care with warm
眠れへん夜が増えた。
『眠たい』
とメールで告げたダイに、
『最近ちゃんと寝てへんねんし、もう寝ぇや。おやすみ』
と返信したんは紛れもない自分やのに。
「俺はバカかな……」
携帯のディスプレイに今頃夢の中であろう恋人の名前を表示させている自分に、
小さく自嘲を含んだ溜め息を零した。
大雑把な部分があるとは言え、そこそこマメな恋人。
それでなくても、夜中の電話をとってくれるだけ愛されている自信はある。
それこそ、今更遠慮する仲でもないわけで。
「でも、なぁ」
携帯を握りしめたまま、瞳を閉じる。
しばらくして、明かりの消えるディスプレイ。
淡い光が、闇に沈んだ。
ここ一週間ほど、逢わへんかっただけや。
そう、たった一週間。
完璧擦れ違いなスケジュール、おまけにダイはここ数日間根をつめて仕事をしていて。
『ごめん、今日は先あがるわ』
ダイがそう連絡をよこすのも無理はない話である。
俺の方は相変わらず帰りがいつになるかなんてわからへん生活を送ってたから。
帰ってしばらくは連絡をよこしていたダイやけど、おやすみのメールからは当たり前だが返信はなかった。
夜も更けた2時頃、ようやくキリのいいところまであがった仕事。
ダイの家に行くかうちに帰るかを逡巡するものの、もう眠ってしまっているところに行くのも悪いと思い、
大人しく家に直帰することにする。
鍵を開け、冷たい空気が充満した部屋に入った。
疲れ切った体。
でもそんな体が、ただ睡眠や休息だけを求めているわけではないことがわかる。
欲しいのは、ぬくもりと癒し。
それは、くやしいけどアイツにしか与えてもらえないもの。
煙草をくわえてテレビでもつけてみるものの、そんなもので気分転換が出来るわけもなく、
意気消沈しながら寝室へ移動する。
頭の中を占めるのは、ただダイのことばかり。
こんなになるなら、深く考えずに逢いに行ったら良かったと今更ながらに後悔する。
アイツは、恋しくなったりせぇへんのやろか。
感情を素直にぶつけてくるダイのことや。
『寂しい』や『逢いたい』と、言われたことがないわけではない。
けれど、ここ最近はあまり聞いていない気がする。
むしろ、こっちばっかりが恋しがっているような。
ええ年して何考えてるねんと、自分でも思う。
恋したての中坊でもあるまいし。
自分の中にこんな感情があることにさえ、気付いてへんかった。
今までは、もっとうまく割り切れていた気がする。
なのに、どうやろう。
今ではすっかりこの様だ。
「骨抜き、ってこういうことを言うんかね……」
そんなことを呟きながら、煙草をくゆらせる。
暗い室内で、蛍火のように揺れる炎。
実際、ここまで相手に溺れた恋愛は初めてなんやないやろか。
ダイ相手やと、いつも調子を崩される。
自分のペースに引き込めへん。
気がつけばいつだって腕の中や。
でもそれが。
「嫌じゃないんよな……」
むしろ、心地好くて。
抱きしめる腕、見つめる瞳、名前を呼ぶその声。
「薫くん!」
優しい声やと、振り返る度に思った。
愛しい、好きやでと、真摯に訴えるあの声で名前を呼ばれるのが心地好かった。
「……っあー!もう!!」
くしゃくしゃと髪の毛を掻き混ぜる。
考えれば考えるほど、思いは募るばかりで。
意を決したようにベッドから起き上がると、クローゼットの扉を少々乱暴に開け放った。
お気に入りのシャツに、ジャケット。
取り出して、着替えて。
机の上に放り出していた鍵束を手に取ると、帰ってきてそのままになっていた鞄を肩から下げて家を出た。
仕事が朝からやとか、あと数時間しか眠れへんとか、そんなことはこの際関係ない。
ただ、アイツを感じられる場所で眠りたいだけ。
アイツのぬくもりを感じられる、場所で。
END