アネモネ

 

濡れた音だけが、ただ静かに響く空間。
俺の足元にしゃがみこんだ、シンヤの肉付きの薄い身体を見つめる。
白い肢体が淡いランプに照らされて、細い肢体に余計に儚さを醸し出す。
さらさらの髪が、頭が上下するたびにぱさぱさと揺れた。

「きょ…く、ん…」

小さい口が俺のソレから離されて、シンヤの口元と幾筋も銀糸をつなぐ。
指先で口唇をなぞってやると、ぺろりとやわらかな舌でなぞられた。

「きょーくん…」

首に手を回されて。
引き寄せられるがままに、シンヤの身体に覆いかぶさる。

「…ええの?」
「今更」

最終確認も兼ねて問い掛けた言葉に、シンヤは妖艶に笑って。
重ねられる、口唇。

「ん……」

誘ってきたわりには逃げる舌を追って、口内を掻き回す。
かつん、と硬質な歯がぶつかりあう感触。
それすら気にも止めずに。
探り当てた舌を絡めて、吸い上げる。

「きょ……ぅ…」

背中に回された細い腕が震えて。
縋りつくように力がこめられた。

あぁ、何だかんだ強気なフリしながらほんまはこわいんやん。

そう思って。
ふっと笑いながら、シンヤの身体を掻き抱く。

ほんまに、素直やないんやな。

「…なん?」

は、と息をつきながらシンヤが訝しげにこちらを見つめた。

「何もないで」

そう言って、それ以上シンヤが言葉を紡ぐ前にその喉元に舌を這わせる。
途端に息を呑む細い肢体。

こわいんなら虚勢なんかはらんでええのに。
同性が初心者なのはお互い様やねんから、慣れたフリされる方がビビるわ。

シーツの海に溺れた、過敏に反応を返してくる身体を見つめながらそんなことを思う。

「シンヤ…」
「んっ……」

赤い髪が、顔を隠す。
掻き上げると、瞳が光に反射してきらりと光った。

「こわいんちゃうん」

額に口付けながら、問い掛ける。
俺の言葉に、唇を噛みしめてふるふると首を横に振るシンヤ。

「そんな泣きそうな顔しとんのに?」

頬に手を添えて、親指で一筋流れた涙の軌跡を辿ってやると。
ぐい、と細い腕で抱き寄せられて。

「京くんのモノに…なりたいんやもん……」

耳元で囁かれた言葉。
涙声で紡がれたその言葉に、痛いくらいシンヤの気持ちが伝わってくる。

「…好きやで」

それ以外の言葉が見付からずに、身体を抱き寄せながら頬に口付けを落とした。

「僕も…っ、好き…」

抱きついてくる薄い身体。

一番末っ子で、みんなから可愛がられとって。
でも、そんな争奪戦の末にシンヤが選んでくれたのは何故か俺やった。
やさしくて頼りがいのある薫くんでもなく、構いたがりのダイくんでもなく、好きオーラ全開のトシヤでもなく、
たぶん一番素っ気なかった、俺。

正直、シンヤは何でこんな偏屈をあえて選んだのか、自分で言うのもなんやけど理解しがたい。
そりゃもちろん大事にする。
幸せにしたりたいとも思う。



でも、ほんまに俺でええの
―――



「京くんじゃないと嫌や」
「え?」

一瞬、考えていたことがそのまま口に出てたんかと思った。

「俺は薫くんでもダイくんでもトシヤでもなく、京くんがええ」
「…シンヤ…」
「京くんは?やっぱ俺なんか抱くの嫌?」

ぎゅっと、肩口で握りしめられた手に力がこもる。
泣きそうな顔で、こちらを見つめるその唇に、そっとキスを落として。

「…俺も、お前じゃないと嫌や」

抱きしめる。
こんなに大事にしたいのも、大切やと思うのも、みんなシンヤやから、や。

「京くん…」
「俺のモノに、なってくれるんやろ?」

身体を組み敷きながら、耳元で囁く。
シンヤは瞬間ふんわりと笑って。

やがて、こくんと頷いた。



「は…っ、きょ……」

身体のあちこちに唇を落として。
時折赤い所有印を刻み込む。
自分のものだと主張する印をつける優越感。
鮮やかに咲き乱れて。

脇腹に口付けを落としながら、穿いたままだったジーパンに手をかける。
ベルトを引き抜けばウエストは既にゆるゆるで。
ボタンを外して中に手を差し入れると、びくんとその身体が大きく波打った。

「きょ…ぉッ!」

途端にその口をついて出る甘い嬌声。
普段は意外にも低いシンヤの声が、やけに甲高くて。
ぞくり、と何かが背中に走り抜けるのを感じた。
その声に煽られるようにして、手の中におさめたシンヤをゆっくりとなぞりあげる。

「ア、アァッ、きょ…くん……」

首に回された手に、力が込められて。
噛み殺せない声が気になるのか、シンヤはそのまま俺の頭を引き寄せて口付けてきた。

「…んぅ……」

あわせた口唇の間から、零れる鼻にかかった声がやけに色っぽい。

「シンヤ…」

口唇を離すと、幾筋もの銀糸がお互いを繋いでいた。

「好きやで」
「うん…っ」

震える手で、頭を抱きしめられる。

こわいくせに、愛されている証拠が欲しくて身体を開いたシンヤ。
そんなシンヤの不器用さが、どうしようもなく可愛くて、愛おしい。

お前が不安に思うことなんて、何ひとつない。
不安に思うたびに、俺が消していったるから。

「シンヤ…」

繰り返し、名前を呼んで。
その身体を掻き抱く。

大丈夫や。
俺は、お前が嫌って言っても離したりせぇへん。

「京くんっ…」

だから、泣かんといて。
お前の笑った顔が見たい。

ぱらりと零れた涙を親指で拭って、目蓋の上から口付ける。
薄く開いたそこからのぞいた瞳は、まだ潤んではいるけれど。
ほんの少し、シンヤが笑ったから。
そこに自分の姿を見ながら、ゆっくりと口付ける。
しょっぱいキスの味にまた二人で笑って。

互いに一糸纏わぬ姿になって、再びその肢体をベッドに沈み込ませる。
絡み付いてくる細い腕。
中途半端に煽って放りっぱなしだったシンヤを手で覆って緩く扱いてやると、んっと鼻に抜けた声が零れた。
そんなシンヤの顔を見つめたままで、手の動きを早めていく。
甘く、快楽に浸るうっとりとした表情に、俺自身も煽られるのを感じて。
半開きになった口唇にちゅっと触れるだけの口付けを落とすと、シンヤ自身を解放に向かって扱きあげていく。
自分以外のモノを触るのなんて勿論初めてやったけど。
同性同士ってこともあってか、やっぱりツボは似ているものらしい。
俺の手に追いやられるがままに、シンヤは絶頂への階段を駆け上がっていった。



肩で息をついているシンヤの頬に口付けを落とす。
ここからが問題で。
まさか女と同じように抱くわけにもいかへんし、さてどうしたものか、と悩んでいると。
シンヤが、小さい声で俺の名前を呼んだ。

「カバンの中に、必要やと思うもの入ってるから…」

必要やと思うもの?

首を傾げつつも、手を拭って放りっぱなしになっていたシンヤのカバンを漁る。
中から出てきたのは…ゴムと、潤滑剤。

「…用意しといてくれたんや?」

覆いかぶさりながら問い掛けると、顔を赤くして視線をあわせようとせぇへんシンヤがこくりと頷いて。

「必要やって…聞いたし…」
「誰に?」
「…トシヤ」
「はぁ?何で?」
「必要だヨ、とか何とかって…」

その口から飛び出した名前に、眉をひそめる。
ったく、アイツ余計なことばっかり吹き込みよって。
今度いっぺんしめとかなあかんわ。

頭の中で蟹腹マッチョにいろいろと悪態をつきつつ、手にした潤滑剤の蓋を捻る。
その手のアイテムにしてはわりと普通に見えるロゴにデザイン。
まぁこれくらいなら買えるか、と思いながら中に指を突っ込む。
昔遊んどった頃に女と使ったローションを連想したけど、それよりもっと粘度が濃くて。
ねちねちと音をたてながら、指と指の間を糸が引く。

「…すごいな、コレ」

思わず声に出すと、シンヤが顔を赤らめながらうん、と頷いた。
蓋を開けたままの状態でベッドサイドに潤滑剤を置くと、ちゅ、とシンヤに口付けを落として。
ゆっくりと後ろを探る。

「……っ…」

途端に息をつめるシンヤの気を少しでも逸らすように、頬や鼻、額や口唇に何度も口付けを降らせて。
あやすように胸や脇腹にも唇を滑らせながら、慎重に一本、指を差し入れる。

「…ッ……」

く、と息をつめるシンヤ。

「大丈夫か…?」

気持ち悪いんやったらやめようかと手を止めかけた俺に、シンヤはふるふると首を横に振って。

「や、めんとって…」

俺の身体を引き寄せて、途切れ途切れにそう告げる。
痛い思いとか、つらい思いはさせたくないんやけど。
俺はシンヤが欲しい。
そしてシンヤも、この行為を望んでくれていて。
その想いが、痛いくらいにわかるから。

「ほんまに、大丈夫なんやな?」

問い掛ける。
こくりと、頷くシンヤ。

「わかった」

なら絶対最後までする。
お前を、俺のモノにするから。

止めていた手の動きを再開させる。
男でも感じる場所があるらしい。
以前に聞いたそんな話を思い出しながら、シンヤの中を傷付けへんように慎重に探っていく。
潤滑剤を足しながら、指を増やして。
ゆっくりと初めて受け入れるソコを解きほぐしていく。
初めてやから、感じるとかそこまでは無理かもしれへんけど。
せめて痛い思いだけはさせんように。
そんなことを考えて暴走しそうになる理性を取り押さえながら、シンヤの身体を開いていく。
細い肢体は、やっぱり細部までそう出来ているらしい。
途方も無い時間をかけてほぐしているソコも、俺の指を3本くわえこむのが精一杯という感じで。

「っあ、きょ…く…」

先程見つけた、所謂前立腺に指を滑らせながら、ソコを押し開いてゆく。
甘い吐息を零しながら、身体を震わせているシンヤ。
萎えていたシンヤ自身が少しずつ回復してきて、あぁ感じてくれてるんや、って思って少しほっとした。

「もう、ええ?」

指をスライドさせながら、囁く。
ここまでもったのがほんま奇跡に近いかもしれへん。
よう頑張った、俺の忍耐力。

俺の言葉に、シンヤは閉じていた瞳を薄く開けて。
小さく頷く。
長い睫毛が瞳が伏せられる瞬間に微かに震えた。

「シンヤ…」

口付けを落としながら、脚を広げる。
膝裏に手をかけて持ち上げ、さっきまで解していたソコに既に熱をもった自身を押し宛てて。
ひく、と引きつったシンヤの喉仏に口付けを落として、ぐっと中に入り込む。

「………ッ…!」
「…っう…」

先端を埋め込んだ状態で。
あまりの締め付けに、思わず息をつめる。
シンヤも相当痛いのか、白くなるほどに口唇を噛み締めていて。

「し、んやっ…息、吐けっ」

持ち上げていた脚を下ろしながら声をかける。

「…ぇ…」

潤んだ虚ろな瞳を彷徨わせるシンヤ。
噛み締めていた口唇を舌で抉じ開けて、止めていた呼吸を再開させる。

「息吸って、吐いて…」

それを繰り返して。
息が抜けた瞬間を見計らって、身体を進める。
潤滑剤のおかげもあってか、思った以上に突き入れてしまったらしい。
苦痛の色を示すシンヤに、これ以上進めるのは無理や、と動くのを止めた。

「…?きょー…?」

動きを止めた俺を不審に思ってか、シンヤが閉じていた瞳を開いてこちらを見る。

「入ったで?」

全部じゃないけど。嘘は言ってない。

しかし、シンヤはふるふると首を横に振って。

「嘘や」

そう、きっぱりと言い放つ。

「これ以上したらお前壊れてまうかもしれんから」

やからもうちょっと慣れてからにしよな?と言う俺の言葉に耳を貸さず、シンヤは腰に回した脚で強引に俺の身体を抱き寄せた。

「シン、ヤ…!」
「っう……」

顔を苦痛に歪めて。
強引に俺を身体におさめたシンヤ。

痛みのあまりか、身体は小さく震えていて。
冷や汗なのだろう、額から幾筋も汗が流れる。

「このアホ…!」

無茶ばっかりしよって。
そう言ってシンヤの頭を軽く叩くと、苦しげな吐息交じりにシンヤが笑う。

「これで、俺京くんのモノになった?」

自分の苦痛も顧みずに、直向きに俺のことを想う純粋さ。
ほんまにもう…お前にはびっくりやわ、シンヤ。

「あぁ。俺のモノやで」

その身体に所有印を押すよりも何よりも、独占したと思うこの気持ち。
これ以上煽ったりしたら、ほんまにどっか閉じ込めて人目に晒さんようにしてまうで?

そんなことを考えながら、埋めた白い首筋に所有印を残す。

「京くん…」

は、と息をつきながらシンヤがうれしそうに笑う。
そんなシンヤの頬にちゅ、と口付けを落としながら。

「俺もお前のモンやで」

囁く。
愛とか恋とか、そんなものよりもっと強い強烈な呪文を。

うれしそうに微笑んでいたはずのシンヤの顔が、みるみるうちに潤んで。
ぽろりと、新しい涙が頬に零れ落ちる。

「…泣き虫やなぁ、シンヤ」

零れた水滴を舐めとりながら呟くと、シンヤが

「京くんの前だけやもん…」

そう言って抱きついてくる。
最高の殺し文句やな、それ。

いつもどんなにくやしくても人前では泣かないシンヤの、涙でぐしゃぐしゃの顔がめちゃくちゃ可愛い。



それから。
溶かしあった体温を、さらに融合させるように身体を重ねあって。
さすがに一緒にイくことは出来んくて、俺はシンヤの中でイかせてもらい、シンヤは後から口で抜いてやった。
今日は無理やったけど、いつか二人でイけるようになったらええな。
そんなことを思いながら、つながりを解いてベッドに身体を転がす。
広げた腕に、ころりと頭を乗せてくるシンヤ。
その瞳に、もう翳りは見えへんかった。

あぁ、伝わったんやって。
そう思うとなんか嬉しくなる。

「シンヤ」

赤い髪を梳いて。
ちゅ、と口付けを落とすと、おとなしく受け入れるシンヤ。

「好きやで」
「僕も」

視線を絡み合わせたままで笑って。
身体を抱きしめた。



身体だけじゃなく、気持ちだけでもなく、俺たちの『好き』は成り立っていて。
そのどっちかが欠けてもあかんのやと思う。
たぶんどっちもが必要不可欠で。

傍にいて、手を伸ばして、触れて、確かめて。
そんなことの繰り返しなんかもしれへんけど。
そこがお互いの拠り所なんやったら、ええんちゃうかなぁ。
もっとシンヤの笑う顔が見れるんなら。



周りから見たらひどく稚拙な恋愛をしてるんかもしれへんけど。
これが俺たちのやり方で。

お互いが繋がっとったら、不安に思うことなんてない。

 

END

 

初京心
まさか最初からやっちゃうとは思いませんでした(計画性皆無
おそらく書きたかったんだと思います、たぶん
携帯に4000文字くらい打って放置してあったのを最後まで書いてみました
なんかね、シンヤは京くんには素直に甘えてそうなイメージがある
僕の中では、堕威薫夫婦は一緒にいるだけで結構分かり合える部分があると思うんですよ
そりゃもちろんお互いを必要としてて、求め合ってるのには違いないんやろうけど
いちいち言葉にしたりせんでも、自然と寄り添える関係っていうんかな
でも、京心はもっとお互いを求め合って求め合って、っていう刹那的な部分があると思う
それで安心感を得るっていうか 何か、うまく言えないですけど。苦笑
最後の3行は、そういうことが言いたかったんです