高い背丈に、広い肩幅

いつもは人懐っこい光を宿した瞳が、降ろされた前髪に隠されて

その顔に浮かべられたシニカルな表情は、嫌味なほどによく似合っている

おそらく何の思惑もなく着こなしているのであろうシンプルなスーツと、その目元を覆う眼鏡に

ただ、言葉もなく

目を、奪われた

 

Love Addict

 

都内有数の、某有名ホテルの1室。
普段は足を踏み入れるどころかお目にかかることすらないと思われる場所に、俺とダイは宿泊していた。
『仕事』という名の、少々畏まったパーティらしきものに出席するために。

「あー…しんど…」

宛われた部屋に戻るなり、置いてあったソファにどさりと身体を沈み込ませる。
やはり高いだけあって調度品も価値あるものらしい。
音もなく身体を受け止めたソファの感触に身を委ねたまま視線を上げると、一緒に部屋に戻ってきたダイが
ネクタイを緩めながらユニットバスへと姿を消すのが見えた。

何をしたわけでもないが、やはりかたっくるしい場所では息が詰まる。
加えて、場所にそぐうようにきっちりと着込んだスーツ。
息苦しさはさらに倍増せざるを得んくて。

先程ダイがそうしていたようにネクタイの結び目に手をかけながら、片手で煙草を取り出して火を付ける。
行儀が悪いと思いながらも、靴を脱いで目の前の机に足を乗せて。
ソファの背に頭を預けて、ぼんやりと紫煙が立ち上っていくのを視線で追っていると、
がちゃりとドアの開閉音がした。

「えらいくつろいでんやん」

ダイの声に視線だけを動かすと、最近ようやく慣れた眼鏡姿があって。

「あぁ、コンタクト外してたんや?」

ダイの座るスペースを空けるように身体を起こしながらそうたずねると、
煙草を銜えながらダイがこくりと頷いた。

「何や調子悪かってなぁ、目痛かってん」
「そうなんや?」
「ゴミ入ったみたいでな。はよ外したかってん」

なるほど、言われてみればダイの片目は赤く充血していて。
その瞳にうつった自分の顔を何とはなしに見ていると、ふ、と顔が近付けられた。

顔が触れ合う寸前で。
じ、と煙草の先端が触れ合う。
微妙な距離感に、訳もなく鼓動が早まったのが自分でもはっきりとわかった。

黒を基調に仕立てられた、シンプルなスーツ。
伸びた赤くてさらさらした感触の髪は、綺麗にその肩を流れていて。
少し緩められたネクタイ。シャツの隙間からのぞく、白い肌。
ようやく見慣れたはずの、その、眼鏡姿
―――

ばくばくと脈打ち始めた心臓の上のシャツを、ぎゅっと握りしめる。
こんなことで動揺してる自分が情けなくて。
落ち着け、と自分自身に言い聞かせてみるものの、隣りに座ったダイから視線を逸らすことが出来ずに。

ただ、言葉もなく。

「…薫?」

目を、奪われた。



「どないしたん?」

するり、と頬を撫でられて。
びく、と大袈裟に身体が震えた。
そんな俺の反応に、ダイですら目を見開いて固まっている。

「え、や、何でもない、ねん!!」

慌てたように取り繕って。
着替えるわ、と最もらしい言い訳を口にして立ち上がろうとした俺の手を、ダイが掴んだ。

「何でもない、ん?」

下から、見上げるように。
ダイが口角を上げて微笑む。
…シニカルと言う言葉がぴったりの、その表情。
かぁ、と頬が紅潮していくのがわかった。



付き合い始めて3ヶ月。
それまでもツアーやら何やらで一緒に夜を越すことは幾度となくあったし、プラトニックな関係はとっくに通り越した。
それでもダイが眼鏡をかけてる姿ってのはあんまり見たことがなくて。
サングラスとはまた違った印象を与えるその姿を初めて見たとき、思いがけず動揺したのを今でもよく覚えてる。

それと言うのも。
夜は夜で、散々良いようにされて喘がされて(何やこの言い方めっちゃこっ恥ずかしい…)
情けない話やけどほとんど意識を陥落させられてて。
朝は朝で、低血圧な俺は目覚めが悪い。(しかも睡眠時間と体力を削られて尚更)
対するダイは、俺の意識が眠りと微睡みの中で揺れてる間にはっきりした意識の中でコンタクトを外してるし、
夜中そんだけ元気やった割に目覚めも良くて、俺が起こされる頃には眼鏡はすっかりコンタクトに変えられてる。
何や理不尽極まりないけどこれが現実やから仕方ない。
それでもそんなダイですら先日仕事の疲れにより(夜の営みのせいじゃないことだけは強調しておく)
コンタクトを入れたままで寝てしまうと言う失態を犯した。
裸眼で充分生活出来る俺からしたら想像もつかへんけど、いろいろ大変やったみたいで
それからは家に帰れば早いうちにコンタクトを外すようにしているらしい。
ダイの眼鏡姿をちょこちょこ見かけるようになったのはそれから。
あんまり普段人前で見せへんそんな姿を特に意識もせずに見せてくれるということに、
ちょっとした優越感を抱いてるのは内緒の話で。

でも、そんな感情を全部抜いても。
掛け値なしに、ダイの眼鏡をかけてる姿はたまに見惚れてしまうことがあって。
悔しいから絶対にそんなこと口に出さへんけど、俺は結構―――その姿が好きやったりする。



そんな、眼鏡をかけたダイが。普段は着ない、かちっとしたスーツに身を包んで。
人懐っこい光とは別の―――肉食獣が獲物を狙う時にも似た光を宿して俺に微笑みかけている。
本能的に危険を察知する、けれど。
気が付いたときには既に遅し。

「薫?」

抱き込まれた腕の中。
ぴちゃり、と濡れた音が耳元で響いて、思わず肩を竦めた。

「目ぇ開けて」

指先で閉じた目の目尻をなぞられ、恐る恐る瞳を開けば。
艶やかに微笑むダイの顔が目の前にあって。

―――ッ」

言葉もなく。
ただ、目を奪われた。

思わず目を逸らそうと顔を背けるが、ダイの手はそれを許してくれずに。
視線を合わせたまま、ダイが口角を上げて笑う。

「眼鏡、好き?」
―――っ」
「いつもより見られてると思って、興奮する?」
「ゃ、ぁ…ッ」



意地の悪い、そんな言葉にすら、煽られて。



「っ、あ、ダイ……ッ」

オレンジ色の光が微かに照らし出す闇の中に、籠もる熱気。
素肌をさらさらした感触のシーツが滑る。
それがシルクだと気付く余裕は、今の俺にはなくて。

「ん…?気持ちいい…?」

ほとんど全裸に近い俺に対して、ダイはまだシャツもネクタイもしたままの状態。
辛うじてジャケットだけは脱いでいるが、それだけではとてもじゃないけど居たたまれなくて。



刺すような視線が、痛い。



ただ、レンズ越しに。
見られてるだけやのに、勝手に身体が疼いて。

「も、いや、やぁ…っ」

嗚咽にも似た声を上げる。
身体をなぞる指先が、熱い。

「嫌、なん?」

く、と喉の奥で笑いながら、ダイが胸元に顔を寄せた。
勃ちあがっていた突起にふっと濡れた吐息をかけられ、それだけで身体が震える。
のぞかせた舌で、ぺろりとそこをなぞられて。

「っく…」

思わず手の甲を口元に押し当て、漏れ出る嬌声を飲み込んだ。

「薫」

いっそ卑怯な程に、甘く掠れたハスキーヴォイス。
その声が、名前を紡いで。

「っ」

押し当てた掌越しに、キス。
のぞかせた舌で掌をなぞられ、やわらかで熱い感触に思わず口元から手が滑り落ちた。
すかさず塞がれる、口唇。

「んんっ……ふ…」

入り込んできた舌に、強引に咥内を掻き回されて。
甘く蹂躙される。
吐息すら奪っていく口付けに、ただ翻弄されて。

「可愛い」

口付けから解放されて、肩で息をつく俺の耳元に落とされる言葉。
コンタクトが眼鏡に変わっただけ。たったそれだけやのに。

―――見られてる

そう思うともう、止まらなくなった。



ぐちゅぐちゅと濡れた音が絶えず響き渡る。
それがどこから聞こえる音か、想像しただけでも身体は熱くなって。
ダイにしっかり抱き留められ、身体を押さえつけられたままでソコを犯される。

「んぅ…っ、ふ……ぁっ」

白くて長い指が、胎内で蠢いて。
時折悪戯に深く突き入れられる。

「あぁ…ッ」

突っぱねようとダイの腕を掴んでいた手は、いつの間にか縋るように添えられている状態で。
固く目を瞑ってもわかる、ダイの視線。
頭上から、じっと。瞬きすることすらなく、顔を見られている。

「これでイく?」
「ひぁッ!!」

そんな意地の悪い言葉と共に、ぐっと前立腺を押さえられて、びくりと身体が跳ね上がった。
衝撃で薄く目が開いて、ダイと視線が絡む。
わざと目を合わせたまま、のぞかせた舌でぺろりと自身の口唇を舐めるダイ。
にぃ、と微笑むその顔は、はっとするほど扇情的で。

「見して。どんな顔してイくか」
「え、や、ダイ…ッ!!」

そう囁かれたかと思うと、中にくぐもらせてあった指がソコを擦りあげて。

「ぅ、あっ、アァッ…!!」

その強い視線と、意地の悪い言葉と、悪戯に蠢く指で。
イく寸前で手を引かれた自身が、簡単に蜜を吹き出したのがわかった。



「ダイっ、や、も、無理…!」
「まだまだやで?薫…」

ネクタイで縛り上げられた腕を押さえつけられ、寝転がった状態で横から突き入れられて。

「ふぁ、んっく…」

片手で腰を抱き寄せられ、深く穿たれる。
そのまま開いた片手で足を大きく開かされて。

「ひぁ…ッ!!」

ほとんど軋む音のしないベッドの上で、ダイの欲望のままに貪られる。
濡れた水音と、肌がぶつかりあう音と、忙しない吐息だけが響き渡って。

「ほら、まだイけそうやん…?」

広げた足を器用に腕で押さえつけ、ダイがまた蜜を溢れさせようとしていた俺自身に手をかける。
ぐちゅ、と濡れた音をたててソコを扱かれ、否応なしに射精へと導かれて。

「ふぁっ、あ、アァァ―――ッ」

信じられないほど甘い吐息と共に、蜜を吐き出す。
瞬間強張った肩に、がつんと硬質な感触があたって。

「っ、邪魔」

小さな舌打ちと共に、かちゃ、と聞き慣れない音が響く。
ベッドに投げ出された、先程までダイがかけていた眼鏡。
くしゃくしゃに乱れたシルクのシーツの海に、音もなく沈み込む。

「薫、こっち向いて」

まだ中に入り込んだままの体勢で、ダイに後頭部を掴まれ口付けられた。
眼鏡を外したダイの素顔。それでも、その目の焦点はきっちりと結ばれたままで。

「顔、見せてな」
「えっ、あ、ぅん…ッ!?」

繋がったままの状態で体勢だけを変えられ、正常位に持ち込まれて。
再び深く穿たれ、思わず背が仰け反る。
顔を覆いたくても、縛られたままの腕ではどうすることも出来ずに。
少しずつ早まっていく抽挿のスピードに身を委ねたまま、焦点の合わない瞳を彷徨わせる。
鼻先に、ダイの吐息が当たって。

「薫…ッ」

切羽詰まったような声に名前を紡がれ、どくんと鼓動が跳ね上がった。

「ダ、イ……」

首に手を回し、襲いかかってくる快感の波に抗うこともなく、身を委ねて。
身体の奥で熱い憤りが迸るのを、薄れていく意識の中でぼんやりと感じていた。





「…る。薫、そろそろ起きぃ」

肩を揺さぶられる感覚で目が覚めた。
まだぼんやりと微睡む意識の中で、最初に目にしたのはいつも通りのダイの姿。
さすがにTシャツとジーンズとまではいかなかったが、昨日に比べたら随分ラフな格好で。

「チェックアウトの時間もあるから、はよシャワー浴びてき?」

くしゃりと髪を撫でられ、ちゅ、と至極自然に口唇が合わせられる。
至近距離でダイの顔を見つめていると、ん?と首を傾げられ。

「や……何でもない」
「そうなん?」
「ん…」

軋みをあげる身体を無理矢理起こし、バスルームへと向かった。

少し熱めのシャワーに身体を打たせながら、ぼんやりと昨夜のことを反芻する。
ダイが眼鏡をかけてなくて良かった。
絶対条件反射でいらんことまで思い出すとこやったから。

見下ろした身体は、昨日の情交を示す赤い跡が散らばっていて。
これだけでもどうしようかと思うのに、さらにそこにスーツだの眼鏡だの余計なアイテムまで増えてしまった。

「あー…もぅ…」

頭を抱えてその場に蹲る。

ただでさえ頭の中はアイツのことでいっぱいやのに、これ以上アイツを連想させるものを増やしてどうするつもりなのか。

「バカダイ…」

呟いた言葉はシャワーの音に掻き消されて、ダイの耳に届くことはなかった。



赤い髪。ギター。煙草。眼鏡。スーツ。
上げだしたらキリがないけれど。



全部全部

大好きな、お前を連想させるもの。

 

END

 

キリ番2400を踏んで下さった伶サマにお捧げします!
ダイくんが眼鏡をかけているという素敵な設定をいただいてしまい、
個人的趣味でスーツまで着せてしまいました…!すいませ…!!
少しでも楽しんでいただければ幸いです
ご報告&リクエストどうもありがとうございましたv