ダイとセックスした

 

2nd day

 

「じゃぁ、俺行ってくるけど…ほんまに大丈夫?」

肩から鞄をさげて、出かける準備万端、と行った出で立ちのダイ。
その割にその足は一向に玄関に向かおうとせず、俺が寝ころんでいるベッドサイドから動く気配がない。

いつもやったら、はよ行ってこい、って玄関までやや強制的に見送りに行くのに。

「大丈夫やから…はよ行ってこいって」

それが出来ない理由。
セックスの後に残った気怠さと、そして。

「だって、薫くんの身体心配なんやもん…」

初体験で、あちこちに残ってしまった痛み。



もともと受け入れるという造りではないわけやし、こうなることも覚悟しとった。
それでもダイと繋がりたいと思ったのは紛れもない自分自身。

…まぁ、こんなに痛いものやとは思ってなかったけどな…

でも、残ったのは痛みだけじゃなくて。
ありがちな言葉やけど、そういう行為の中で『愛しさ』を感じたのもまた事実。
すっごい痛かったけど。でも快感を得たのも事実やし。
何より、感情的な面で『満たされた』っていうんかな。
だから、それと引き換えに得たこの痛みを、それを与えた本人にとやかく言うつもりはさらさらなかった。

「大丈夫やから、はよ行けって。下で待っとるやろ?」

先ほどと同じ台詞をもう一度繰り返して。
それでもベッドから離れたがらないダイを何とか宥め賺して、じゃぁ行ってくる、とようやく重い腰をあげたダイに
頑張ってこい、と子供だましのキスをひとつ。

「薫くーん、すきやでー」

ぎゅーと抱きしめてくるダイに、俺も、と囁き返して。
仕事終わったら速攻で帰ってくるから!と言い残して、ダイは仕事へ向かった。



幸い俺は今日オフで。
1日ベッドに寝ころんどっても良かったんやけど、やっぱ暇な時間って何か勿体ない気がして。
掃除洗濯、仕事。
やらなあかんことはいっぱいあるわけやし、と思って起きあがらせた身体に、途端に走る半端ない痛み。

「…っ……!?」

あまりの痛みに悲鳴すらあがらず、起きあがらせた身体をベッドへ戻す。
行為後から今までずっとダイがおったおかげで、俺はほとんど動くことがなくて。
身体が正直ここまでえらいことになってるってことに気付いてなかった。

「なん……これ………」

冷や汗をかきながら、何とかその場に身体を起こして。
壁伝いによろよろと歩きながら、バスルームへ移動する。

寝室からバスルームまでの距離がこの時ほど果てなく感じたのは、後にも先にも初めてで。

何とか辿り着いた洗面所で、洗面台やタオル掛けに手をついて身体を支えながらダイに着せられたスウェットを脱ぐ。
掴まっとくものがないと着替えも出来ひんなんて、情けなさ過ぎて涙が出そうやった。

バスルームの壁にもたれ掛かりながら、暖められたシャワーで身体を流す。
イスに座った方が楽かと思ったけど、座る方が痛いみたいで。
曇った鏡にお湯をかけると、淡い色の照明に照らされた自分の肢体が目に入った。

無数に散らされた、赤い跡。

「…どんだけ付けてんねん、アイツ…」

思わず呟いて、まじまじと鏡を見つめる。
胸の辺りに散らされたそれを、指でなぞって。

「………ッ」

知らず、記憶をなぞり始めていた頭を慌ててぷるぷると横に振る。
痛みと共に身体に残った余韻は、少しの刺激で簡単に目覚めそうやったから。



ダイはキレイに後始末をしててくれたみたいで、簡単に身体を洗うだけで出ることが出来て。
脱ぐときと同じくらい四苦八苦しながら部屋着に着替える。

もと来た通路をやっぱり壁伝いに戻りながら、ようやくリビングのソファについたときには、大げさかもしれんけどほんまにちょっと泣きそうやった。



視線を上げて時計を見ると、風呂に予想以上に時間がかかったみたいで昼を過ぎようかという時刻で。
今日はインタビューだけってゆーてたから、夕方にはダイ帰ってくるかな、と頭の中で考えながらぼんやりと微睡む。
カーテンの隙間から零れる太陽の光が眩しい。
窓辺で光の粒子が戯れているのを何とはなしに見つめていたら、だんだんと瞼が重たくなってきて。

気がついたら煌々と部屋を照らしていた光はオレンジ色の夕焼けに変わっていた。



「…うわ、もうこんな時間や…」

見上げた時計は、最後に時間を確認した時刻からちょうど半周ほど回ったところで。
物音1つしないということは、まだダイは帰ってきてないらしい。

「メシでも作るか…」

俺が昼寝してた間に、アイツはちゃんと仕事に行ってたわけやし。
ご褒美じゃないけど、それくらいしたってもええか、なんて。
思って身体を起こした瞬間、忘れかけてきた痛みがびきぃ、と背中を走り抜けた。

「ったぁ…!!」

思わず呻いてソファの背に身体を預ける。

そうやった、忘れとった……

若干涙目になりながら、よたよたと身体を起きあがらせて。
壁に手を当てながら台所へ移動しようとしていると。

ガチャ、という鍵の開く音がして、ダイが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「薫くーん?って、薫くん!!何してるん!?」

腰に手をあてながら、ダイニングテーブルのイスの背に手をついていた俺を発見するなりダイは大声を上げて。

「や、メシ…作ろうかと……」
「そんなんせんでええし!身体辛いんやろ?座っときって」

そのまま肩を押してイスに座らせようとするダイを慌てて押し返すと、どうしたん?と問いかけられる。

「どうしたっていうか…座っとくの痛いねん……」
「そうなん?ほな横なっとき。メシできたら呼ぶし」
「あぁ、うん…ごめん」
「何で謝んねん。俺が悪いんやし。ごめんな」
「いや、お前が謝ることやないし」

別に俺はダイに謝られるようなことをされたわけやないんやから。

「や、でも痛いん俺のせいやろ…?」
「それはそうやけど…。でも、俺が望んだことやし。やから、お前が謝ることないよ」

ふわりと抱き上げられて、先ほどまで微睡んでいたソファに連れて行かれる。
ダイの首もとに腕を回して真っ直ぐに顔を見上げると、どことなく申し訳なさそうな表情で。
俺は腕に力を込めてダイの顔を引き寄せると、ちゅ、と触れるだけのキスを落とした。

「…薫くん?」
「そんな顔すんなや…」

お前やから、って思たんや。
自然の摂理に逆らってまで、本来なら受け入れる側じゃない身体でお前を受け入れたのは。
ダイ、お前やったから。

「俺は、後悔してない。やから、謝らんといて」

そう言うと、ダイはわかったって頷いて、さっきのお返しのように触れるだけのキスをくれた。



寝ころんでソファを占領してしまっている俺の髪を繰り返し梳いているダイと、たわいもない話をしながら時間を過ごす。

「でな、そんとき…………あ」
「何やねん」
「や、今思い出したけど薬使った?」
「は?」

いきなりとんだ話に、思わず素な反応を返す。
薬?何の?

「ベッドサイドにおいとったやろ?軟膏。傷出来てるから手当しよって言ったのに、薫くん自分でやるってゆーてきかへんかったやん」
「あぁ……」

思い当たる節があって曖昧に言葉尻を濁す。
確かに行為後、後始末をしてくれたダイがしつこく食い下がってたけど。
だって、なぁ?何や恥ずかしいやん。
後始末までしてもらっといて何を今更って言うかもしれんけど。
とにかくそのときは嫌や、自分でするって頑なに拒否った覚えがある。

「使ったん?」
「……ぃや…」

忘れてたわけやない、けど。
身体痛いので正直そこまで気ぃ回ってなかったし…
それ以上に気恥ずかしさとかいろんな感情が渦巻いて、とてもじゃないけど自分でなんてよー出来んくて。

「あかんよ、身体痛いんやろ?ちゃんと手当しとかな、はよ治るものも治らへんやん」
「んなこと言ったって…」
「ちょぉとってくるから、待っといて」
「ちょ、ダイ!!」

嫌がる俺を余所に、ダイは寝室へ入って薬を持ってきた。

「ほら、薫くん…」
「嫌や、絶対嫌やからな」

何かもう、とにかく嫌で。
断固として拒否る俺に、ダイは溜息をつきながら膝をおって視線を合わせた。

「何で嫌なん?」
「…やって、はずいやんか……」

絶対赤くなっているであろう顔でダイを睨むと、ダイはやれやれ、と言った表情で俺の髪を撫でて。

「んなこと言っといて、はよ治らへんかったら仕事にも影響出るで?座るん痛いんやろ?」
「う゛………」

仕事のことを出されると、正直辛い。
口籠もった俺の身体を抱き上げると、ダイはそのまま自分の膝に俺を乗せた。

「な?ほら、腰上げて…」
「わ、ちょ、ダ…!」

腰に手を回されて、ぐぃ、と持ち上げられる。
ダイの身体を挟んで膝立ちしている不安定な状態で、俺は支えるものを欲してダイの頭を抱え込んだ。

する、と着ていたスウェットから手を差し入れられて、知らず身体が震える。

「ちょ、お前、何して……ッ」

突然自身をなぞられて。
びく、と勝手に身体が反応する。

「気持ちい?」
「……ッ!!」

下から見上げられて、かぁ、と顔が赤くなるのを感じた。
恥ずかしさのあまり顔を直視出来ず、ダイの頭を抱え込む。

「ちょぉ薫くん、苦しいって」

苦笑気味のダイの言葉に、慌てて頭を抱えていた腕をといた。
相変わらず余裕の笑みを浮かべたその表情がみょーに腹立つ。
こっちは指先1つであっさり余裕を奪われているというのに。

憮然とした表情でダイを睨んでいると、ゆっくりと自身を握り込まれた手を動かされた。

「や、ダイ…!」
「嫌、やないやろ?」

そのまま覗き込まれるように口付けられて。

「ん………ふ…」

絡められる舌と、自身を扱かれる指に意識をとられて、スウェットが中途半端に脱がされていることに気付くことすらなく。

「ッ!?」

昨晩初めてダイを受け入れた場所に冷たい感触を感じて、俺は、は、と閉じていた目を開けた。

「そのままおって、薫くん…」
「え、や…ダ……」

つ、と冷たい指先が若干の滑りを伴いながら中に入り込んでくる。
かと思えばすぐに出て行ってしまった指にダイの顔を見つめると、チューブから軟膏を指先に擦りつけて再び俺の中に指を潜らせ始めて。

「ダイ……ぁ…」

触れられた場所がチリ、と疼くように痛んだ。

「やっぱ…傷んなってるな…」

ダイはさっきと同じように指を抜くと、また軟膏を指先に擦りつけて傷になっているという部分に塗り込む。
傷口は性感帯、っていうけど。
どうもそれは事実みたいで。

「あ、ダイ……ッ…」

感じすぎて膝ががくがくと震える。
意志とは裏腹に勝手に反応する自分の身体を持て余して、俺は助けを求めるようにダイを見つめた。

「気持ちええん?薫のコレ、すごい蜜溢れてんで」

自身を握りしめられていた手を動かされると同時に、そこからグチュ、と濡れた音が響く。
羞恥にかぁ、と赤かった顔をさらに赤らめて、俺はダイの首もとに顔を埋めた。
恥ずかしすぎて、とてもじゃないけど直視出来るもんやなくて。

「薫、ちょぉ身体離して?」

力も抜けきってもたれ掛かるようにしていた身体を起こされ、潤んだ視界でダイの行動を追っていると。
ダイが身体を屈めて、蜜を零していたそれに唇を寄せた。

「ちょ、ダイ…!!」

慌てて身体を離そうとするも、力の入らない状態でたいした効果はなくて。
それどころか愛撫するようにくわえ込まれて、腰から下の力が抜けきってしまう。

絡められた視線から、目が離せんくて。
視覚で犯される。

「や、ダイ、ア……」

喘ぐ俺を見つめて、ダイが妖艶に笑う。
軟膏が体温で溶けたのか、俺の中に潜らせていたダイの指が動くたびに濡れた音がして。

イくのを促されるように早くなる舌の動きや、傷口に触れる指先。
やけど昨日知った快感からはまだ程遠くて
―――

「ダイ、ッ…!」

ぎゅ、と揺れていた赤い髪を掴んで、此方を向かせる。
くわえ込んでいたソレから口を離して、濡れた唇をぺろりと赤い舌で舐めるダイ。

ダイ。

「ダイ…」
「ん?」
「…………シよ」

顔を首もとに埋めて耳元で囁いた俺の言葉に、ダイの身体がぴきりと固まるのがわかった。






「………ダイ?」

何か俺、変なことゆーたかな…
もしかして淫乱て思われたとか…

そんなことを考えながら、おそるおそるダイの顔を見つめると。
呆然とした状態でこちらを見つめるダイと、目が合う。

「……って!あかんよ、あかんて」

瞬間、慌てたように捲し立てるダイ。

「薫くんの傷の手当てしてたんやで!?さらに悪化させてどーするん!!」
「そんなん知らんわ。お前が悪いねん」
「何で俺!?」

何でって…あんなことしておきながらよー言えるわ、んなこと。
無自覚か?

「なぁ、ダイ……あかんの?」

首を傾げて問いかける。
何でもええから、この身体の熱を冷ましてほしくて。

でも、1人でダイの掌や口を汚すのは嫌で。

さっきまで感じていた痛みを気にするよりも、身体はただ、ダイを求めて。

「〜〜〜ッ、もぉ!!明日立てへんゆーても知らんからな!!」

そう吐き捨てると、ダイは放られていた軟膏のチューブを手にとって大量に捻り出した。
それを指先で掬い取って、俺の中を慣らすように指を潜らせる。

「ア…ンッ……!!」
「こっち我慢してたんに、簡単に陥落させられんねんもん。ほんま、敵わんわ…」

開いた片手で器用に俺の着ていた部屋着代わりのスウェットを捲り上げて、赤い跡が点々と残る胸板に口付けられて。
そうこうしてる間に俺の中を探る指はゆっくりと慎重に、でも何処か強引に慣らすように動かされる。

「もう、ええ…?」
「ンッ……ダイ…」

穿いていたジーンズから、くつろげられたダイのモノ。
慣らされた部分に指とは違う熱を持ったモノを押し当てられて、ぞくりと背筋に電流のようなものが走る。

「ゆっくり、するから…力抜いて」
「ダ……」

そうしてゆっくりと、侵入してきたダイ。

昨夜もそうだった。
慣らされて慣らされて、それでも耐えきれずに俺の身体には傷が残った。

「いた…ッ」

ちり、とした痛みを感じて、傷が開いたのを悟る。
それでも身体は重力に逆らえず、落ちて。

「痛い?やっぱやめた方がええって…」
「ええ、から」

同じ高さになった視線を絡めて、口付ける。
リアルに感じるダイのモノ。
圧迫感をやり過ごすように、こもった熱っぽい息を吐き出して。

「ダイ…」
「薫…好きやで」

労るように頬や目尻にいくつも口付けを落とされる。
そうして最後に触れられた口唇。

甘く貪るように口付けを交わして。
縋るように抱きつく。

ダイの身体を跨って足を広げている自分の痴態を気にしてられるほど、余裕はなくて。

やがて、俺の身体を気にかけてかゆっくりと動き始めたダイの身体に縋り付いて、身を委ねる。

「薫…」

首筋をダイの熱っぽい吐息が掠めて、舌でなぞられて。

「ダイ…ッ、は……」

ダイのシャツを握りしめて、甘い熱の融合に溶ける。
じくじくと広がっていた痛みが、甘く快感に変換されていく。

不意にダイの手がお互いの腹の間にのびたかと思うと、濃い粘液を零していた自身を扱かれて。

「ア…ッ、ダィ…」
「このまんま…イけそう?」
「ん………ッ」

飲み込めない喘ぎを塞ぐようにして、ダイの口唇を求める。
濡れた音が耳について離れない。

「も、イく……ッ」

限界、とばかりにダイの肩口の顔を埋めて、背中のシャツを握りしめて。
ダイの掌に、甘く導かれた絶頂の証を吐き出す。

余韻に震える俺の身体を、ダイは少しばかり強引に揺さぶって。
そのまま熱い液体が身体の奥でぶちまけられるのを感じて、身体が緩やかに弛緩していくのを、他人事のように感じていた。






「…俺、無理…」

案の定、腰は使い物になるわけがなく。
情けない話やけど、ダイにシャワーを浴びさせてもらい、キレイに後始末もしてもらった後、ベッドまで運んでもらって。

それが自分から強請った結果なんて…ほんま、情けないにも程がある。

「大丈夫か?」

俺の傷の手当てを終えたダイが、俺の横にころりと寝転がってやわらかく抱き寄せてくれた。

「ごめん、ダイ…」

質問には答えずに、謝る。
するとダイは、そっと俺の額に口唇を寄せて。

「謝らんでもええって。不謹慎やけど、俺、うれしかったし」
「へ?」
「薫くんも求めてくれてるんやなぁって。なんかうれしかった」
「………ッ」

かぁ、と赤くなる顔。
ダイはそんな俺の反応に微笑むと、ちゅ、と今度は口唇に口付けを落とした。

「もーほんま薫くん大好きや」

ぎゅーと抱きしめられて。
薄い布越しに伝わる鼓動。熱。感触。匂い。

ドキドキする。けど、安心する。

「好きやで」
「…ん」

甘く繰り返される睦言。
永遠なんて信じる性質ではないけれど、少しでも長く、こうしていられるように。

甘くダイの口付けを受け入れながら、俺はゆっくりと瞳を閉じた。

 

END