きっかけはたわいない…ちょっとした遊び心だった

 

Private Lesson
-How to date?-
1stdate

 

分刻みのスケジュールで埋められた毎日に、ぽっかりとあいた白い空白。

「あー…明日休みかー…」

手元にスケジュール帳を広げたまま呟いた独り言に、ソファで煙草を吹かしていたダイが
くるりと身体をこちらに向けて。

「そういやごっつ久々のオフやなぁ。…薫くん何か予定あんの?」

銜え煙草のままでそう問いかけてきた。

「何もない。何しよ」

至極あっさりと答えた俺に、ダイは少しきょとんとした顔をして。

「彼女と会うとか」
「おれへんし」
「そうなん?ちょっと前までおるって言ってなかったっけ?」
「結局会えへんくて擦れ違いが続いて自然消滅?」
「…ありがちなパターンやな」

苦笑気味の俺の言葉に、ダイも困ったような顔をして少し笑う。
そんなところはお互い様なんやろう。
以前ダイも同じようなことを言ってたのをぼんやりと思い出す。

「ほんじゃ何すんの?」
「何しよ。仕事?」
「せっかくのオフまで仕事すんの?」
「別に苦痛やないしなぁ」

ふ、と紫煙を吐き出しながら自分の言葉を反芻して、寂しい休日過ごしてんなーと再び苦笑い。
だからといって特にしたいことが思いつくわけでもなく。
いつもより少し多めに寝て…たまった洗濯物とちょっとした掃除でも出来ればそれでええかな、と
白い煙を視線で追いながら考えていると。

「んじゃ、俺とデートせぇへん?」

唐突な申し出が舞い込んできた。

「…は?」

一瞬呆気にとられてダイの方を見ると、にっと微笑まれて。

「俺も何しよかなーって思っててん。ちょうど暇なんやったらええやん、デートしようや」

―――いや、その理論はわかるけど

「…何やねんその『デート』って」

普通に遊びに行こうとかでええやんけ。

「んーお互い寂しい休日を過ごすわけやし?じゃぁちょっとした潤いでも、と思いまして」
「何でお前と『デート』やねん」
「ええやん。俺薫くんが今まで付き合ってたコとどんな恋愛してたんか気になるし」

手始めにデートしてみぃひん?と、ダイは何でもないようにさらりと告げた。



きっかけなんてどこにでも転がっていて。
最初はそう…たわいない、ちょっとした悪戯心だったのだ。



「…ええで?」

絡ませた視線に、微かに笑みを混ぜて答えを返す。
そう言われてみれば…知ってみたくなったのだ。
同じバンドの同じギタリストが、どんな恋愛をしてるのか。

「んじゃ決まりな。何処行きたいかとかあったら言って欲しいんやけど?」

ぎゅっと煙草を灰皿の上で潰しながら、ダイが挑戦的な笑みをこちらに寄越してきた。

「…別にいっつもお前が行ってるデートコースとかでええよ?」

雑誌の撮影でもしないであろう艶やかな笑みでその挑発に乗ってやる。

「じゃぁ明日、楽しみにしといて」

ふ、と紫煙を吐き出しながら告げられた言葉。
こうして、所謂『デート』の約束は取り付けられて。



「……つーか、何着てったらええねん」

仕事を終えて帰宅したソファの上。
疲れた身体を投げ出したまま、一服していたところでダイとの会話をふと思い出した。

「『デート』ねぇ……」

昔付き合っとったコとデートするときって、何着とったんやっけな。
徐にソファから立ち上がって、銜え煙草のままクローゼットの方へ向かう。
立ち上がるとき思わず口をついて出た、よっこいしょという言葉はなかったことにして。

「これ…は、ちょっとあれか……。こっち…は京くんがえらい顔してたな…」

ごそごそと服を引っ張り出しては、あれこれ思案して。
はっと気付いたときには広げた服がベッドを占領しようとしていた。

―――つーか!
なんで高々ダイとデートぐらいでこんなに真剣にならなあかんねん!
本命の女でもあるまいし、毎日顔を合わしとるバンドのメンバーやのに。

「アホか俺…」

急に気恥ずかしくなって、ばさばさと広げた服を乱雑に片していく。
結局手元に残ったのは、ある意味一番無難なTシャツとジーンズやった。

「っ、はよ寝よ…」

銜えていた煙草を灰皿に押しつけて、そそくさと浴室に移動する。
なんでこんなことで動揺してんのか、自分でもわからへんかった。



翌朝。
早々にベッドに潜り込んだわりには、ほとんど寝れずに朝を迎えた俺。

ほんま、昨日の夜から調子崩しっぱなしというか、何というか。
挙動不審な自分が情けなくなる。

顔を洗いながら、ふと携帯が点滅していることに気付いて。
歯ブラシを片手に携帯を開くと、今から30分ほどでうちまで迎えに来るという
ダイからのメールやった。

「あいつマメやなぁ…」

今まで女と付き合っとっても、足もなかったからなかなか家まで
“お迎え”に行ったことはなかったように思う。
さすがに夜遅くになったときは、可能な限り送っていくようにはしとったけど。
でも最近は、逢うことすらもままならんようになって、いつしかそれが普通になって、
気付いたら携帯に連絡が来ることもなくなって。
もうあかんのかな、という自虐にも似た想いを抱えながらも、現状を改善するつもりもなく
結局自然消滅という形で前の彼女との繋がりは消えた。
言っておくけど、別に彼女のことを愛してなかったとか、そういうことじゃない。
確かに俺は彼女のことが好きやったし、だから付き合ってた。
まぁ、付き合いが深くなるにつれて気遣いが減ってたのは確かな話なんかもしれへんけど…。

「って、やば、時間…!」

携帯を握りしめたまま感傷に浸っていたら、ダイが迎えに来ると言った
時間が迫っていることに気付いて。
俺は慌てて携帯を放り出すと、身支度を整えて家を飛び出した。



時間ぴったりに、家の前に見慣れへん車が横付けされて。

「おはよう」

てっきりダイは歩きか何かで来るんやろう、だからこの車は俺とは関係ない。
と思ってたら、下げられた窓の中から人懐っこい笑みを浮かべた顔がのぞいた。

「ダ、ダイ!?」
「んーおはよう。薫くん今日なんか可愛いな」

びっくりしてる俺を後目に、かちゃ、とロックが下ろされ、中からドアを開けられて。
どうぞ、なんてしれっとエスコートされる。

「ど、どうも…。って、この車どないしたん?」

しどろもどろな状態で車に乗り込んで、運転席に座っているダイに挨拶するのも
忘れて聞いてみれば、借りてん、と一言返事が返ってきて。

「借りた?」
「ん、レンタルな。運転禁止されとぉけど、ま、その辺は内緒にしといて」

に、と弧を浮かべた口唇の上に、ダイは人差し指を立てながら悪戯っぽく笑う。

「なんでわざわざ…」
「まぁ細かい話は後にして。とりあえずシートベルト締めてや」
「あ、うん、ごめん」

あたふたとシートベルトを締め終わると、それを見届けたダイが
サイドブレーキを下ろして。

「薫くん」
「ん?」



「俺、今日本気で薫くんのこと口説くわ」



そう言って、ダイはアクセルを踏み込んだ。

 

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薫くんって、『デート』とかっていう言葉に弱そう
と思って書き始めた話です
最後はどうなるのか、書いている本人もわかっておりませんが
どうぞよろしくお願いします〜。爆