Private Lesson
-How to date?-
2nddate

 

「は?」

今、ダイは何て言った?

今日 本気で 薫くんのこと 口説く ?

「は?って。つれない返事やなぁ〜」

左手にステアリングを握って、右手を窓の縁に乗せたままの体勢で
ダイが苦笑気味に笑う。

「い、いやだって。びっくりするやろ」
「そう?だって今日デートしてんねんしさ」

驚愕と同時に、かぁ、と頬が紅潮するのが自分でわかった。
なんでこんなに心臓の鼓動が早いねん!!
相手はダイやぞ!?
同じバンドのメンバーで、それよりも俺と同じ男で…

「な?」

濃いサングラスの下、ダイがにっと、あの人懐こい笑みを浮かべて笑う。

あかん、なんで俺昨日からダイにこんなんなってんねん…!

「動揺してる?」

急に見透かされた気分になって(実際見透かされた訳やけど)
あ、あほか、と慌てて虚勢を張る。

「んなことより今日どこ行くねん!?」
「んー? まぁ、ドライブにでも」

そう言って、ダイは鼻歌交じりにアクセルを踏み込んで速度を上げた。



はじめはいつもと違う雰囲気に挙動不審になっていた俺も、普段通りの
会話をはじめたダイにつれられるように落ち着いてきて。

「そういや、ダイが運転してんのって久々に見るな」

既視感にも似た感じを受けたダイの姿を見ながらそんなことを言うと、
そうやなぁ、と相槌が返ってくる。

「昔はよぉ俺が運転してたもんな」
「そうそう、でっかいバンでな」

懐かしい昔話に花を咲かせれば、一気に時代が戻って。
印象深かったエピソードをあげれば、思い出は留まるところを知らずに
次々と溢れてきた。

「懐かしいなぁ…」
「ほんまになぁ。あ、そういや薫くん腹減らん?」
「んーそういや微妙に減ったかもしれん」

時刻はまもなく正午になろうとする頃。
ダイは俺が気付かへんうちに高速に乗ってたらしく、
車はどうやら横浜の方に向かってるらしかった。

「高速降りたら、車停めて飯食いに行こ。
 ええ店があるねん」

な、と。
車線変更ついでにこちらに視線を寄越してくるダイ。
…何でこいつは、いちいちこういう仕草が様になるねん。

「薫くん、顔赤い」
「あ、あほか!ハンドルから手ぇ離すな!」

片手運転でからかうように頬をつついてくるダイを睨み付けてそう早口に捲し立てる。
赤くなんか断じてなってへんわ、アホ。

「ふーん?」
「お前、すごい腹立つ」
「ごめんごめん。薫くん可愛いーて、つい」

…可愛い?
そういや車に乗り込んだときもこいつそんなこと言ってたな…。

「お前、俺に対してそのリップサービスは寒すぎるんちゃうんか…」

少々げんなりしながらそう返した俺に、ダイは真顔でしれっと。

「リップサービスちゃうよ。本心やもん」

そう言いながら、煙草をくわえてライターを擦る。
別に俺も喫煙者やのに、わざわざ窓を細く開けて煙を外に逃がして。

どうせここで何か言い返したところで堂々巡りで埒があかんのやろう、と思って
俺は仕方なく話題を変えてみた。

「…ダイって、今まで付き合うてきたコにもそうやったん?」
「そうって?」
「煙草吸うのに窓開けたりとか、可愛いて言ったりとか」
「あぁ、エスカレーター乗るときに先乗せたりとかするってこと?」
「まぁ…そう、やな」

今まで意識してきたことはなかったけど、こうして視点を変えてみれば
ダイはなかなかに気が付く男で。しかも優しい。
過去の付き合い方を振り返ってみても、俺はここまで彼女にしてやれんかった気がする。

「んーどうやろ。あんま意識したことはないねんけどな。
 …あぁ、でも可愛いは薫くん限定かも」
「は?」
「なんかな…意識してへんけど、ぽろっと出てもた」
「………お前、精神的に大丈夫か?」

それか目でもやられたか、と半目で切り返した俺を余所に
ダイは煙草を銜えながら笑って。

「俺、面食いな自信はあんねんけどなぁ」

とん、と灰皿に落とされる煙草。

こっちはアホみたいに心臓が脈打ってて、平然としたフリを装うのが精一杯やのに
対するダイはしれっとした顔でそんなことをのたまっている。
煙草を銜えた横顔が嫌になるくらい様になってて。
何で今日だけこんなにダイにときめいてるんか自分でもわからん。

「………」



え、

…俺、

ダイに ときめいて る …?



「……ーい。おーい、薫くん?」

ひらひらと、目の前で振られる掌。

訳のわからん感情に押しつぶされそうになって、いつものごとく思考のループに入りかけようとしていた俺は、
ようやくそれで我に返った。

「あ、気付いた?」
「ぉわっ!?え、何?」

渦中の原因であるダイがいきなり目の前におって、思わずずさっと後ずさる。
…すぐ後ろは、助手席の固いシートで大して逃げれたわけじゃないけど。

「ひとりでどっか行ってたから。着いたで」
「え、あ、着いた?」

落ち着いて周りを見てみれば、どうやらここはどこかの駐車場らしい。
いつの間に高速降りたんやろ…全く気付いてなかった自分に、しばし呆然とする。

「大丈夫?」

すぐ目の前に、ダイの顔。
いつもならじゃれて突き合わせているはずのこの距離が、やけに近く感じるのは何でなん?

こうして改めて近くで見れば見るほど、綺麗な顔をしてるなと思う。
伸ばされる長い指も、さらりと頬を滑る髪も。
どのパーツをとっても、綺麗だと思……

「いや!違う!違うって!」
「は?」

突然大声を上げた俺に、ダイはきょとんとしたまま。

「な、何でもない!そ、そうや、腹減ったわ!
 飯食いに行こ!!な!!」

捲し立てるようにそう言って、ダイの視線を逃れるように慌てて助手席を降りる。

俯いたまま、バン、と力一杯ドアを閉めながら。
この訳のわからん感情が何なんかわからず、俺は思わず泣きたくなった。

 

NEXT

 

薫さん、ようやくダイくんを意識し始めた模様