甘い香りのする液体に ふたりで 溺れて
Bubble Bath Time
ぱしゃんと、水の跳ねる音が狭い空間に響き渡る。
肌を滑り落ちるのは、心地良い温度に保たれた甘い香りのする液体。
軌跡を描いて肌から零れた液体は、そのままふわふわとした石鹸の泡の中に溶ける。
水面に浮かぶ泡を掬い取って握りしめれば、くしゃりと乾いた音を立てて指の隙間から流れ落ちて。
わざと音を立てるように水面を叩いて、そのまま顔がつからない程度に身体を沈めた。
バスルームのドアを開けた途端、バスタブに溢れそうなほどになっていた泡。
何も知らんかった俺はその状態に驚き、飯の後片付けをしていたダイを慌てて呼び寄せた。
「な、何でこないなことなってんねん!?」
「んー?たまにはええやろ?トシヤにな、バブルバスの素もーてん」
「バブル…バス…?」
「つまるところ、泡風呂の素」
泡風呂の素て。そんなん自宅の風呂でしておもろいんか?
「まぁまぁ、気分転換やって。薫くん先入っときー。
俺片付け終わったらすぐ行くから」
鼻歌でも歌い出しそうな程に機嫌のええダイは、そう言って俺の頬にちゅっと口付けを落とすと、
そのままホンマに鼻歌を歌いながら台所へと戻って行った。
まさか湯を抜くわけにもいかず、残された俺はしぶしぶ服を脱ぎながらバスルームに入って
1人甘い匂いのする泡風呂に浸かってるわけやけど。
「…こんなん1人で入ったっておもろいわけないやろ…」
すぐ行くと行った割にはなかなか入ってこないダイに思わず悪態をつく。
蒸気に乗って、狭い空間を満たす甘い香り。
適度な湿度に、身体を覆う暖かな液体。
湯船の縁に腕を置き、そこに頭を乗せたままゆっくりと目を閉じる。
穏やかな時間は、ただ静かに身体の奥から眠気を呼び起こし始めて。
寝たら溺れる、と霞み始めた意識の隅で何度も警告を繰り返しながら。
そのまま意識はフェイドアウトして―――
「あーあーあー危ないって薫くん。溺れるで…」
遠くで声がする。
「ホンマにもう…」
剥き出しの肩に触れる、大きな手。
自分の身体に一番馴染んだその感触。
そのまま肩を掴まれたかと思うと、ぐいっと身体を端へ寄せられて。
薄く目を開けてぼんやりと前を見つめると、先程よりいくらか高い位置から見慣れた
自宅のバスルームの壁面が目に入った。
「…ダイ…?」
小さく呟いた名前。
それは思ったよりも大きな音となってこの空間に反響する。
「ん?起きた?」
自分の背後…というよりも下から聞こえた声に、違和感を覚えながら振り返れば
そこにはダイの姿。
「あかんって、風呂で寝たら。溺れるで?」
浮かせた身体を腹の辺りに回された手で抱き寄せられ、ぱたりと背を倒せば
背中がダイの胸と密着して。
別段今更驚く程のこともないそんな体勢に、俺も力を抜いてダイの身体に自分の身体を預けた。
「いつ入ってったん…」
湯船の縁に這わされたダイの手に自分の手を重ね合わせながら問いかけると、
さっき、と後ろから耳朶を食まれて。
「…っ、ちょ…」
「薫くんと泡風呂やーってめっちゃ楽しみやったのに、薫くん寝てるし」
「それはお前が遅いか、ら…やろ、ちょ、やめ…っ」
水面下の視界を遮る、白いふわふわしたバブル。
肌をなぞるダイの手。
動くたびに身体を包み込む暖かな液体が揺れ動いて。
「洗ってるだけやで…?」
明らかにおもしろがってるであろう声音でダイが囁く。
「気持ちええんや、薫…」
「ッ!!」
指先が、一番の性感帯に辿り着いて。
焦らすような手付きで、ソコの形をなぞられる。
「ダ、イ…っ…!」
反響する、自分の声。
いつもの寝室で聞く声よりも、もっと甘く、濡れて響いて。
「いや、やぁッ……」
「イヤ、なん…?」
ちゃぷちゃぷと、水面が揺れる。
直接剥き出しの性感帯に触れられているにも関わらず、感じるこのもどかしさは
身体を包み込んでるのが大気じゃなくて液体やからか。
「薫…?」
重ね合わせていた手をやんわり解かれ、水面下に沈んだかと思えばそのまま胸元をなぞられて。
「は……アッ…」
ぷつりと尖った胸の先端を抓られて、思わず背を仰け反らせる。
ダイの肩口に後頭部を預ければ、すかさず口唇を塞がれて。
「最後までする?」
鼻先が擦れ合うような位置で、ダイが囁く。
背中に感じる、身体を包み込む液体よりも熱いその物体は言わずともがなで。
気怠げに腕を持ち上げて、ダイの後頭部を引き寄せて口唇を塞ぐ。
貪るように口付け合えば、くちゅりと濡れた音が響いて。
赤い舌をのぞかせたままで口唇を浮かせれば、ソコを透明な糸が繋いでいる。
「…ええの?」
「………今更」
短い俺の返答を聞いた瞬間、ダイの手は忙しなく動き出して、
確実に俺の快感を揺り起こし始めた。
「っ、ア…ッ」
聞き慣れない甲高い嬌声が絶えず響き渡る。
「や、ぁ……ダイぃ………」
背中に感じる熱は確かな情欲を表しているというのに、
ダイはただただ焦らすばかりで。
湯の中ということもあってか、もどかしさばかりが募る身体は
正直拷問に近い。
決定打を与えられないままに緩く与えられ続ける快感は、
甘美な毒にも似て。
「ダ、イ…!!」
湯船に肘をついて、ともすれば沈み込んでしまいそうな身体を支えながら振り返る。
至近距離、甘く濡れた凶悪な瞳と目があって。
視線が絡んだ瞬間、その目が細められてダイの口唇に意地悪そうな笑みが浮かんだ。
「何?薫」
明らかに。
解っていて問いかけてくるのであろう、その言葉。
それを如実に示すかの如く、ダイの手は先程から答えを促そうとしてるみたいに
俺の胎内に突き入れてた指をやや乱暴に動かしてきて。
「何、って、おまえ…!」
わかってんやろ、という俺の言葉は、紡がれる前に嬌声に消える。
これ以上焦らされるのも、これ以上曖昧な快感を与えられるのも、もう限界で。
「も……はよ…ッ」
ちゃぷん、と湯船の中に手を落とし、感じさせるだけで与えられないその熱を手にかける。
浮力も手伝ってか、軽い身体を反転させてその身体に跨って。
俺の行動に目を見開いたまま固まってるダイの口唇に噛み付くような口付けを落とし、
既に受け入れる準備の整っていたソコに掴んだ熱を宛った。
「―――ッ」
一息ついて、強引に身体を落とす。
入り込んでいた湯を押しのけるようにして、侵入してくる熱。
貪欲にダイを求めるソコが、物欲しそうに疼いて。
「っは、ぅ……」
先程は手助けをしてくれていた浮力は、今は邪魔。
沈み込もうとする身体を押し返してくる力に、俺は助けを求めるようにダイを見つめた。
「…痛いんちゃうん?」
耳元で囁かれる言葉。
熱い吐息ですら、快感を持て余した身体には強い刺激になって。
ふるりと首を振りながら、ダイの身体にしがみつく。
「は、やく…」
小刻みに震える身体は、ただただダイを欲して。
「力、抜きや」
そう言われたと同時に、強く腰を抱かれ、ぐっと突き入れられる。
「ん―――ッ」
あがりかけた嬌声だか悲鳴だかわらかへん声を、ダイの肩口に歯を立てることで飲み込んで。
そのまま身体に馴染むのも待たずに動き出したダイに、俺はただ翻弄されるがまま。
ようやく与えられた強い快感に、理性も羞恥心もかなぐり捨てて縋り付き、やがて果てた。
「…気ぃ付いた?」
意識が重い。
まだ鮮明にならへん思考回路のまま、俺はぼんやりと目の前に広がる壁面を見つめた。
つるりとした、白っぽい色のタイル。
―――ここは、一体…
重たい意識とは対照的に、妙に軽い身体を不思議に思い、視線を落とせば
微かに濁ったぬるい液体が身体を包み込んでいて。
自分の腹の上に置かれたその手を辿って、少し首を捩ればそこにはダイの心配そうに苦笑する顔が。
ようやく、朧気ながらに自分の置かれた状況を悟った。
「俺…」
「久々やな、薫くんが意識飛ばすん」
先回りするように告げられた言葉に、やっぱりか、と思いながら気怠さに包まれたままの身体をダイに預ける。
白いバブルはすっかりその姿を消しており、微かにとろみのついた湯の中に儚く紛れていた。
「ホンマにお前は…しょーもないことばっかり考えよって…」
溜息と共についた悪態に、ダイはと言えば
「そういう薫くんもノリノリやったやん」
なんぞと、黙ってれば男前な表情をニタァとイヤらしいスケベ親父の笑いに変えながらのたまいよって。
「…うっさい」
「お、図星?」
「それ以上いらんこと言いよったら殴るで」
「はいはい」
くく、と笑いながらダイが俺の身体を抱き寄せる。
暖かな液体越しに感じる、その感触。
他のどんな人間よりも馴染んだそのぬくもりに、ただじんわりと安心感が沸き上がって。
再び押し寄せてくるとろりとした甘い睡魔に、今の俺には抗う術もなく。
「薫くん?寝たらあかんで」
心地良い、ダイの声を遠くに聞きながら。
俺はゆっくりと、甘い夢の中に意識を落としていった。
END