててふるりと首を振って。
出来そうにもなかったけど、俺は画面に意識を集中させた。
何となく選んだ最近の話題作。
いつかCMで見た通りの、ほんわかとした雰囲気で進行していくストーリー。
それに加えて、
冷暖房が完備された、快適な空間。
適度な座り心地のイス。
心地良さに、段々と瞼が落ちてくるのがわかって。
寝たらあかん、と思いながらも、襲いかかってくる睡魔には勝てず。
そういえば、俺今日よく寝れてへんかったんやっけ、なんて。
そんなことを考えながら、俺はそのまま意識を手放した。
完全に浮上しない意識の中、不意に口唇に感じた、
暖かくてやわらかな感触。
あれは、夢の中での出来事やったんやろか?
ざわざわと忙しなくなり始めた雰囲気に、ようやく目が覚めて。
照明のついたシアターの中、視界に入ったのは
ポップコーンを抱えたままのダイの腕。
はっ、と自分の体勢に気付いて慌てて身体を起こすと、
こちら側に首を傾けたまま寝てしまっていたらしいダイが
小さく身じろぎした。
「ん…あれ……。映画終わったん…?」
んー、と背伸びしながら問いかけてくるダイに、
そうみたいやで、と返す。
「途中まで見てたんやけど、何か眠なってもたわ…」
ふわぁ、と欠伸するダイにつられるように、俺も欠伸を零して。
「まぁ、最近疲れてたからな」
とりあえず出よか。
そう言って、上着を片手に席を立ち上がる。
「そうやなぁ…」
んー、と相変わらず嫌味なほど長い足を伸ばしながら
身体を伸ばしてダイが立ち上がった。
あっという間に逆転する視線の高さ。
何でお前もトシヤもそんなに背ぇ高いねん、なんて
思わず恨み言のひとつも言いたくなる。
「さて、今からどないしよか」
そんな俺の思考には全く気付かないまま、ダイがそう声をかけてくる。
時計を見れば、まだデートを終えるには早すぎる時間。
「…とりあえず、買い物でもするか?」
さっき見た映画の感想でも語りながらカフェでお茶、ってのが普通なんかもしれんけど。
あいにくふたりして寝てもーてた俺らには、語り合う感想もなければ
そんなに喉が乾いてるわけでもなく。
とりあえず『デート』で連想した行動を提案してみれば、
肯定のダイから返事が返ってきて。
俺とダイは、次第に夕焼けが染め始めた街へと身を溶け込ませていった。
NEXT