Private Lesson
-How to date?-
3rddate
ダイおすすめの店で、朝飯兼昼食…所謂、ブランチってやつを食って。
料理が盛られていた皿が空になる頃には、俺もようやく落ち着きを取り戻しはじめていた。
自分一人がドキドキしたり訳のわからん感情に飲まれてんのは、絶対雰囲気のせいや!
やったら逆にこの『デート』とやらを楽しんだる!
という、後から考えればドツボな思考と共に。
「これからどないすんの?」
グラスの水に口を付けながらそう目の前に座っている男にたずねると。
「んーまぁベタに映画でもどう?」
相変わらず綺麗な箸使いで飯を食い終わったダイは、そう言ってにっと笑う。
「ええよ。ほんなら行こか」
席を立って、車を出してもらった礼に昼飯ぐらいは奢るか、と伝票を持ってレジに向かおうとすると、
ダイが慌てて俺の手から伝票を奪って。
「何してんねんお前」
「いや、俺出すし」
「何で?」
「普通初デートは男が持つもんやろ」
「…俺、男なんやけど」
「まぁまぁ」
まぁまぁ、って。
全然誤魔化しにもなってへんけどお前。
「とにかく、ちょぉ待っといて」
そう言って、小さく片目をつぶるダイ。
「あ、おい!」
対する俺は置いてけぼりを食らったまま。
気が付けばダイがジーンズの後ろポケットから財布を出し、
会計を済ませてしまっていた。
「薫くん?行くで」
ドアの前で振り返って、そう声をかけてくるダイの後を慌てて追う。
「車まで出してもろてんねんから、払うって…」
「えーのえーの。そんなん気にせんでも」
財布に手をかけてそう言う俺に、ダイは笑みを浮かべたまま
ひらひらと手を振る。
普段やったら気にせぇへんかもしれへんけど、
この状態でそんなこと言われても気にするっちゅーねん。
「ダイ…」
「えーから。ごちそーさまって、笑って?」
「は?」
立ち止まって、俺の顔をのぞき込みながらダイがそんな訳のわからんことを言い出す。
ちょっと待て、お前何で俺の頬に手ぇ添えてんねん!?
「言うまでこの手は離さん」
「なっ!?」
言うとくがここは屋外で断じてふたりっきりの空間でも何でもない。
要は、そこそこ人通りのある路上な訳で。
「アホかお前!はよ離せって…」
「なら笑ろてよ。『ごちそうさま』って、ほら」
「ダイ…!」
ダイって、こんな奴やったっけ?
何か俺今日1日でダイのイメージ変わりそうや…
「わーった!言うから!言うからこの手ぇ離せ!」
笑みを浮かべたまま、でもその目はしっかり俺を映し出したままのダイに
ついに俺は根負けして。
べり、とダイの手を引き剥がすと、小さく舌打ちして一言。
「………ごちそーさん」
顔真っ赤で、俯いたまま。
畜生、何で俺がこんなことせんなあかんねん…!
「うん」
笑ったわけでも、愛想良く言ったわけでもないのに、
ダイはぽふぽふと頭を撫でてきて。
「じゃ、映画行こか」
そう言って、ゆっくりと歩き出した。
先に歩くダイの後ろを、のろのろとついていく。
顔の赤みが、まだひかんくて。
「薫くん?」
先程から俺の歩調に合わせてか、一定の距離を保ったまま歩いていたダイが
くるりと振り返って。
「どないしたん?調子でも悪いん?」
そう言いながら、顔をのぞき込んでくる。
…お前、誰のせいやと思って…
「ちょっと休むか?」
どうやら自分が原因だとは露程も思っていないらしいダイに、
1人ぐちゃぐちゃと考え込んでいる自分が何や馬鹿らしくなってくる。
そうや、どうせやから楽しむって決めたんやん。
「…大丈夫や。映画館って遠いん?」
ぱ、と顔を上げた俺に、ダイは一瞬目を丸くして。
すぐに笑みを浮かべると、近くやで、と少し先にある建物を指さした。
「あそこのビルの最上階にあんねん」
「そうなんや。お前詳しいなぁ」
「まぁ、たまに来とったからな」
ほら、大丈夫や。
たわいない話をしとったら、いつも通りのダイなんやし。
今日何度目かの激しい動悸に、気付かんフリをして
俺は足早に映画館に向かった。
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