「薫…?」
驚きに見開かれた瞳。
顔を凝視されるのを耐えきれずに、力の入ってないダイの手をこちら側に引いて。
倒れ込んできた身体に腕をまわして抱きつく。
熱い身体。
今まで感じたことのない幸せな重みが、俺をぐずぐずに溶かして。
「ええ、から…」
肩口に顔を埋めたまま、呟く。
微動だにしないしないダイの身体に、さらに強く抱きつきながら。
「痛くても、何でもええ、から。離れんな…」
「でも…」
眉根を寄せて、まだ何か言葉を紡ごうとするダイ。
その薄く開かれた口唇を閉ざすように、指先を滑らせて。
俺は身体を起こすと、自らその口唇に噛みついていった。
「薫…」
銀糸が引くような口付けの後。
今度は意志を持ってダイからキスが仕掛けられる。
背中に回された、痛いくらい力の込められた腕。
同じくらい力を込めてダイの身体を抱きしめながら、その腕に身を委ねるように身体を預けた。
湿った空気が肌にまとわりつく。
熱気で満たされた部屋に響く、容易に行為を連想させる濡れた音。
それがどこから聞こえてるんか、考えるだけでおかしくなりそうやけど。
「かおる…」
普段はギターを爪弾く長い指が、今は自分の肌の上を這って。
普段は煙草を燻らす長い指が、今は自分の胎内に突き立てられている。
想像するだけでイってしまいそうな淫猥な状態が、感覚と共に現実に今、自分の身に降りかかっていて。
「ぁっ…ダ、イ…」
知らず、口唇から漏れる声は信じられないほど甘い。
濡れた喘ぎは、気付かないうちに自分の熱すらをも煽っていて。
「薫…」
中に沈められた指はそのままに、口唇に落とされる口付け。
甘い砂糖菓子を強請るみたいに、ただその感触を求めて。
「ん…ッ……ダイ………」
慣れない異物感よりも、徐々に他から与えられる快感の方が大きくなってきた頃、
不意にダイの指先がある一点を掠めた。
「ひァッ!?」
ひっくり返った自分の声。
びくりと揺れた身体。
一体今何が起きたんか、自分でもわからへんかった。
ただ驚きのあまりダイの顔を見つめると、にぃとその口唇が弧を描いて。
「見付けた」
耳元で、それはそれはうれしそうな声音で囁かれた一言。
―――見付けた?
熱で浮かされた俺に、最早その意味を知る余裕はなくて。
「も、やめっ…!」
過ぎた快感に、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
今までに感じたことのない感覚に、俺は自分の身体を持て余して何とかダイの手から逃れようとするものの、
ダイはそれを許してくれずに。
捩る身体を上から押さえつけられ、そこばかりを刺激されてホンマにどうにかなりそうやった。
「可愛い…」
ええ年したおっさんにその形容詞はどうかと思うものの、そのときの俺にそんなことを言う余裕もなければ
考える余裕すらなく。
ただその悪戯な手から逃れようと必死にダイの腕を掴むが、対して力の入ってない状態では何の効果も見られなくて。
「ダイ…ッ!」
涙でぼやける視界。いっぱいに広がるダイの顔を見つめる。
早く。
早くこの熱を、どうにかしてほしくて。
「薫…」
涙で濡れた頬に、口唇が降ってくる。
雫を舐め取られて、そのまま腫れぼったく熱を持った目蓋に落ちてくる口付け。
胎内を探っていた指がゆっくりと引き抜かれて。
そのままぎゅぅ、と。ダイの腕に抱き込まれた。
「ヤバイ…」
「え?」
微かに耳元に響く、熱を持った低い声。
「何か…緊張しすぎて俺があかんかも…」
続いて聞こえてきた言葉の意図を探りきれずに、俺はへ?と間抜けな声を上げてしまった。
「ダ、イ…?」
俺を抱きしめたまま微動だにしないダイ。
触れ合う身体は尋常じゃないくらいに熱くて。
疼く身体を持て余したまま、その背中にゆっくりと手を回す。
火傷しそうな程に熱い肌越しに、感じるはひどく早い鼓動の音。
ここまできたら男として本能的に止まらへんのは同性として痛いくらいわかるし、
ある程度の衝撃とか痛みとかも覚悟してた。
でも、ダイはただ力一杯俺を抱きしめるだけで。
どうしたんかと内心焦る俺を余所に、ダイは少しだけ肩口に埋めていた顔を上げると、一言。
「―――て」
「…え?」
ぽつりと、消え入りそうな声で呟いた。
「昔さぁ、ツレが言うとってん。ホンマに好きなヤツとヤる時って、逆に緊張しすぎて勃たんくなるって」
―――そんときは、そんなことあるかい、って思ってたんやけどな
「……でもホンマやったみたい」
そう苦笑しながら、ダイは俺を抱きしめたまま体勢を入れ替えた。
反転した視界。
気が付けば、俺がダイの上に乗っかかってて。
「ホンマ、情けないくらい緊張してる…」
そう言って、伸ばされた手。
俺の手よりもずっと大きなそれが、頬をそっと撫でて。
やわらかく引き寄せられて、口唇が触れ合わされる。
しっとりと、濡れた感触。
触れるだけでゆっくりと顔を離すと、そのままダイの胸元に促されるままに顔を埋めた。
「触って…?」
微かに空気を震わせる音。
それが明確な意味を持って脳に達するまで、少なくとも数秒は要したらしい。
「え…」
ダイの言葉を理解すると同時に、かぁと頬が紅潮していくのがわかった。
少し顔を浮かせると、何とも言えない表情をしたダイと目が合う。
「…嫌?」
苦笑気味に問いかけられた言葉に、そのときの俺はただ首を横に振るしか出来んくて。
なかなか決心を付けられずに動かせない身体。
やがて、それくらいの時間が経ったのか。
微かな衣擦れの音と共に、恐る恐る俺は腕を動かして。
ゆっくりと、剥き出しの身体をなぞる。
男にしては肌理の整った、やわらかい肌。
胸元から下へ、指を滑らせて。
これでええんかな、と窺うようにダイの顔を見上げる。
その瞬間、俺の目に飛び込んできた光景。
いつも人懐っこく笑う口元から零れる濡れた吐息。
快感にか歪められた表情。
微かに細められた瞳。
どくりと、鼓動が音を立てるのがわかった。
「か、おる…?」
濡れた声。
は、と零された吐息はびっくりするくらい熱く、甘く。
震える右手を、ゆっくりと。
熱い身体の中でも一際熱を持ったそこに滑らせる。
―――もっと、余裕のない顔が見てみたい
そんな微かな期待と共に。
「…ッ、かお…」
ひくり、と震えた身体。
細く零されていた吐息が一瞬止まって。
寄せられた眉間。
ぽつりと滴った汗は、余裕のない俺のかダイのものなのか。
薄く開かれた口唇から、先ほどまで散々俺を嬲っていた赤い舌が
ちらりとのぞいて。
「っ…」
思わず息を呑む。
初めて見る恋人の濡れ場の表情に、俺の心臓は破壊寸前。
―――コイツは、あとどれくらい俺の見たことない表情を隠し持ってるんやろう
「かお、る…っ」
そんなことをぼんやり考えていると、突然視界が逆転して。
熱に浮かされたようにダイの顔を見つめていた俺の身体の上に、のし掛かってくる熱い身体。
「も、してええ…?」
くちゅり、と濡れた音がして、先程まで弄くられていた所に感じる異物感。
どこからする音なんやろう、と考えた瞬間、思い当たった箇所にかぁと頬がさらに紅潮するのがわかった。
散々感じておかしくなりそうやった所を、急速かつ正確に突かれて。
指先がぐるりと中を掻き回すたびに、びくりと身体が震え上がった。
「も、ええ、からっ…」
俺の言葉は最後まで告げることなく、喉の奥に飲み込まれて―――
しくりと、押し当てられた熱い物体。
それが何なのか気付いた瞬間、思わず息を止めた。
忘れてた恐怖心が、今更のように甦ってきて。
「ダ、イ…」
伸ばした手が、震える。
それを隠すように、ぎゅ、と握りしめた手。
爪が手のひらに食い込んで、それでも痛みは感じないぐらい緊張していたらしい。
「薫、愛してる…」
そう呟きながら、ふわりとやわらかい口付けを1つ落として。
そうしてゆっくりと、俺の中に入ってきたダイ。
じわじわと浸食される感触に、伴う痛み。
あれほど慣らしてもらったにも関わらず、俺の身体は快感はおろか痛みしか感じんくて。
堅く閉じた瞳から溢れた涙が零れ落ちて頬を伝っていく。
「…い、た……」
爪先が、掌が、体温をなくして。
カタカタと身体が痛みに震える。
「痛い、っ、ダイ……ッ」
ダイの身体にしがみつくようにして爪をたてた。
皮膚を引っ掻いた感触があったけど、そんなことに気付く余裕なんかなくて。
ただ、抉られるような痛みに息を詰めることしか出来ない。
一番近いところにあるはずのダイの体温さえ、今は遠くて。
痛みから逃れたくて、無意識のうちにダイの身体を突っぱねていたらしい。
瞬間、不意に重みが消えて。
突然のことに俺は何が起きたかわからず、閉じていた目を薄く開けた。
視線の先、苦笑気味なダイの表情があって。
「ごめん、薫…」
手を伸ばされて、頬を拭われる。
「痛い、よな………。ごめんな…」
泣かせたい訳じゃないねん、と。
俺の苦痛をそのまま飲み込んだかのように、痛みに顔を歪めて。
そのまますっと身体を起こすダイ。
離れていく体温。
冷や汗のせいか、思った以上に身体の熱が冷めていたらしい。
さっきまで部屋を満たしていた濃密な空気が、一転して乾いたものに変化して。
冷たい空気に肌を撫でられ、俺はふるりと身体を震わせた。
―――ひとりで取り残される
痛みより何より恐ろしいことに、俺は思わずベッドを降りようとしていたダイの手を掴んだ。
「やめんな…ッ!」
「え…?」
その身体にしがみついて。
遠ざかる体温を必死に追う。
「でも、俺ほんま薫めちゃくちゃにしてまいそうで…」
「ええから!ええ、から…っ」
この痛みの先にも、身体を繋げる意味はきっとあるはずで。
どう考えても俺の負担が大きいのだって理解してる。
愛や恋が綺麗事だけじゃ済まへんこともわかってて、
それでも俺はダイが好きで結ばれたくて。
俺らは別々の人間で、身体は2つあって、でも。
―――ひとつに、なりたくて
「頼むから!お前のものに、してくれや…」
そう言い放った瞬間、強く、強く抱きすくめられた。
再び潤滑剤を塗り込まれて、指でそこを慣らされる。
逃げ腰になる身体を抱かれて、深く深くそこを開かれて。
恐怖がまた過ぎる快感に塗り替えられていく。
「っ、ダイッ…」
「ん?」
「も、ええからっ…」
「まだあかんよ」
身体に当たるダイは、びっくりするくらい熱くて。
ここまできたら入れたくてどうしようもないことくらい、同じ男としてよくわかるのに。
額に脂汗を浮かべて、それでもダイは俺のことを想ってくれてて
自分の気持ちは後回しで。
そんなお前の、痛いくらいの想いがわかるから。
「ダイ―――ッ」
ダイの肩に手を回して、そのままその身体を押し倒す。
きょとんとしているダイの身体に乗りかかって。
存在を主張している熱いダイのものを軽く扱いて、
受け入れるそこに押し当てる。
瞬間、ひやりと背中に冷や汗が伝うのがわかったけど。
もう、後には引けんくて。
「薫、無理せんでええから…」
その言葉にふるふると首を横に振って、身体をゆっくりと下ろした。
「っぅ、ダイ………ッ!!」
「…ゆっくりでええから、力抜いて…」
痛みでまた、途切れる吐息。
震える体をさするように撫でられて。
「薫、息止めんと吐いて…」
ダイの言葉に促されるように、止めていた呼吸を繰り返す。
と、不意に俺の腰を支えるようにして添えられていたダイの手が、
片方前に回されて。
痛みで萎えかかっていた自身を軽く扱かれて、じわりと快感が戻ってくる。
「あ、あぁ、ダイ…ぃっ…」
「まだ痛い…?」
「んっ……」
徐々に力が抜けて、ず、とダイに奥深くを突かれて。
痛みと快感が綯い交ぜになった状態で、深く、一番深いところでダイを受け止める。
「はい……った…?」
「ん…」
涙で滲んだ視界。
その向こうに、額に脂汗を浮かべて、それでも微笑んでくれているダイの顔があって。
俺も相当辛かったけど、ダイだって辛かったんや。
そう思うともう、どうしようもなく想いが胸から溢れた。
「ダイ―――愛してる…」
「薫…」
溢れる想いは留まることを知らず。
押さえきれずに零れる言葉。
「ほんまに、お前が、好きやで…」
そう告げた、瞬間。
ぽろりと、ダイの瞳から透明な滴が零れ落ちた。
「ダイ……?」
「え、あ、俺、泣いてる…?」
「う、うん…」
驚愕する俺に、ダイは苦笑気味に微笑んで。
「ほんまに薫のことが好きで。でも想いが通じるなんて思ってもみぃひんかったから。
……こうしてんのが、ほんまに夢みたいで…」
「ダイ…」
「薫…愛してる…俺も大好きやで…」
両手で頬を覆われて、口付けられる。
涙で少ししょっぱいキス。
触れるだけやったそれが、段々と呼吸を奪い合うような激しいものに変わっていって。
いつの間にか、入れ替えられた体勢。
組み敷かれて穿たれて、焼け付くような痛みがそこに走る。
それを上回る、熱。
ただ、熱くて。
縋り付いたダイの背中に爪を立てる。
痛みと快感で揺れる身体。
甘い口付けとやさしい言葉。
ずっとずっと、俺が求めていたもの。
「愛してる…」
「あ、っ、俺も……っ、ダイ―――ッ」
痛みと快感で染められていた脳裏が、白く白く霞んでいく。
空っぽの思考回路に、響くはダイの甘い睦言。
ただ、幸せで。
途切れていく意識の中で、最後に残ったのはダイがやさしく微笑む表情やった。
go to next day... 2nd day