ふわり、とやわらかい風が吹き込む

それはある春の麗らかな日のこと

 

blind*kiss

 

甘い薄ピンクの花びらが咲き乱れ、頬を撫でる風が微かに香り始める季節。

「ふぇっ……、くしゅ!」

さっきからティッシュ箱を片手に鼻をぐずぐず言わせてる京くんには申し訳ないけど、
俺は結構この時期が好きだったりする。
煌々と降り注ぐ真夏の太陽光線のもとで人々が開放的になる前の、
ゆっくりとして暖かい時間。



窓から差し込むやわらかな光にうつらうつらしながら、ぼんやりとソファで微睡む。
静かな空間。喧噪だとか騒音だとか、そういうものが何処か遠く感じる、甘い蜜の中。

不意に空気が揺れて、がちゃりとドアの開閉音が響く。
眠い目を擦りながらそちらに視線を移すと、先程まで取材に行っていたシンヤが無表情に立っていた。

「…薫くんは?」

俺と京くんしか姿のない楽屋をちらりと一瞥しながらそう問いかけられて。

「知らないよー…」

ふぁ、と欠伸をしながら間の抜けた返事を返す。

「そういやさっきから見ん、な…っ、はっくしゅぃ!!
 っあ゛ー…も゛ー…」

鼻の頭を赤くしながら京くんが言う。
かゆいのか、しきりに潤んだ目を擦って花粉に悪態をつく姿は、
口に出しては言えないけど小さい子供みたいで何か可愛い。

「…ダイくんと屋上にでも気分転換に行ってんじゃね?」

今日天気いいし、と言葉を添えれば

「呼びに行くのめんどい。トシヤ行ってきて」

なんて末っ子から辛辣なお言葉。

「俺だってめんどいよ…京くんかシンヤ行ってきてよー…」

無駄なんだろうな、とわかっていながら一応拒否を示してみる。
俺を除いたこの2人が動くという可能性は…限りなく、低い。

「「え、嫌や」」

案の定、息のあった返答がダブルで返ってきて。

「…ったく、わかったよ…」

俺は小さくため息をつくと、その任務をしぶしぶ引き受けた。



「めんどくせー…」

そういや煙草もうなかったんだっけな。

そんなことを考えながらゆっくりと屋上に通じる非常階段へ向かっていると、
使われていないはずの部屋のドアが薄く開いているのに気付いた。

「…れ?」

誰かいるのかな、と、中をのぞき込もうとノブに手をかけたところで、
不意に小さく物音が聞こえて。

「…っ、ダ…」
「黙って、薫…」

続けて聞こえてきた声に、俺は目を見開いたまま固まってしまった。

―――え、ダイくん…と、薫、くん…?

確信が持てなかったのは、聞こえてきた声があまりにいつもの2人の調子と違ったからだ。

「やっ…ダイ…っ」

薫くんはと言えば、普段の低い彼の声からは想像もつかないような、
甘く濡れた響きを持って。

「薫…」

ちゅく、と唾液の絡むあからさまな音をさせて、ダイくんが愛おしそうにその名前を呼ぶ。
ハスキーな声に上乗せした、じわじわと官能を揺さぶる熱を持って。

途端にかぁ、と頬が熱くなるのを感じた。






「……おぉ、やるなぁダイくん」
「薫くん可愛いな…おっさんやのに…」






と、突然そんな声が聞こえてきて。
驚きに思わずうぉ、と声を上げかけた口を塞がれ、目を白黒させつつも後ろを振り向けば
しっかりのぞき見に来てるデバガメ2人と目があった。

「ちょ、何してんだよ」

ぷは、と口を塞いでいた京くんの手を逃れ、小さな声で詰問すれば

「だってトシヤものぞいてたやん」

というしれっとした返答が返ってくる。

「いや、俺はただ扉が開いてたからのぞきこんだだけ…」
「しっ、黙って」

シンヤとしょうもない小競り合いをしていた所に割り込んできた京くんの声に、
思わず口を噤んで部屋の中をのぞき見る。



ふわりとはためいたカーテンの向こう側、口唇を合わせて微笑む2人。



それは、あまりにもきれいな情景で。
思わず息を飲んだ。




クスクスと小さく響く笑い声の合間に、触れ合わされる口唇。
じゃれあうようにキスを繰り返したかと思えば、するりと薫くんの腕がダイくんの首に回されて。

ぱさりと音をたてて動きを止めたカーテンの向こう側、浮かび上がるシルエット。






「…もうちょっと、ほっといたろか」
「…ん、そうだね」

京くんの言葉に頷いて、音を立てないように慎重にドアを閉める。

言葉無く3人で楽屋に戻りながら、まだ熱を持っている頬を両手で包み込んだ。
顔の赤みが引かない。

映画とかのあからさまなベッドシーンよりも、ずっときれいだった2人の姿。
…まだ、胸の動悸がおさまらなくて。

「……トシヤ、さぁ…。もしかして感化されたん?」
「へぇ…っ!?」

意地悪く囁かれた京くんの言葉に、思わず声を裏返させる。

―――な、何言い出すんだよ…!京くん!!

そんな俺のわかりやすい反応をどうとったのか、京くんはその口唇に意地の悪い笑みを浮かべて。

「シンヤ、ちょっとふけるわ。後よろしく」

なんて言いながら、俺の手首をがっしり掴んできた。

「はいはい。ほどほどにして帰ってってや」

僕怒られんの嫌やで、とひらひらと手を振りながら背中を向けて歩いていくシンヤ。

「や、ちょ、シン…!」

慌てて呼び止めるも、この状態じゃ逃げ出すことも叶わずに。

結局手際よく俺を空き部屋に連れ込んだ京くんは、気の済むまで俺の口唇を貪って。
抵抗してた身体から力が抜いて、最後には俺が自分から強請るようになるまでキスを繰り返した。



やわらかな春の日差しの中。
甘い蜜に誘われる虫たちみたいに、その口唇を、求めて。

 

END