付き合って初めて迎えた夜。

 

1st day
1stnight

 

「先、シャワー浴びてき」
「……ん…」

一緒に帰ったダイの家で。
荷物を置いて腰を下ろす間もなく、ダイにそう言われて浴室へ移動する。
初めて入った洗面所。
何気なく立てられた歯磨き粉や1本だけの歯ブラシを何とはなしに見つめていると、コンコン、とドアをノックされて。

「これ、着替え。後バスタオル」
「あ、ありがとう…」

手渡された白いバスタオルと着替えと言う名のバスローブ。
ゆっくりでええよ、とダイは言い残して洗面所のドアを閉めた。

パタン、という音と共に、作り上げられた密室空間。

さっきから尋常じゃないくらいに心臓の鼓動が早くて。うるさい。
手にしたままのバスタオルとバスローブをぎゅっと握りしめる。
ダイの匂いがして、ひどく安心すると共にまた1つ、鼓動が早くなった。



付き合い始めて1ヶ月弱。
それまでもずっと一緒におったわけやから、関係が変わったところで何か特別な変化があったわけでもなく。
ただやっぱり『恋人』っていう間柄になったからには意識してまうこともあって。

手を繋ぐ、とか。身体を抱きしめる、とか。
今時の中学生でもしてないような、プラトニックな恋愛をしていた俺たちやけど。

正直、一緒におった時間が長ければ長い分、この状況を打破するタイミングを計り損ねてたっていうのが現状で。
それなりに恋愛経験をこなしてきたいい大人が2人、プラトニックなこの状況に焦りを感じてきたのもまた事実で。



プラトニックの一線を越えたのは、先週の夜のことやった。

付き合うようになってから何度か行うようになったダイとの逃避行。
と言っても休憩時間なんかに少しばかり抜け出して屋上に行って煙草を吸うくらいなんやけど。

いつもと同じように肩を並べて喧噪の止まない街を見下ろしていたところで、沈黙を破ったのはダイの一言やった。

「キスしていい?」

煙草を片手に、隣に並んだ少し背の高いダイの顔を見つめる。
闇の中でもはっきりとわかる、こちらを見据える真摯な瞳。

あぁ、好きなんやって。改めて自覚する。

「……ええよ」

半分以上残った煙草を捻り消して。
戸惑いがちに伸ばされた腕に、抗うことなく身を委ねる。

ふわりと抱き寄せられた身体。
片手が、そっと頬にかけられて。

近付いてくる顔に、ゆっくりと目を閉じる。

吐息がかかるような距離で、ダイの煙草の匂いをより強く感じて。
瞬間、そっと触れた口唇。

1秒にも満たない、触れるだけの口付け。
至近距離で顔を見上げて。もう一度、目を閉じる。

強い風が、辺りを漂っていた紫煙をふわりと舞い上がらせて通り抜けた。



一度触れた口唇の感触は、なかなか消えず。
それ以上の刺激を求めて疼く身体を持て余しながら、立て続けに詰められたスケジュールをこなしていく。
それはダイも同じだったようで、時折此方を見つめる瞳にあからさまな情欲が隠されているのを俺は見逃さなかった。
人目のつかないところを探しては、口唇を重ねて。
とにかく火がついたように俺とダイはお互いを求め合った。



きっかけがおとずれたのは、つい先程のこと。
インタビューのキャンセルによって夕方過ぎには解放された俺たちは、言葉もなく早足にダイの家に向かっていた。
ダイに掴まれた腕から伝わってくる熱が、言葉もなく焦っているのを示していて。

もう、お互いに限界やった。



勢いだけでここまで来たはええけど、どないしたらええんやろう。
シャワーの湯に身体を打たれながらそんなことをぼんやりと考える。
冷静になってくればなってくるほど、この状況が気恥ずかしくなってきて。
何とはなしに見つめた、曇った鏡にうつった自分の身体。

「………」

どこからどう見ても、男の骨格で。
襟足の長い髪が水に濡れて重く肌に張り付いている。

自分の身体を見つめながら、今更沸きあがった羞恥心でまた鼓動が早まっていく。
どくどくと早鐘を打ち続ける心臓が痛い。

でも、いつまでもそうしてるわけにはいかんくて。
いつもより念入りに身体を洗い流してから、バスルームを後にする。

ふんわりと自分を包むシャンプーの匂いは、ダイと同じ香りがして。
よし、と気合いを入れつつ、洗面所のドアを開けた。



「あがった?」
「…うん」

向かったリビングで。
気合いを入れたわりには適度に冷やされた空間に足を踏み入れるのを躊躇っている俺。
俯いていると、急に手を引かれて。

「えらいしおらしいやん」

そう言ってダイが笑う。
緊張のあまり固まってる俺も俺やけど、ダイのその笑みだって普段から比べたら大分余裕が無くて。
ただ、自分のことでいっぱいいっぱいの俺にそれを察することは出来んかった。

「薫」

ぐぃ、と抱き寄せられる。
頬にダイの切ったばかりの赤い髪が当たって。くすぐったい。

「好きやで」
「…うん」

抱きしめた身体が熱い。
顔を直視出来ずに、俺はダイの肩口に顔を埋めて、背中に回した手に力を込めた。



抱き上げられて、初めて踏み込んだダイの寝室。
当たり前と言えば当たり前なんやけど、ベッドがぽん、と置いてあるだけの空間はやけに気恥ずかしくて。
降ろされた身体。ふわりと、ダイの匂いが身体を包み込む。

「薫……」

名前を呼ばれて。ちゅ、と落とされる口付け。
触れるだけやったそれが、段々と深く、長くなってゆく。

「ッ、ダイ…」

口腔を探られて。絡められる、舌。
吐息を奪うようなキスに、段々と頭が白く霞み始める。
酸素を求めて大きく開いた口を、そのまま塞がれて。

「んぅ……」

粘膜をなぞられる。上顎の辺りを舐められて、思わず声が上がった。
思う存分口腔を蹂躙されて。敏感になった舌先を嬲られて、勝手に目が潤む。

「ダイ……ッ」

ようやく口付けから解放されて。
肩で息をつく俺に構わず、ダイは着ていたバスローブに手をかける。
夢見心地で見上げた照明はまだ煌々とついたまま。
さすがにこんな明るいところでは、と慌てて俺はバスローブを剥ごうとしているダイの手を止めた。

「…なん?」

そんな俺を、不思議そうに見つめるダイ。

「あ、や、その……明るい、から。消してくれや…」

しどろもどろになりながら告げた俺の言葉に、ダイはバスローブに手をかけたままの状態でちらりと照明を見上げる。
そして。

「ちょ、ダイ!!」

何事もなかったかのように行為を再開させようとする男の頭を俺は慌てて叩く。
広げられようとしていた合わせ目を必死に取り押さえながら。

「…何すんのー」

対するダイは不満顔。
アホか、お前。こんな明るいところで身体晒せるかい!!

必死にダイの顔を睨みつけるものの、赤くなった顔じゃそんなに大した効果は見られんくて。
後退った身体を抱き寄せられて、強引に組み敷かれる。

「ダイ!!」
「ええやん。見してや?」
「ちょ、お前……!!」

そうしてばさりと音をたてて、開かれたバスローブ。

「………ッ!!」

羞恥のあまり、顔を背ける。
固く閉じた瞳。
それでも、ダイが此方を見ているのがありありとわかって、居たたまれなくなる。

つ、と胸の辺りを指でなぞられて。
見られてることによって過敏になってるんか、それだけで身体が震える。

「キレイやな、薫…」

俺の両腕をそれぞれ押さえつけて、ベッドに沈み込ませながら。
ダイがそうしみじみと呟く。
野郎の身体にキレイってどないやねん、と思いながらも何もしてこようとしないダイを訝しんで薄く瞳を開けると、
俺の身体に覆い被さったままで此方を見つめるダイと目が合う。

「…っ」

熱っぽい、あからさまな情欲の絡んだ瞳。
直視出来ずに視線を逸らすと、露わになった首筋に口唇を寄せられて。

「いっ……!」

強く吸い付かれる。
痛みに思わず声を上げると、そこをやわらかで濡れた感触が這う。

「ほんま…このまんまガラスケースとかに入れて飾っときたい…」
「ゃぁ…っ、ダイ…」

そのまま耳朶を食まれて。
熱っぽく囁かれて、知らず身体が震える。
濡れた音に煽られて、身体の熱が上げられていく。

バスローブと背中の間に手を差し込まれて、身体を持ち上げられる。
そのまま胸元に口唇を落とされて。
突き破りそうな勢いで鼓動を打ち続ける心臓の上に、口付けられた。

「ン…ッ、ぁ……」

つ、と舌が這って。辿り着いた胸の突起に、舌が絡む。
感じる感じないとかじゃなくて、ただくすぐったくて。
ダイの髪に指を通した瞬間、そこに軽く歯を立てられる。

「ひゃっ……」

ずく、と背筋に何かが走り抜けて。
口をついて飛び出た嬌声に、驚いてダイを見つめる。
にんまり微笑んで、味をしめたように歯を立てるダイ。

「や……ッ、ダイ、あっ」

繰り返し嬲られて、ぷくりと膨れあがった突起に、しつこいくらい愛撫を落とされて。
赤く腫れ上がったそれを指で捏ね回しながら、もう片方も同じように歯を立てて舌で嬲られる。

「ダイぃ…ッ」
「弱いんや、ココ」

ふ、と吐息をかけられて。
それだけのことに、大げさに反応を返す俺の身体。
びくりと震えた俺の身体をしっかりと抱き留めたままで、ダイが他の性感帯を探そうとあちこちに吸い付いてくる。

「も、やぁ……」

二の腕や、脇腹。臍の周り。
赤い跡が刻み込まれていくたびに勝手に反応する身体を持て余して、情けない声を上げてしまう。
何より嫌やったのは…

「嫌、やないやろ?」
「!!」

知らず、反応を示していた俺自身。
ダイが与える感覚は確かに気持ちが良くて、でもこんなことになっとんのが俺だけっていう状態がすっごい不本意で。
羞恥のあまりかぁ、と頬を紅潮させて、半分以上脱がされていたバスローブを必死に掴んで身体を隠す。

「何しとん」
「ちょ、脱がさんとってって…!」
「こんなんあったら、薫を感じられへんやん」

ぽい、とバスローブを投げ捨てられて。
ダイの前に晒された俺の身体。

「ええやん、隠さんでも。気持ちよーなることしてんねんからさ」
「それでも…いやや……」

こんな明るいところで。
あからさまに反応してる身体を見られて、恥ずかしさのあまりどうにかなりそうや。
思わず顔を両手で覆う。
その瞬間、反応を示していた俺自身を握りしめられて。

「……ッ!!」

びくり、と身体が震える。
ほんの少しだけ開いた指の先から見えた光景。
ダイの手が、俺のを握りしめとって。

緩く動かされて、ぐちゅ、と濡れた音が響く。

「ちょ、ダイ…!」

最早自制はきかんくて。
手とは違うやわらかな感触に包まれたかと思うと、先端にちゅっと吸い付かれる。

「やぁッ!!」

舌を這わされて。時折悪戯のように吸い付かれて、甘噛みされる。
初めての癖にやたら弱いところばっかり刺激されて、あっという間に追い上げられていく。

「気持ちい?」

濡れた音をさせながら、ダイが手をスライドさせて。
かと思えば内股に舌を這わされ、つきんとした痛みが走る。

「あっ、アァッ、ダイ…ッ」

際どいところに寄せられた口唇。吸い付かれて、ぺろりと舐められる。

「イってええよ」

そう言って、ダイは俺のモノを器用に扱きながらぱくりとくわえて。
舌技と手に追い上げられて、あっという間に絶頂に達する。

「ダイッ、口離せ…!!」

必死に頭を引きはがそうとするのだけれど、それも叶わず。
結局、ダイの口の中に全てを吐き出してしまっていた。



射精の余韻でぼんやりとしていた俺を現実に引き戻したもの。

ごくりと、何かを嚥下する、音…

「ダイ!!」

慌てて名前を呼ぶも、ダイはけろりとした声で美味しかったで、と笑う。
あまりのことに俺は唖然。
…飲むか。普通、飲むか…

呆然としたままの俺の身体を、ダイは再び押し倒して。

「次は俺を気持ちようさせてや…?」

そう、耳元で囁かれる。
太股辺りに押しつけられる熱い物体。
おそるおそる手を伸ばして、まだ着たままやったダイの服を脱がせていく。

ダイの言葉に、口でせぇって言ってんのかと思ったけど。
どうもそうではないらしい。
ジーンズのジッパーを下ろしてくつろげさせた瞬間、姿を現したモノにごくりと息を飲んでいる、と。

とさ、と軽い音をさせてベッドに身体を沈められて。
指で口唇を割られて、再び口付けられる。
青い匂いに顔をしかめるが、あっという間にキスに翻弄されて。

ダイの首に手を回して口付けに酔っていると、カタン、と小さな音がした。

「………?」

薄く目を開けてダイを見つめると、そっと口唇を離されて。
お互いの口唇を繋いでいた銀糸を舐め取りながら、ダイがにっと笑う。

「慣らすな」

慣らす…?
きょとんとしたままの俺に、ダイはごそごそして取り出していた怪しげなチューブを手に取る。

「…何、それ…」

一応わかってはおったけど。
とりあえず聞いてみた俺に、ダイはあっさり潤滑剤、と答える。

…そんな開きなおんな!!

怪しげなロゴにデザイン。…何処でこーてきたんや、こんなモン…
若干疑わしげな目でダイを見上げると、ん?と何でもないように微笑む。

「大丈夫やで。害はないから」

当たり前やろ!!あったら困るわ、阿呆。

何なんやろ…セックスしてんのに、このムードのなさ…
ちょっと泣けてきたかもしれん…

明るい照明のもと。
雰囲気に飲まれてもたら気にならんのかもしれんけど、今の俺とダイじゃ精々いらん口叩き合うのが精一杯。
俺の上に跨ったままの男を見つめながら、さてどうしたもんか、と考える。

考えた結果…

「なぁ、ダイ……」

俺が実行したのは泣き落としやった。

「頼むから電気消してや…?」

さっきまで潤んでた瞳を最大限に活用して、ちょっと首を傾げながらダイに言う。
ぐ、と詰まるダイ。よし、ええ感じや。

「なぁ、ダイ、お願いやからさ…」

もうちょっとや、と心の中で舌を出しながら、小首を傾げて強請る。
すると。

「…わかった」

しぶしぶながらに承諾したダイ。
身体を起こしてスイッチを消しに行った瞬間、パチリと音をたてて部屋は暗闇に沈んだ。

「これくらいはええやろ?」

そう言って付けられたサイドランプ。
まぁ、これくらいならしゃーないか。精一杯の妥協で、俺もこくりと頷く。

「…薫」

身体を抱き寄せられて。ちゅ、と触れられる口唇。

「ダイ…」

その頭を抱きしめて。目を閉じる。

ロマンチックとか、そういうところからは大分程遠い俺たちやけど。
キスしたり、セックスしたりすることによって、安心を得ることもあって。
一見すればじゃれ合いになるかもしれへん。
でも俺はダイを求めてて、ダイは俺を欲してくれてる。

俺は受け入れられるように造られた身体じゃないけど。
痛くても身体を繋げる理由はきっとあるはず。そう思って。
今一度大きく深呼吸をすると、今度こそ覚悟を決めて瞳を閉じた。



ダイの指にとろりと落とされた、ジェル。
甘ったるいバニラの香りが広がって、鼻につく。

「薫…力、抜いて…」
「んっ…」

そう言って探られた、身体の奥。

「…ッ」

宥めるように入り口を濡れた指でなぞられて。
息をつめた俺の鼻の頭に口付けを落として、ダイが安心させるように微笑む。

淡いサイドランプに照らされたダイの顔は、やけに精悍で。
思わず見惚れる。

と、その瞬間くっと中に入り込んできた指。

「ん…っ」

ずるりと、飲み込まれたソレに思わず声を上げる。

「痛い?」

そうたずねてくるダイの言葉にふるふると首を横に振った。
痛くはない…けど。

「何か…気持ち悪い…」

ぞわぞわと沸き上がってくる吐き気。
異物を排泄しようとしてるのがアリアリとわかって、ダイの身体に縋り付いた手を思わず握りしめる。

「ゆっくり、するから…。力抜いて…」

かけられる言葉。
わかってはおるけど、どない力を抜いたらええんかもわからずにダイの身体にしがみつく。

「薫…」
「う、ん……」

舌で口唇をなぞられて。するりと舌が中に入り込んでくる。
簡単に俺を翻弄するキス。
甘い感触が広がって、ほんの少し異物感を忘れる。

そのまま耳朶に舌を這わされて。
瞬間、中に沈み込んでいた指が動かされて、びくりと身体を震わせる。

「薫、大丈夫やから」

力抜いて、とダイが繰り返す。
与えられる感覚にいっぱいいっぱいの俺は、どうすることも出来ずにただダイの身体に縋り付く。
改めて沸き起こった恐怖心が混乱と綯い交ぜになって、余計に俺を追いつめていく。

俺は、ダイが好きで。
ダイと繋がりたいと思ったのも紛れもない自分自身。

やけど、どうしようもなく苦しくて。痛い。辛い。

さっきまで減らず口を叩いてたのが嘘みたいに、何も言えずにただダイの身体にしがみつくことしか出来ん。
雰囲気に飲まれてもたら、って思ってたけど。どうも別の意味で飲まれてしまっているみたいで。

「ダ、イ…」

知らず零れ落ちる涙。
突然泣き出した俺の上から、ダイの焦った声が聞こえてきた。

「え、あ、ご、ごめん!そんな嫌やったんならもぉせえへんから!」

だから泣かんといて、と。ダイが矢継ぎ早に畳みかける。
と、同時に俺を包み込んでたぬくもりが不意に遠ざかって。

「や…っ」

俺は無意識のうちにダイの手を掴んだ。

 

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