Bath Time
ダイは俺と風呂に入るのが好きだ。
というよりも、一緒に風呂に入ってあれこれ世話を焼くのが好きらしい。
「お前がそんなに世話好きやとは知らんかったわ」
俺にシャワーの湯を降り注いでいるダイを上目遣いに見上げると、
その長い指で俺の髪を梳きながらダイがにぃっと笑って。
「薫くんにだけやで?」
そう言いながら湯が入らないように俺の目元を手で覆い隠し、髪を洗い流す。
十分に濡らした髪の水気を切ると、今度はシャンプーに手を伸ばすダイ。
蒸気にのって甘い香りがバスルームを満たす。
わしゃわしゃと泡立てられる髪。
ダイの指先はいつも力加減が絶妙で、美容院とかで髪を洗ってもらってるとき以上に
リラックスしながら俺は備え付けの鏡を見つめている。
曇った鏡にうつる、ダイの嬉しそうな顔。
いつからか、2人きりのときはダイと一緒に風呂に入るのが慣例化してて。
普段からスキンシップが好きやな、と思ってはいたけれど、まさか風呂の中まで
世話を焼きたがるとは思わへんかった。
俺の手から泡立てたスポンジを奪い、シャンプーのボトルを取り上げて。
呆れ顔の俺の身体を、それはそれは嬉しそうに洗っていくダイ。
最初は明るいところで身体を見られることに抵抗を覚えとった俺も、
いつの間にかその感覚は麻痺っていた。
多少の気恥ずかしさは拭い取れへんけど、今じゃ風呂場では何もしない俺。
でもダイは何も言わない。
寧ろ嬉しそうに俺の世話を焼いて、風呂から出ればいそいそとドライヤーまであててくれる。
「髪伸びたなぁ」
「お前の方が長いやん」
「まぁそうなんやけどな」
ダイの後ろで束ねられた髪。
普段はあまり目にしないそんな姿も、最近じゃ随分と見慣れて。
いつもは長い髪に覆われた、白い項が露わになっている。
「目ぇ瞑ってー」
ダイがそう言いながらシャワーの湯を頭からかけてきた。
シャンプーの泡が肌を滑っていく感触。
言われるがままに目を閉じ、大人しく身を委ねる。
洗い立ての髪にトリートメントを塗布して。
常備してあるスポンジに手を伸ばすと、これまた嬉しそうに泡立て始めるダイ。
シャンプーとはまた違った甘い香りが、鼻先を擽って。
イスに座ったままの俺の腕を取ると、鼻歌でも歌い出しそうな勢いで上機嫌なダイが
スポンジを擦りつけ始めた。
くすぐったい感触。最初の頃に比べたらだいぶ慣れはしたけれど。
「…お前、ほんま楽しそうやな」
「楽しいでー♪」
「今まで付き合ってきたヤツにもそんだけ世話焼いてきたん?」
「いーや、薫くんだけやで。ここまですんのは」
「へ?そうなん?」
いやに手慣れてたから。
てっきり今までもそうしてきたんやと思ってたけど。
予想外の答えに、俺は目を丸くしたまま目の前にいるダイの顔を見つめた。
スポンジをわしゃわしゃと握りしめながら、微笑むダイ。
溢れた泡が、その掌から落ちて。
「なんていうか…甘やかしたいねん、薫くんのこと」
普段そんな公然とベタベタも出来ひんし。
薫くんもそんな自分から甘えてくる性質ではないやん?
「まぁ…そうかもしれんけど…」
「だからこうやって黙って身ぃ任してくれんの、すごい嬉しい」
俺ちょっとは信頼されてるってことやろ?
そう言って、ダイが洗っていたのとは逆の手を取って同じようにスポンジを当ててきた。
確かに。
こうやって何もせんと甘えてるんは、甘やかしてくれてんのがダイやからなわけで。
コイツといると、いつもは張ってる気とかが、綺麗に払拭されていくのがわかる。
限りなく素に近い自分を出せるのは、ダイが俺を受け入れてくれると知ってるから。
信じてるんやと思う。その存在を。その想いを。
紡がれる言葉ですら―――
俺の身体を綺麗に洗い立てると、そのまま湯を張っていた湯船につからせて
自分の身体を洗い始めたダイ。
少し熱めのお湯につかりながらダイが髪を洗ったり身体を洗ったりするのを
湯船の縁に腕をのせてぼんやり見つめてる、この時間がもしかしたら
俺が1日の中で一番安心する時間かもしれへん。
何気ない日常の1コマに過ぎひんけど。
だからこそ一番安堵出来る場所。
「だーい」
「ん?」
「………上がったら、シよか」
「へっ!?」
髪を洗い流していた手を止めて、此方を見つめるダイ。
やがて、すぐに破顔して。
「ええよ」
に、と微笑まれる。
俺もつられたように笑って。
顔が赤いのは、蒸気のせいで身体が火照ってるから。
そんな言い訳が出来るバスルームという空間は、俺も結構好きかもしれない。
日常の中に存在する、切り離された密室空間。
身体を覆い隠すものすらないこの場所が、一番素直になれる場所なのかもな、と
俺はダイの口付けを受けながら、ぼんやりと思った。
END
風呂場では何もしない薫くんと、
世話を焼きたがるダイくんが書きたかったんだ…!
ダイくんが後ろで髪しばってる姿を想像して1人悶えてみたり
楽しかった 風呂場いいな!爆