殺風景な彼の寝室に唯一存在する、装飾品

俺がこの家の配置を覚える前からずっとその場所にあったポスター



幾度となく交わした情事を黙って見つめている、蒼い月―――

 

Bird Cage
outside

 

唇を軽く吸われる感覚に身を寄せながら、ぼんやりと頭上に浮かんだ蒼い月を見ていた。
消したばかりの照明の名残を残すように夜光し、やがて闇と同化してしまう丸い月を。

「薫くん?」

意識が拡散しとった俺に気付いたんか、俺の体に跨ったダイが俺の名前を呼んだ。
ん?と視線だけを動かして其方の方向を見ると、不満げにダイが言葉を紡ぐ。

「何見てんの」

拗ねたような、口調。
思わずくすりと笑みを零し、ダイの首に回した手に力をこめてその体を引き寄せる。

ちゅ、と、唇を触れ合わせて。

「月」
「つき?」

口唇が触れあうぎりぎりの距離で囁くと、もう一度その唇を塞ぐ。
オウム返しのように俺の言葉を繰り返したダイの口内に、舌を滑り込ませて。
舌を絡め合わせる先程とは違った深い口付けに、俺は開いていた瞳を閉じた。

広がる暗い闇。
水の絡み合う、湿った音が聴覚を刺激する。

「…ン…ッ……」

細い吐息が、濡れた唇にかかった。

流れた唾液の跡を伝うように、ダイの唇が首筋へと滑り落ちて。
きゅ、と肩口のシャツを握りしめながら呼吸を押し殺していると、喉仏のすぐ下を強く吸い上げられた。

「ちょ…ッ、痕、見える……!!」
「ええやん…」

慌てて体を起こそうとした俺に、ダイは口角を上げて笑うと肩を押さえつけて。
いつもの癖で開けていたボタンシャツの隙間から、指先を滑り込ませてくる。

「よぉな…いっ、あ……ッ」

反論しようと開いた口から零れたのは、いつまで経っても聞き慣れへん自分の甲高い声。
ようやく声を出した俺に満足したのか、ダイは嬉しそうに笑うと
指先を絡めていた俺の突起をやんわりと刺激し始めた。
焦れったい愛撫やのに、すぐに反応を示し始める俺のカラダ。

「ココ、弱いよなぁ」

くすくすと笑いながらいつの間にかボタンを外し終えていたシャツをはだけさせ、ダイが
そこに触れるだけの口付けを落とした。

「ア……ンッ…!!」

わざとやろう、音を立てながら赤みを帯び始めた突起を啄まれて背が撓る。
もう片方の突起は指できゅっと引っ張られて。

「やぁ…だ……ッア…」
「やだって、もうこんなにしてんやん」

意地悪く言いながら、軽くソコに歯を立てるダイ。
歯の硬質な感触が敏感になっていたその部分に微かな痛みを走らせて、俺はぎゅっと瞳を閉じる。

「な、薫?」
「……!!」

ぴちゃ、と濡れた音を立ててソコに舌を這わせながら、もう片方の手でジーンズ越しに自身を撫で上げられて、俺はびくりと身を竦ませた。
ゆっくりと、留め具が外されて緩められたズボンの中に思わせぶりに入ってくるダイの手。
既に反応を見せ始めていた自身に指を絡められて、思わず息を飲む。

「もう濡れてきた。…わかる?」

窮屈なズボンの中でダイが手を動かす度に濡れた音がして、俺は羞恥にさっと頬を赤らめた。
自分の身体の変化なんて、見んでも十分すぎるほどに自覚していて。

そんな俺の瞼にダイは軽く口付けを落とし、一度中から手を抜き出すと
手際良くジーンズを下着ごと取り去ってしまう。
いくら室内が暗いとはいえど、全身を剥かれた俺と未だ服を着たままのダイに、
俺は居たたまれんくなって手元にあったシーツを手繰り寄せた。

「何してんの」
「服、脱げや…」

いつもなら強引にシーツだろうが何だろうが引き剥がすダイが、今日は声をかけてくるだけという事実に
拍子抜けしながらも、素直にそう口にすると。

「わかったから顔出してや」

そう、シーツ越しに声をかけられる。
てっきりシャツのボタンに手をかけて脱いでくれていると思いながら、そろそろとシーツから顔を出すと。

「ただし」

ぐぃ、と引っ張られてシーツを剥ぎ取られ、ベッドサイドに落とされて。

「薫イかせてからな」
「なっ…!?」

至近距離で囁かれた言葉に、俺は目を見開いた。
声をあげかけた俺の口をダイは自分のそれで塞いで黙らせると、ほったらかしにされとった俺自身に再び指を絡めてきて。
塞がれた口から零れるのは途切れ途切れな甘い喘ぎだけ。

「エエ声、聞かせて」

糸を引いたままで唇を離し、ダイは俺の下肢に顔を埋めた。
生暖かな感触に、思わず縋るものを欲して目の前の髪を握りしめる。
今度は焦らすこともなく、快感を煽るように追い上げてくるダイ。
行き場を無くした熱が身体を駆け巡って。

「…ッ、ア―――!!」

程なくして、俺はその口内で達してしまっていた。



まだ残滓を溢れさせている俺自身から蜜を掬い取り、ダイはそのまま奥へと指を滑り込ませて。
もう片方の手で自分の着ていたシャツのボタンを少々荒い手付きで外し、
脱いだシャツをばさりと後ろ側に放り投げた。
覆い被さられ、口付けられながらゆっくりと中に埋め込まれた指を動かされる。

「だ……ぃ…」
「もうちょっと、我慢して。な?」

何度受け入れても慣れへん気持ち悪さに、思わずダイの顔を見上げるとそう告げられて。
涙や汗や唾液でぐしゃぐしゃになっていた顔の至る所に、気を紛らせるかのように口付けてくれる。
黙ってダイの首に手を回すと、開いた片手でそっと抱き寄せられた。

「…平気そう?」
「ん…」

前立腺を刺激していた指は、いつの間にか数を増やして中をぐちゃぐちゃに動き回っていて。

「力、抜いて…」

引き抜かれた指と入れ替わりに、ダイが中に入り込んでくる。
指とは質量も熱さも違うソレが与える圧迫感に、俺は声を上げることも叶わぬままに吐息を飲み込んで。



全てを収めきってから、ダイが頭上で息を付いた。

「大丈夫か?薫」

前髪を掻き上げられ、ちゅ、と口付けを落とされて。
噛みしめていた口唇を親指でこじ開けられ、呼吸をするように促される。

優しいダイ。
同じ同性同士、ここまで来れば歯止めがほとんどきかんくなることくらいよく分かる。
にも関わらず、いつもダイは俺のことを気遣ってくれて。
今だって動き出したいのを我慢して、俺の中が馴染むのを待ってくれている。

「も…動いて……」

震える手を伸ばしてダイの背中を掻き抱き、その耳元で告げた。
ちゅ、と頬に口付けが落とされ、その言葉が合図だったかのように緩やかに動き出すダイ。
やがてそれは、徐々にスピードと勢いを増して。

「ごめっ、薫…。1回イかせて…ッ」
「アッ、ん…ダイ……っ!!」

激しく揺さぶられる感覚に耐えきれず、縋り付いていたダイの背に爪を立てる。
ぬくもりと、心音と、体温と、触れ合ってる全ての部分が同化したかのような錯覚。

ダイの熱が中でぶちまけられたのを感じた瞬間、俺もダイの手に絶頂の証を吐き出していた。



もちろんこの行為が1度で終わるはずもなく、ベッドの上での戯れは明け方近くまで繰り返された。
ダイは時折激しい抱き方をしながらも、後は俺の体を気遣うように穏やかに抱いてくれて。
だから、俺も嫌って言えんくなる。…もう、体が限界近いこともわかっとったのに。



窓の外が明るくなり始めた頃、限界近くまで貪り合った体をベッドに沈め、
俺はダイの腕枕に頭を乗せたままぼんやりと微睡んでいた。
俺たちを見下ろしていた蒼い月は、今はカーテンの隙間から入ってきた
オレンジ色の光に彩られて柔らかな印象を醸し出している。

「なぁ」
「ん?」
「今度ブラックライト買ぉてや」
「何で?」
「…あの蒼い月、最中も見てたい」

ぽつん、と言った俺に、ダイは身を起こすと。

「それは却下」

そう言って、先程まで吸っていた煙草の香りをさせながら唇に口付けてきた。

「なんで」

不満げに顔を見上げた俺に、ダイは僅かに笑うと。

「俺に夢中になってて欲しいから」

そんな恥ずかしい台詞を惜しげもなく吐く。

「今日やって、最初上の空やったやろ?」
「あ…」

バレてたんや、と俺が微かに笑って言うと。

「当たり前。薫くんの気ぃ引いてんのは俺だけで充分なの」

そんな聞き方によってはずいぶんと自分勝手な台詞を呟いて、ダイはそっと俺の口唇に口付けを落とす。

「…これ以上夢中にさせてどうするつもりやねん」

妖艶な笑みを浮かべてダイの顔を見上げた俺に、ダイは負けないくらい艶やかな笑みを浮かべると。

「もう二度と離れられんくしたるよ?片時も、な」

そう呟いて、きゅ、と指先を絡め合わせてきた。






見えない鎖

あからさまな束縛

そしてそこに自分の意志から繋がれた鳥が1匹



いつも籠の中からは、蒼い月が見えている
―――

 

END