いつだって、君が笑っていてくれたら
俺は君の羽休め場にくらい、いくらでもなってあげる
君さえいれば、俺は他に何もいらないから
珍しく、朝から薫くんがふさぎ込んでる。
表面上は何事もなかったかのように取り繕ってるけど。
時折微笑むその笑顔に、いつもは見られない翳りが見えて。
普段は敏感な他のメンバーも、自分たちのことで手一杯で気付いてない。
俺もついさっきまでそんな状態で、ふとした瞬間に薫くんを見ていて気付いたのだ。
どんなに忙しくても、その笑顔を見れば癒される。
そんな相手の笑顔が、曇っていることに。
「薫くん?」
そっと声をかけてみる。
先程から視線は手にしている雑誌の方を向いていたけれど、少しも文章を追ってないことくらい
ページを捲っていない手元の状態でわかった。
何度か声をかけたところで、はっと視線をこっちに向ける薫くん。
驚いたように見開いた瞳が、俺を映し出して微かに緩んだことに気付く。
「あぁ、ダイか…。どないしたん?」
そうして普段と同じように取り繕うとする。
そんな笑顔が、たまに痛々しくて。
見てるこっちが辛くなる。
「ちょっといい?」
「あぁ。何?」
「こっち、来て」
雑誌を閉じて目の前のテーブルに置くと、薫くんは大人しくついてきてくれた。
楽屋を出て、人通りの見られない廊下を黙って歩く。
いつもは何かしら小言を言う薫くんが、今日は何の文句も言わずについてきて。
あぁもういっぱいっぱいなんや。
直感的にそう思った。
突き当たって、今は使われてへん衣裳部屋のドアを開け、薫くんに入るように促す。
何か言いたげに俺の顔を見上げたが、すぐに俯くと部屋に入る薫くん。
自分もその後を追うと、後ろ手にカギをかける。
ぼんやりと突っ立ったままの薫くんを背後から抱きしめた。
ふんわりと、包み込むように。
胸の前で交差した掌に、薫くんの手が重なる。
「…どした?」
優しく、囁くように耳元で問いかけた。
別に根掘り葉掘り聞くつもりなんてさらさらない。
いろんなことを1人で考え込んでる薫くん。
でも、たまに無限ループから連れ出してやらんと、頭の中のカオスはさらにひどくなって。
それは薫くんの日常生活に如実に影響を及ぼす。
飯を食わんくなったり、寝んくなったり。
そんな薫くんの息の抜き方。
―――泣く、という行為
最初の頃は、突然泣き出した薫くんに俺も焦って「どないしたん?」と何度も何度もたずねたりしていた。
けれど薫くんはただ首を横に振るばかりで。
擦り寄ってくる身体を抱きしめることしか出来ひんかった。
何もしてやれない、気の利いた言葉1つもかけてやれない自分が、歯痒くて情けなくて。
地団駄ばかりを踏んでいた俺は、ある日薫くんが望んでたことを知った。
「抱きしめてくれるだけでええねん」
泣くことに理由なんてない。
ただたまりにたまったストレスや行き場のない想いが爆発して、それが涙になって流れるのだと。
だからただ黙って抱きしめている俺の傍にいると安心する、と薫くんは珍しくほろ酔い気分の中でぽつりと零した。
その一言が、どれだけ嬉しかったか。
きっと本人は気付いてなんていないのだろうけれど。
「泣きたいんやったら、泣いてええよ?」
ぎゅ、とその身体を背後から抱きしめながら、髪に鼻先を埋める。
少し顔を振り返らせて、俺の顔を見つめる薫くん。
よく見てみると、ほんのり顔が赤くて、目が潤んでいた。
「…っ、ダイ…」
薫くんは腕の中で体を反転させて、俺の胸に顔をあててくる。
しばらくして、嗚咽が聞こえてきた。
泣くのを我慢しているのか、時々ひっく、というくぐもった音が聞こえてきて。
細身の身体を抱きしめてやりながら、髪を撫でてやる。
たまにこうして起こる、薫くんの一種のスランプ。
普段はメンバーやファンには絶対に見せない弱さ。
彼の強がりがそうさせているんやろうけど、そんな状態がいつまでも続くわけがない。
いくら弱いところを出したくても、彼のプライドが許すわけもなく。
そんな薫くんが唯一本当の自分を出してくれる場所―――それが俺の腕の中。
無意識のうちでもいい。
俺の体温に安心して、俺の匂いに身を委ねてくれる、その無防備さが余計に俺の加護欲を煽ってるだなんて。
俺だけが知ってればええこと。
君が傷付いたら、俺が全部癒してあげる。
君のために、俺は存在してるんやから。
そのためなら、その綺麗な涙を見なかったことにくらい、いくらでもしてあげる。
流した涙の意味だって、無理矢理に聞き出したりしない、から。
だからほんの少しでいい。
弱音を吐いて。俺に、弱い自分をさらけ出してほしい。
「薫くん…」
ただ黙って抱きしめるだけの俺を、君が必要としてくれるなら。
END
むかーし書いてた話を加筆修正
意味なく泣き出すのは僕なんですが。苦笑
自分でも気付かないうちに蓄積されていく感情を、
泣くという行為によって浄化してるのかな、とたまに思います
ていうか連打で薫くんが泣き虫な話になってしまった(合鍵とは続いてないので悪しからず