例えば、人間がこの世に産まれてくることに何か1つだけ、意味を持たせるのだとしたら
俺はきっと、この恋のために産まれてきた
BIRTHDAY
隣で静かに寝息をたてる薫くんの髪を梳きながら、視線をぼんやりと宙に漂わせた。
体の隅々を覆う気怠い感じ。
セックスっていう行為自体も好きやけど、行為後二人で気怠い体を寄せ合って眠るのも心地がええな、と
まだ浮遊感が残った頭でゆったりと思考を巡らせる。
ベッドサイドに置かれた蓄光の時計は、緩やかに時を刻んでいて。
カチリと動く秒針、指し示す時刻は、午前3時―――
闇と静寂に包まれた室内は、この世に二人だけ置いていかれてしまったかのような錯覚を起こさせる。
確かなのは、この腕に感じる重みとぬくもりだけ。
薫くんと共に迎える、何度目かのバースディの夜だった。
日付が変わった途端、
「今日誕生日やな。おめでとう」
と、祝いの言葉を何の前触れもなく突然さらりと告げられて。
「え?あ、あぁ…。ありがとう」
あまりにも自然な言葉、しかも咄嗟の出来事に反応出来ず、俺の口から零れたのは
そんな素っ気ない一言やった。
薫くんの言葉で、ようやく今日が自分の誕生日であることに気付いて。
そうか、また薫くんと同い年なんや、と目の前の恋人を見ながら思う。
しどろもどろな俺の反応に、薫くんは一瞬きょとんとして。
それでもすぐに微笑むと、少し身を乗り出してやわらかな口付けを俺の口唇に落とした。
秒刻みのスケジュールに追われて、日付の感覚すらあやふやになっている毎日。
それでも、薫くんが俺の誕生日を忘れてたことはなくて。
忙しい合間を縫ってプレゼントまで用意してくれる、そんな優しさに言葉以上の愛情を感じる。
どんなに忙しくても、いつもこうやって俺のことを祝福してくれる薫くん。
そういうさりげない配慮が出来てしまうこの人には、俺はきっと一生頭が上がらへんのやろう。
「ケーキあるで。食べる?」
取ってくるわ、と立ち上がりかけた薫くんの手を、反射的にぱっと掴む。
「ダイ…?」
きょとん、とした表情の薫くんから視線を逸らし
「や…朝でええわ」
俯いたままでそう呟くと、掴んだままの手に力を込めてこちらに引っ張った。
「わっ!?」
咄嗟のことに対処しきれなかった薫くんの体を抱きしめて。
「それより、もっと甘いものが食いたいねんけど」
耳元で囁いた言葉に、腕の中の薫くんは抗わなかった。
「…や…んっ……」
白い肢体に噛み痕を残すたびにあがる甘い声。
熱を持った溜息のような吐息が零れては、オレンジ色の闇の中に儚く紛れて融けてゆく。
普段はやたらストイックなくせに、こういうときのカオはやけに扇情的で。
そんな表情を独り占め出来る優越感と同時に、やられっぱなしの自分に僅かな苦笑。
すると、そんな俺の小さな表情の変化も見逃さなかったのか、
薫くんが微かに眉間を寄せて俺の頬に手を伸ばした。
「だ……い…?」
弾む吐息。
濡れた瞳。
赤い舌が、渇いた唇をぺろりと舐める、そのしぐさ。
目の当たりにして息を呑む。
どうして、こんなにも愛しいんやろう。
胸が、痛い。
不意に目頭が熱くなって、俺は愛撫の手もそこそこに薫くんの胸に顔を埋めた。
「ダイ…?」
どうしたん、と薫くんが問いかける。
やわらかく抱きしめてくれる腕。
髪を梳いてくれる、白い指先。
声も、温度も、感触も、何もかも。
多分一生、手放せへん。
『Maybe,I was born to love you.』
燻らせていた煙草を揉み消すと、穏やかに寝息をたてている薫くんの隣に体を滑り込ませた。
「かおる」
名前を紡ぐ声は、自分でも驚く程甘く、愛しさに溢れている。
俺をこんなにまで変えてくれた、君に出会えた奇跡に感謝。
『産まれてきてくれて、ありがとう』
心の底から感謝してくれた君へ、伝えたい言葉があるんだ。
「たぶん俺は―――」
手をとると、無意識にか、握り返される指先。
そんな薫くんに小さく微笑んで。
「薫くんを愛するために産まれてきてんで」
呟いて、額にやわらかな口付けをひとつ。
擦り寄ってくるぬくもりを抱きしめて、俺はゆっくりと目を閉じた。
これからもずっと、君のそばで、
君を愛し続ける幸せを、感じていられますように。
愛し君へ、
祈りがどうか、届きますように―――
END