赤い果実
「…れ?京くん何してんの?」
トシヤは濡れたステンレス製のボウルを抱えたまま、ひょいと寝室に顔をのぞかせた。
甘く乱れたシーツの上に、ころんと転がっていた恋人はそのままなのだけれど。
何故か締め切ってあったはずのカーテンが全開にされている。
遮るもののなくなった窓からは、少し気の早い夏の太陽光線が容赦なく降り注いでいて。
薄暗かった部屋が急に明るくなったのを見て、そういや今って昼なんだっけ、とトシヤは見当違いのことを考えながら寝室へ入った。
「何もっとん、それ」
何故かあえてベッドには座らず、ベッドサイドに腰を下ろしたトシヤの手元を、質問には全く答えずに京が
もそもそと匍匐前進の要領で動いて覗き込む。
濡れた銀色のボウルにいっぱいに詰め込まれた―――赤い、季節はずれな果実。
「もう苺って季節過ぎてんちゃうの?」
「んーまぁそうなんだけどね。何か久々に見たら食べたくなっちゃってさ」
はい、と。
口唇に押しつけられた、甘酸っぱい香りのする赤い実。
特に異議を唱えるでもなく、京は素直に口を開けてそれを招き入れた。
鮮やかな赤を飲み込んだ赤い口唇。
苺を摘んでいた自分の指の先端に甘く歯をたてられて、トシヤがふっと笑う。
「なんかやらしい」
思ったことをそのままに口に出すと、京はにんまりと笑った。
どうやらそれは、分かった上での行動だったらしい。
「んー…でもこれ酸っぱいわ」
もぐもぐと租借している様を黙って見つめていると、京が眉間に皺を寄せてそう呟いた。
「まぁ季節ずれてるからね…。でも京くん酸っぱいモノ好きじゃん」
カリカリ梅好物デショ?とトシヤが笑いながら、自分も赤い果実を口に入れる。
京の言った通り、それは甘さよりも酸っぱさが強調される、味で。
「ミルクでもかける?」
「や、別にこれはこれでえんちゃう?」
こくりと苺を飲み込んだ京が、そのままごろりと仰向けに寝転がった。
頭上には、ぱたぱたと乾いた音をたててカーテンが揺れている。
「暑くなるよ?」
容赦ない直射日光にトシヤは目を細めながら、持っていたボウルをベッドサイドに置いてベッドへ上がった。
「そんときはクーラーでも付けたらえんちゃう?」
「あー…もうそんな時期かぁ…」
くしゃくしゃになったシーツの上に、トシヤもごろりと寝転がって。
手を伸ばして京の身体を抱きしめる。
「…暑いねんけど」
すぐに返ってきた憮然とした声に、いいからいいから、とトシヤは笑って。
カーテンの向こう側の、抜けるような青い空を見つめた。
青いキャンバスに白い絵の具を刷毛でなぞったような、夏の空。
「もー夏だねー…」
「その割には全然季節はずれなモン食ってるけどな」
「ふ、まぁそうだけどさ。食べる?苺」
「食べる」
抱きしめていた腕を解いて、ボウルに手を伸ばす。
ふと思いついて、トシヤはそれを噛みしめない程度に口でくわえた。
「…めっちゃベタなんやけど」
眉間に皺を寄せた京に笑いかけて、そのまま苺を押しつける。
赤い果実に歯を立てた瞬間、果汁がぽたりと滴って。
赤い水が、つ、と白い首筋に流れたのを見て、トシヤが目を細めた。
「きょーくーん」
「何や」
こんな反応にももう慣れた。というより、これが照れ隠しであることを見抜けるようになった。
抱きしめた身体。
口では素っ気ないことを言いながら、わからない程度に自分のシャツが握りしめられていることにトシヤは気付かないほど鈍くもない。
でも口には出さない。こっそりと笑いを噛みしめてその首筋に顔を埋める。
京の首筋を滑り落ちた果汁を舌でなぞって、口付けて。
「ぅん……」
くすぐったそうに身を捩った京にクスリと笑いを零しながら、トシヤは抱きしめる腕に力を込めた。
「…暑いんやけど。トシヤ、ウザい」
その後、どうなったかは想像に容易く。
ヤってるときは従順で可愛かったのに、コトが終わればこの有様。
「いーじゃん。後からクーラーかけてあげるからさ」
「後からじゃなくて今すぐかけろ。ついでにアイスも取ってきて」
相変わらず素直じゃないなぁ、なんて。
思いながらも「はいはい」と言われた通りにクーラーのリモコンを探し出して、アイスを取りに行く自分も結構やられてんだろうな、と
トシヤは他人事のように考えて苦笑する。
人工的な涼しさで満たされた室内で、開けたままだったカーテンに手をかけて。
付けたテレビからは「今日は一年で一番昼が長い夏至の日です」のアナウンス。
へぇ、と思ってもう一度窓の外を見遣ると、確かにもう六時を過ぎようかというのにまだ外は明るい。
「なぁトシヤ、苺どーすんの」
アイスを食べて若干機嫌が良くなったのか、京が食べ終わったゴミを灰皿に投げ入れながら問いかけた。
「あぁ…忘れてた」
カーテンを引いて、ベッドサイドのボウルを手に取る。
すっかりぬるくなってしまった、赤い果実。
「苺ってさぁ、京くんに似てる」
「は?」
トシヤの言葉に京くんは何ゆーてんのお前、という顔をして。
そんな京にちょっと苦笑気味に微笑みながら、トシヤは赤い果実に歯をたてた。
やわらかな、甘酸っぱい果実。
それはほんの少し前まで溶け合っていた恋人に似ていて。
「変なトシヤ」
訳わからん、とベッドに転がった京を視線で追いながら。
トシヤはゆっくりと、残った果実を飲み込んだ。
END
何がどうなってこうなってしまったのか…汗
いや、ただ単に苺を食べて「グロテスクだね」ってトシヤに言わせたかっただけなのに…!!
何故かこんな展開に……しかもトシヤそんなことゆーてないし。苦笑
すいませんすいませ…(エンドレス